ショートショート 『風に乗せて』
それは駅のホームのベンチで次に来る電車を待っていた時のことで、夕暮れ時から夜にかけて空が薄暗くなってくる時で、高台にあるそこからは眺めが良く眼下に広がる一本の車道が奥まですーっと見渡せる場所で、ああ、いい空気だなあ、と、その車道に沿うようにして、目の前に両手を伸ばした瞬間のことであった。
ぷしゅっと気の抜けたような音と共に、左手の薬指から煙状のものが飛び出し、それは次第に紙飛行機の形を成しながら、ふわふわとまだ来ぬ電車のレール上を浮遊し始めた。
ホームの端に位置するベンチ