見出し画像

手牌の区画と間量について


 ここに展開されるのは、麻雀における手牌の概念を巡る、一種の空論である。本記事の目的は、麻雀の遊び方を教えることにも、麻雀の正しい姿を示すことにもなく、専ら、手牌に関する語りの曖昧さを払拭することにある。この目的は、空論が奇しくも現実に対応するとき、幾許か達成されよう。
 本記事の内容は次のように要約される。手牌の様子は区画とけん量の概念を用いて記述することができる。区画とは牌の器であり、間量とは区画の幅である。区画は伸縮し、それに応じて間量は変化する。区画に属する牌の枚数は、必ずしも間量と一致しない。

1. 手牌の一般形式と諸制約

 以下、任意の区画の間量は整数であるものとする。
 
手牌の一般形式
$${[s]_p[t]_q[u_1]_{r_1}[u_2]_{r_2}[u_3]_{r_3}\cdots}$$
 
 ここで$${p}$$は手中区画の間量、$${s}$$は手中区画に属する牌の枚数、$${q}$$は自摸区画の間量、$${t}$$は自摸区画に属する牌の枚数、一般に$${r_n}$$は第$${n}$$保蔵区画の間量、一般に$${u_n}$$は第$${n}$$保蔵区画に属する牌の枚数を表す。手中区画と自摸区画は一つずつ、保蔵区画は無限に存在する。
 以下、次の二つの制約を前提とする。

相応原理
手中区画の間量は手中区画に属する牌の枚数に等しい。

間量保存則
$${p}$$を手中区画の間量、$${q}$$を自摸区画の間量、一般に$${r_n}$$を第$${n}$$保蔵区画の間量とするとき、$${p+q+Σ_{n=1}^\infty(r_n)}$$は常に一定である。

 間量保存則が成り立つとき、$${p+q+Σ_{n=1}^\infty(r_n)}$$を保存間量と呼ぶ。
 以下、$${c}$$を保存間量とする。
 このとき、手牌の一般形式は改めて次のように記述される。
 
手牌の一般形式
$${[s]_s[t]_{c-s-Σ_{n=1}^\infty(r_n)}[u_1]_{r_1}[u_2]_{r_2}[u_3]_{r_3}\cdots}$$
 
 以下、次の二つの制約を前提とする。

無用原理
属する牌の枚数が$${0}$$である保蔵区画の間量は$${0}$$である。

逐次原理
任意の正の整数$${n}$$について、第$${n}$$保蔵区画に属する牌の枚数が$${0}$$であるならば、第$${n+1}$$保蔵区画に属する牌の枚数は$${0}$$である。

 このとき、属する牌の枚数が$${0}$$である保蔵区画は、便宜のため記述の上では省略する。

2. 自摸区画の余間量

 間量から属する牌の枚数を減じた値を余間量と呼ぶ。
 このとき、自摸区画の余間量が$${1}$$より大きいことを過開放、$${1}$$であることを開放、$${0}$$であることを閉塞、$${0}$$より小さいことを過閉塞と呼ぶ。
 また、過開放の手牌を過開放形、開放の手牌を開放形、閉塞の手牌を閉塞形、過閉塞の手牌を過閉塞形と呼ぶ。
 以下に$${c=14}$$として具体例を挙げる。

過開放形
例01:$${[0]_0[0]_{14}}$$
例02:$${[4]_4[0]_{10}}$$
例03:$${[8]_8[0]_6}$$
例04:$${[12]_{12}[0]_2}$$

開放形
例05:$${[13]_{13}[0]_1}$$
例06:$${[12]_{12}[1]_2}$$
例07:$${[11]_{11}[0]_1[2]_2}$$
例08:$${[10]_{10}[0]_1[3]_3}$$
例09:$${[10]_{10}[0]_1[4]_3}$$
例10:$${[9]_9[1]_2[4]_3}$$

閉塞形
例11:$${[14]_{14}[0]_0}$$
例12:$${[13]_{13}[1]_1}$$
例13:$${[12]_{12}[0]_0[2]_2}$$
例14:$${[11]_{11}[1]_1[2]_2}$$
例15:$${[11]_{11}[0]_0[3]_3}$$
例16:$${[10]_{10}[1]_1[3]_3}$$
例17:$${[10]_{10}[1]_1[4]_3}$$

過閉塞形
例18:$${[14]_{14}[1]_0}$$
例19:$${[16]_{16}[0]_{-2}}$$

3. 手牌変化の解釈

 本節では、前節で挙げた具体例を用いて、実際の手牌変化を解釈する。

3.1. 配牌

 配牌は、例えば過程01として解釈し得る。

過程01
$${[0]_0[0]_{14}}$$(例01:過開放)
$${[4]_4[0]_{10}}$$(例02:過開放)
$${[8]_8[0]_6}$$(例03:過開放)
$${[12]_{12}[0]_2}$$(例04:過開放)
$${[13]_{13}[0]_1}$$(例05:開放)

 跳板は、例えば過程02・過程03として解釈し得る。

過程02
$${[12]_{12}[0]_2}$$(例04:過開放)
$${[14]_{14}[0]_0}$$(例11:閉塞)

過程03
$${[12]_{12}[0]_2}$$(例04:過開放)
$${[13]_{13}[1]_1}$$(例12:閉塞)

3.2. 摸打

 自摸は、例えば過程04・過程05として解釈し得る。

過程04
$${[13]_{13}[0]_1}$$(例05:開放)
$${[13]_{13}[1]_1}$$(例12:閉塞)

過程05
$${[10]_{10}[0]_1[4]_3}$$(例09:開放)
$${[10]_{10}[1]_1[4]_3}$$(例17:閉塞)

 打牌は、例えば過程06・過程07・過程08として解釈し得る。

過程06
$${[14]_{14}[0]_0}$$(例11:閉塞)
$${[13]_{13}[0]_1}$$(例05:開放)

過程07
$${[13]_{13}[1]_1}$$(例12:閉塞)
$${[13]_{13}[0]_1}$$(例05:開放)

過程08
$${[13]_{13}[1]_1}$$(例12:閉塞)
$${[12]_{12}[1]_2}$$(例06:開放)
$${[13]_{13}[0]_1}$$(例05:開放)

 過程08の本質は例12から例06への遷移にあるが、このとき、例06は自動的に例05へ遷移する。よって、ここでは例05までを打牌の過程と見なす。
 アタマの直後の打牌は、例えば過程09として解釈し得る。

過程09
$${[12]_{12}[0]_0[2]_2}$$(例13:閉塞)
$${[11]_{11}[0]_1[2]_2}$$(例07:開放)

 吃・碰・加碰の直後の打牌は、例えば過程10として解釈し得る。

過程10
$${[11]_{11}[0]_0[3]_3}$$(例15:閉塞)
$${[10]_{10}[0]_1[3]_3}$$(例08:開放)

3.3. 副露

 アタマは、例えば過程11として解釈し得る。

過程11
$${[13]_{13}[0]_1}$$(例05:開放)
$${[12]_{12}[0]_0[2]_2}$$(例13:閉塞)

 吃・碰は、例えば過程12として解釈し得る。

過程12
$${[13]_{13}[0]_1}$$(例05:開放)
$${[11]_{11}[0]_0[3]_3}$$(例15:閉塞)

 加碰は、例えば過程13・過程14として解釈し得る。

過程13
$${[11]_{11}[1]_1[2]_2}$$(例14:閉塞)
$${[11]_{11}[0]_0[3]_3}$$(例15:閉塞)

過程14
$${[11]_{11}[1]_1[2]_2}$$(例14:閉塞)
$${[10]_{10}[1]_1[3]_3}$$(例16:閉塞)
$${[11]_{11}[0]_0[3]_3}$$(例15:閉塞)

 過程14の本質は例14から例16への遷移にあるが、このとき、例16は自動的に例15へ遷移する。よって、ここでは例15までを加碰の過程と見なす。
 暗槓は、例えば過程15・過程16・過程17として解釈し得る。

過程15
$${[14]_{14}[0]_0}$$(例11:閉塞)
$${[10]_{10}[0]_1[4]_3}$$(例09:開放)

過程16
$${[13]_{13}[1]_1}$$(例12:閉塞)
$${[10]_{10}[0]_1[4]_3}$$(例09:開放)

過程17
$${[13]_{13}[1]_1}$$(例12:閉塞)
$${[9]_9[1]_2[4]_3}$$(例10:開放)
$${[10]_{10}[0]_1[4]_3}$$(例09:開放)

 過程17の本質は例12から例10への遷移にあるが、このとき、例10は自動的に例09へ遷移する。よって、ここでは例09までを暗槓の過程と見なす。
 小明槓は、例えば過程18・過程19として解釈し得る。

過程18
$${[10]_{10}[1]_1[3]_3}$$(例16:閉塞)
$${[10]_{10}[0]_1[4]_3}$$(例09:開放)

過程19
$${[10]_{10}[1]_1[3]_3}$$(例16:閉塞)
$${[9]_9[1]_2[4]_3}$$(例10:開放)
$${[10]_{10}[0]_1[4]_3}$$(例09:開放)

 過程19の本質は例16から例10への遷移にあるが、このとき、例10は自動的に例09へ遷移する。よって、ここでは例09までを小明槓の過程と見なす。
 大明槓は、例えば過程20として解釈し得る。

過程20
$${[13]_{13}[0]_1}$$(例05:開放)
$${[10]_{10}[0]_1[4]_3}$$(例09:開放)

3.4. 反則

 配牌の直後の打牌は、例えば過程21として解釈し得る。

過程21
$${[13]_{13}[0]_1}$$(例5:開放)
$${[12]_{12}[0]_2}$$(例4:過開放)

 跳板の直後の自摸は、例えば過程22として解釈し得る。

過程22
$${[14]_{14}[0]_0}$$(例11:閉塞)
$${[14]_{14}[1]_0}$$(例18:過閉塞)

 配牌中の過剰な取得は、例えば過程23として解釈し得る。

過程23
$${[12]_{12}[0]_2}$$(例4:過開放)
$${[16]_{16}[0]_{-2}}$$(例19:過閉塞)

4. 和了形の解釈に向けて

 前節で解釈を示さなかった手牌変化の一つに、和了がある。手牌変化としての和了は聴牌形から和了形への遷移と考えられるが、筆者は結局、和了形をどのように記述すべきなのか分からなかった。和了形は恐らく閉塞形として解釈し得る。しかし、摸和において和了牌は自摸区画から手中区画へ転属するのか、乃至、攏和において和了牌は保蔵区画へ転入するのか、といったことについては、然るべき結論を導くことができなかった。これより先の議論には、少なくとも聴牌形における手中区画内部の解釈が要求されよう。


いいなと思ったら応援しよう!