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引っ越しとカルボナーラ


その朝はよく晴れていて風も爽やかで、何かよいことが起こりそうな予感に満ちていた。
朝一番で、引っ越し作業が始まった。引っ越し業者は、一人でミニバンでやってきた。車載量に一抹の不安を覚えたが、彼は手際よく荷物を積みこみ、粗大ごみをエントランスに出すと、またたく間にぼくの新居へ車を走り出させた。空っぽになった妻の旧居を眺める暇もなく、ぼくらも後を追う。

ぼくの家に段ボール箱を運び終えると、すぐに妻と荷解きを始めた。
衣服をクローゼットに収め、書籍を本棚に収め、小物類をいったんまとめ、テレビを据え付ける。段ボールはすべて開封し、畳んで庭に出した。これで一日が過ぎた。ずいぶん汗をかいた。まだ乱雑に据え置かれているものの、たった一日でここまで進捗したのは望外の達成だった。
何より、すべての所有物がきちんとぼくの家に収まったことに深く安堵していた。小さな家にしては収納のポテンシャルはあると思っていたので、きっと受け止めてくれるだろうという自信はあったものの。

これで、本当にここで「生活が始まる」と、しみじみ感じた。
今までの一人暮らしとはまるで違う家になっていく予兆も好ましく感じた。
小さな体躯でも無駄のない筋肉質を目指す感じで、勉強や創作の仕事場に適した、静かで美しい家にしよう。そして妻と幸せに過ごせる時間を増やしていこう。改めてそう感じた。
夕食にカルボナーラを作り(引っ越しパスタね、と妻が言い)、メロディ・ガルドーの古いアルバムをスピーカーで静かに流した。


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