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暗雲
予兆がないわけではなかった。
担当しているネーミングの事案で、登録商標で難渋している。
類似商標の障壁をどうクリアするかにあの手この手で頭を悩ませているのだが、クリエイティブ・ディレクターから「ブランディングを考える上で、そもそもの本質から外れている。商標をハックすることが正しいブランディングなの?」と問われて、ぐうの音も出ない。
しかし商標が取れない以上、次には進めないのでハックでもジャンプでもせざるを得ないではないのか。
昼までの抜けるような青空が嘘のように、夕暮れは厚い雲に覆われて雨が降り出した。
洗濯物を取りこみ、ベランダで日光浴させていた玉ねぎを仕舞いこむ。(玉ねぎは皮を剥いで日光に晒すとケルセチンというポリフェノールが増すと本を読んで知った)
それからリビング(仕事場を兼ねている)の音楽を止め、窓を開けて雨の音を聴く。
雨音を聴くと安らぐ気がするのはなぜだろう。遠雷が微かに響く。部屋の灯を落とすと、青白い夕闇が窓の向うに灯る。
ぼくはノートを取り出して、ふたたび新しいネーミング案を考えあぐねる。まだ光は見えないが、どこかにあるはずと信じながら。