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会社から独立する際、競業を行わないという誓約書にサインしたのですが、これには絶対に従わなければいけないのでしょうか?

結論

 場合によってはそういった約束は無効になる場合があるので、絶対に従わなければならないことはありません。

私的自治と公序良俗

 誓約書にサインをしたということは、競業を行わないということを一度は認めたということですから、そのような約束は守らなければならなさそうです。

 しかし、どんな合意であっても常に守らなければならないかというとそうではなく、公序良俗(民法90条)に反するような合意は無効とされます。

(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

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 これは結局、社会はどうあるべきかという問題なのですが、裁判所は、できる限り労働者を保護する社会であるべきだと考えているようです。

 ある裁判例は、退職後の競業を制限する就業規則や誓約書などが有効となるためには、「使用者が確保しようとする利益に照らして、競業禁止の内容が必要最小限にとどまっており、かつ十分な代償措置が施されていることが必要」であると判示しています。

それぞれの対応策

 【独立した側】
 会社から独立した側としては、誓約書にサインしたり、就業規則に定めがあるからといって諦める必要はありません。

 自分の培った経験や技能を活かして、思う存分活躍することができます。

 また、同業他社に入社したいということもあるでしょうが、その場合も必要以上に萎縮する必要はありません。

 【会社側】
 他方、会社側としては、就業規則の定めや誓約書を交わすにあたり、慎重な検討が必要となります。

 その従業員は会社の何を知っていて、それが流出すると会社はどのような影響を受け、どの程度困ることになるのか、それを防ぐために何を禁止する必要があるのか、どのように禁止するのか、他に損失を防ぐ方法はないのか、競業を禁止する代わりに何をどの程度与えるのか、それは損失を防ぐに見合う代償なのか……

 「とりあえず誓約書を書かせればひとまず安心」と思って書かせた誓約書は、期待した効果は発揮しないかもしれません。

 それでも、「競業をされては困る!」という意思表示をしたということが意味を持つ可能性はあります。

 競業を禁止する就業規則や誓約書がない場合でも、「自由競争を逸脱する行為」があった場合には競業を行なったことについて損害賠償の責任を負うことになりますが、その場合と比較して、競業を禁止する意思表示をしたという事情から、「自由競争の逸脱」とは別の基準により判断がされる可能性もあると考えています。

 なので、就業規則に競業禁止の規定を設けたり、誓約書を作成する場合には専門家に相談してちゃんとしたものを作るのが一番ですが、その余裕がない場合には、「とりあえず誓約書を書かせておく」というのでもやむを得ないのかもしれません。

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