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15時の手紙

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ささやかな昨日のできごと。
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2024年1月の記事一覧

だって宝物だもの

音声データに追われながら 妻は毎週、声楽のレッスンを受けにいく。講師の許諾を得てレッスン時の音声をすべて録音している。つまり毎週、数時間分のレッスン音源が溜まっていく。学生時代からのものを含めると膨大な容量に及ぶ。そうなるとデータ保管の方法が課題になる。iPhoneのデータ容量はすでに満載である。 そうであれば昔の音源を消去していくのか、そもそも過去の音声を聞き返すことはあるのかなど甚だ疑問だったので、妻に尋ねてみた。 「他の音楽家はどうしてるの?」 「みんな録音して保

芯はどこにある

地球を味方に ぼくと妻とピアニストが、3人で喫茶店にいる。 さっきから熱心に話しこんでいる。 妻の友人であるピアニストに、ぼくが訊ねる。 「ピアノはコンサート会場ごとに“実機”が変わるから、初めてのピアノで演奏するのは毎回大変じゃないですか」 「そうですね。短いゲネプロでそのピアノと“仲良くなれるか”なんですよね。会場での響き方も違うので」と彼女は言ったあと、「でも」と続けた。 「最近思うのは、楽譜が求めている音の芯をちゃんと指先が捉えられていたなら、本当はピアノや会

意味もなく夢中になれること。それが趣味。

それは人生の役に立つの? 夜の公園でサッカーのリフティング練習に励んでいる。 学生以来あまりに久しぶりにボールに触っているので、最初はおぼつかなかったものの、次第に100回を超えられるようになってきた。 かつては、爪先だけでちょこまかとリフトして回数を稼いでいたけれど、YouTubeで基礎学習をした結果、きちんと足の甲にミートさせ、ボールを膝や腰までの高さに上げ、できれば無回転で同じ高さをキープする方法を試している。 ボールを一定の高さに上げる分、爪先でこまめに操るよりも

冬の夜のリフティング・ワルツ

遥かな時を越えて 夜の公園にいる。空気は冷えて引き締まり、夜空が澄んでいる。この静けさ。この透徹さ。気分まで澄んでいく。 ボールが宙に跳ねた。すかさず右脚を差し出す。次は左脚。また右脚。1。2。3。ボールを脚の甲に当て、なるべく無回転で同じ高さに上げるように保つ。なるべく左右の脚で交互に打つ。同じテンポで刻めると快い。 次第に身体が温まりだす。汗ばんでくる。 冬の寒さは苦手だが、ボールを追いかけていると、もっと寒くなれ、と思える。寒さが心地よくなる。もはやそのためだけに、

思い立ったら海を見に行こう

思い立ったら よく晴れた休日の朝、妻がいった。海を見に行こう。船に乗ろう。 そして昼すぎには横浜にいた。 朝の散歩がてら駅前のデニーズでモーニングセットを食べた流れで電車に乗ったので、コートのポケットに文庫本を入れただけの軽装だった。 季節はずれの暖かい一日で、コートを思わず脱いだ。 大さん橋の屋上庭園を歩き、山下公園を歩く。横浜港の周遊船「マリーン・ルージュ」の時刻表を調べておいた。発着する赤レンガ倉庫に着くと、今の時間帯は大型船が入港するのでベイブリッジ手前の湾内を

妻の実家にて

丘の上の静かな家 正月、妻の実家に向かった。 義母と義父は、ぼくたちを温かく歓待してくれた。丘の上にある静かな一軒家。陽当たりのよい庭は手入れが行き届き、春の芽吹きを心待ちにしているようだった。 家具が少なく広々したリビングの奥に、グランドピアノが置かれている。手すさびに妻が弾く。ぼくもたどたどしくバッハのメヌエットを妻に習いながら弾いてみる。 昼ごはんに手作りの惣菜と赤飯をいただき、晩ごはんには焼肉で卓を囲んだ。妻がエプロン姿で料理の手伝いをしている。とても可愛い。