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【論文レビュー】メタアナリシス:心理的安全性
心理的安全性第2弾、今回は、心理的安全性に関するメタアナリシス(メタ分析)を見ていきたいと思います。
そもそもメタアナリシスって何?
メタアナリシスとは?:既存研究の結果を統合することで、全体としての効果やパターンを明確にする統計手法。メタアナリシスでは、特定テーマの研究結果を数値化して示す。
レビュー論文との違い:レビュー論文は、言葉を使って特定テーマに関する既存研究を定性的な手法で整理・批判的に評価する。
by ChatGPTさん
なんとなく違いは認識していたつもりでしたが、これで頭の整理ができました。
↓前回のまとめは、レビュー論文(システマティックレビュー)でした。
というわけで、今回は数値でまとめた結果を示してくれるメタアナリシスです。Publishはレビュー論文と同じ2017年です。
参考論文
Frazier, M. L., Fainshmidt, S., Klinger, R. L., Pezeshkan, A., & Vracheva, V. (2017). Psychological safety: A meta‐analytic review and extension. Personnel Psychology, 70(1), 113-165.
ざっくりまとめ
本論文では、心理的安全性が従業員のパフォーマンスや組織市民行動(OCB)、学習行動に与える影響を統合的に分析した。
136のサンプルを対象に、心理的安全性が高い職場環境では従業員がリスクを取りやすくなり、業務成果が向上することが示された。
リーダーとの良好な関係、仕事の特徴、支援的な職場環境が心理的安全性の主要な先行要因として特定された。
文化的背景の影響としては、高不確実性回避(Uncertainty Avoidance;UA)文化の国において心理的安全性が仕事の成果に与える影響が強い。
心理的安全性は、独自の予測因子として仕事の成果に寄与する。
どんな内容?
類似概念との違い
心理的エンパワーメント、ワークエンゲージメントは特定の仕事やタスクについての認知(Spreitzer, 1995)であり、心理的安全性は働いている環境全体への認知(Carmeli & Gittell, 2009)
信頼は他者にリスクをとっても大丈夫と思えることであり、心理的安全性は自分がリスクを取ってもこの職場は大丈夫と思えること(Edmondson, 2004)
方法
心理的安全性に関する先行要因や結果変数との関連を検証した136の実証研究(22,000名以上の個人と所属する約5,000のグループ)をもとに、その関連性を統計的に評価した。分析は個人レベル、グループレベルにわけて行っている。
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個人レベルの分析
個人回答をそのまま用いて分析した。
先行要因では、以下のものと有意な相関があった。
・個人特性のうち、積極的パーソナリティ(ρ = 0.35)、感情安定性(ρ = 0.17)、学習志向性(ρ = 0.24)、経験への開放性は相関なし
・リーダーとの良好な関係(ρ = 0.44)のうち、インクルーシブリーダーシップ(ρ = 0.36)、変革型リーダーシップ(ρ = 0.42)
・仕事の特徴のうち自律性(ρ = 0.47)、相互依存性(ρ = 0.86)、役割の明確性(ρ = 0.63)
・支援的な職場環境(ρ = 0.49)のうちピアサポート(ρ = 0.62)
結果変数では、以下のものと有意な相関があった。
・ワークエンゲージメント(ρ = 0.45)、パフォーマンス(ρ = 0.43)、情報共有(ρ = 0.52)、組織市民行動(ρ = 0.32)、創造性(ρ = 0.13)、学習行動(ρ = 0.62)、コミットメント(ρ = 0.48)、満足度(ρ = 0.53)
![](https://assets.st-note.com/img/1723827340745-0RUhpsiaEj.png?width=1200)
グループレベルの分析
個人の回答をチームや職場の単位ごとにまとめて分析を行った。
先行要因では、以下の結果であった。
・個人特性では、学習志向性のみ(ρ = 0.40)その他:データ不足
・リーダーとの良好な関係(ρ = 0.39)、仕事の特徴(ρ = 0.35)、支援的な職場環境(ρ = 0.51)は個人レベルと同様に、心理的安全性と正の有意な関連あり
・支援的な職場環境では、ピアサポートが最も大きな効果サイズ(ρ = 0.49)
結果変数は以下の結果であった。
・ワークエンゲージメント(ρ = 0.44)、パフォーマンス(ρ = 0.29)、情報共有(ρ = 0.50)、創造性(ρ = 0.29)、学習行動(ρ = 0.52)、満足度(ρ = 0.69)
・組織市民行動、コミットメント:データ不足
心理的安全性の独自性
心理的安全性は、従業員のパフォーマンスやOCBにおいて独自の予測力を持つ。一方、特定の状況では他の要因(LMXや自律性)が同じあるいはそれ以上に重要になる。
文化的な違いの影響
ワークエンゲージメント、パフォーマンスへの影響は、高不確実性回避(UA)文化でより強く(ρ = 0.58)(ρ = 0.78)、文化的な背景が心理的安全性に影響を与えることが確認された。
考察
先行要因の多くの仮説(個人特性、リーダーとの良好な関係、仕事の特徴、支援的な職場環境)は支持されたが、経験への開放性は予想に反して心理的安全性との関係がないという結果となった。経験への開放性が高い人々は、独立した思考を持ち、新しいアイデアに前向きで現状に挑戦する傾向がある(Zhou & George, 2001)。そのため心理的安全性を気に掛けない可能性がある。
また、結果変数では、エンゲージメント、パフォーマンス、満足度、コミットメントは有意に関連し、組織市民行動は中程度、創造性は比較的弱いものであった。今回の研究での大きな発見は、心理的安全性が結果として特に情報共有と学習行動と強い関係を持つことである。
学び
先行要因のリーダーシップの他、支援的な組織風土としての相互依存、ピアサポートの重要性が興味深かったです。心理的安全性の醸成において、管理職は、リーダーシップ行動+支え合える環境づくりを考えることが重要なのだと感じました。
また、メタアナリシスで数値で影響度の違いを可視化できることはレビュー論文とは異なる理解の深まりを感じました。
加えて、日本は不確実性回避(UA)が高い国なので、組織における心理的安全性の重要性を改めて感じました。一方で、そうした文化背景による規則の厳格化を敷く傾向が「脇道へ逸れる意見への拒絶・恐れ」を生むジレンマも感じます。