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伝えよう


「お疲れ様です」


「おう、どうしたんだよ、結婚でもしたか」


「いや、あの、そんなビックニュースではないんすよ」




アメトーークの雨上がり決死隊の解散報告会を観て、2時間という長尺のおかげか、出演者による見事なチームプレーで一つの作品と化してはいたが、要所要所におけるピンと張り詰めた空気というのはこちらの心をグサグサとえぐってくるようで。


思い返すのは、ああ、自分も人様に対してこれまでたくさんの不義理を行ってきたなあ、という反省でいたたまれなくなる気持ちで、画面上に見える当人達のやり取りを観ながら、自分でいっぱいいっぱいになっていた時期を超え、自分を奮い立たせるのに必死な現状は変わらずも、少しでも辺りを見渡せるようになったならば、今更なんて言わずに、連絡を取り、これまでの、当時の、感謝の気持ちを述べよう、と。




「あの、自分でしんどいって勝手に投げ出してしもて、今更なんですけど、ほんまに感謝してて、ありがとうございました」




自分が上手くいかんのは、あの人のせいやとか環境がどうのこうのだの、それはそれは自分の脳内で勝手なイメージが肥大化し、それに対して、こちらが勝手に恐縮しているのみで、しかし、これがなかなかずるずると自分の内側に住み着き、もちろん守ってくれてなどおらず、蝕まれているようなもんで、いくら知性を蓄えようと必死こいて本を読んでも、ことばは表面上をすいすいと滑っていくのみでございます。


日々の暮らしの中でドカンと自分の内面に響くものがあり、その響きの中で、ある他者を思い浮かべるのであれば、それは絶好のタイミングであり、少しの勇気を持って、アタックしてみれば、その先にはすいすいと滑っていったことば達が出迎えてくれたりもします。





(突然ですが占ってもいいですか?)という番組に一人の人気占い師の方がいて、このご時世ですから、対面ではなく、リモートで繋ぎ、一般の方と占いを始めるのですが、ぽろぽろと依頼者と情報を共有していく中で、ここだ、という瞬間があり、それは依頼者の心の奥にある悩みだったり、忘れられない過去のことであったり、様々なことではありますが、確実にわだかまりとなっているような事柄が、テレビを通して、こちら側視聴者にも浮き出て見えるぐらい鮮明なものになります。


その鮮明なものが対人関係のことであった際に、占い師の方は、電話でも、その依頼者の近くにいるなら呼び寄せてでも、よし、今、連絡しましょう、となります。


そして、その現場に子供から老人まで、ひょいっと現れて、三人でどうやらこうやらというのを、占い師の方が率先して、場を仕切りながら話す様子は、ねえねえ、その子気になってんでしょ、今、連絡してみなよ、ということと導入部分はほとんど大差のない、原始的なものではありますが、老若男女、年齢問わず、思っていることを丁寧かつ大胆に、そして素直に伝えることの重要さを毎度身に染みて感じさせられます。





おまけ


以前、映画館に最近興味のある台湾映画を観に行った際、上映ギリギリに劇場に到着すると、薄暗い照明の中で予告映像に顔を向けている観客はたったのおひとり様で。


大スクリーンに映し出される恋愛コメディ映画を観ながら浮かぶものは、あれ、座席に着く前にチラッと見えたさっきの人は同じ歳ぐらいの女性だったような、おい、こんなマイナーな映画で、しかも興味のある台湾のことなら共通点多いな、とか。


ハハハッとやけに大きく笑う彼女の声がこちら含め二人しかいない劇場に響く。え、アピってないよな、とか。


二時間弱の映画がエンドロールに差し掛かり、さあ、向こうも席を立つ気配はないし、これは劇場の照明が明るくなったときの勝負やな、横の座席に置いた荷物取りながら、右斜め後方に座る彼女を一瞥し、なんて声をかけるかどうか。


むしろ、こんなことそうそうないし、マイナー映画やし、いやあ、こんな人気ないもんなんすねえ、とか一言くらい声かけるのは、礼儀ちゃうやろか、とか、心臓バクバクさせながらエンドロールが終わる!!!


ほんの一瞬、劇場に照明が点き、あれこんな明るい照明やっけ、と面食らい、横の荷物を取ることもできないまま、正面の真っ暗なスクリーンに顔を向けて、身体の底から絞り出したのはしらじらしい欠伸。


コトッコトッコトと鳴るのは、右側の階段からヒールを鳴らして降りていく彼女の後ろ姿、まごうことなき、美人の有様で!!!!!!!!!!!


階段を降り、劇場の外へと出て行こうとするカーブに差し掛かった際、彼女も一瞬こちらを一瞥しましたが、彼女から見えたのは、座席から中腰で立ち上がり、前のめりになっている情けない男性の姿で、こちらから見えたのは、すぐに顔を出口に向けた反動でなびいた彼女の後ろ髪が、じゃあね、と言っている様でありました。





曲は Fly Me To The Moon 宇多田ヒカルver.を添えて。


月光浴しましょう^^

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