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【論文レビュー】多様性の尊重:インクルーシブリーダーシップの概念の深化

今回は、インクルーシブリーダーシップ(IL)の概念をより深めた論文を見ていきたいと思います。
この論文では、筆者のRandelらが、ILの定義を過去研究が示した心理的安全性の確保(Carmeli et al., 2010)からメンバーの多様性の尊重まで拡張しています。社会的な多様性重視の流れも手伝って、研究がさらなる進化を続けている領域ではありますが、ここではどのようなことが明らかになったか確認しましょう。

参考文献

Randel, A. E., Galvin, B. M., Shore, L. M., Ehrhart, K. H., Chung, B. G., Dean, M. A., & Kedharnath, U. (2018). Inclusive leadership: Realizing positive outcomes through belongingness and being valued for uniqueness. Human Resource Management Review, 28(2), 190-203.
インクルーシブリーダーシップ:帰属意識と独自性の尊重によるポジティブな成果の実現

ざっくりまとめ

  • この論文は、既存の理論、研究を基にILの概念を体系化することを目的としたコンセプチュアルペーパー(概念論文)であり、ILに関する理論的枠組み構築を試みている

  • ILを最適識別理論と社会的アイデンティティ理論に基づき「メンバーがグループの一員としての帰属意識を感じながら個性(独自性)を保ち、グループプロセスや成果に貢献できるためのリーダー行動のセット」と定義してその意味を拡張している

  • 既存のリーダーシップスタイルの特徴とILとの違いから、ILが補うものを示した

  • ILの先行要因として、「多様性に対する積極的な信念」、「謙虚さ」、「認知的複雑さ」がある。これらが従業員の心理的安全性やパフォーマンスにポジティブな影響を与えることを示唆している

どんな内容か?

リサーチクエスチョン

インクルーシブリーダーシップが、従業員の帰属意識と個性の尊重を通じて、どのようにして多様なチームの有効性を高めるか?

ILの理論的モデル

ILの定義

  • まずは中心概念であるインクルージョンの定義:「従業員が、帰属意識と独自性のニーズを満たす扱いを受けることによって、自分が職場グループの尊敬されるメンバーであると認識する度合い」(Shore et al.,2011)

  • この定義は社会的アイデンティ理論を拡張した最適識別理論に理論的に基づいており(Brewer, 2012)、ILは個人の帰属意識と独自性の両方に対応する必要がある

ILの概念化

  • 過去10年間の研究を踏まえて、より包括的にILを理解することを目指してグループ内での帰属意識と独自性に対するメンバーの認識に応えるリーダー行動に着目した。メンバーは、リーダーがインクルーシブであるかを、自分の扱いだけでなく、他のメンバーがどう扱われているかも観察して認識する

インクルーシブリーダーシップ行動

  • ILとインクルージョンに関する文献をレビュー、理論拡張することでIL行動を3つの「帰属意識」と2つの「独自性」に分類・特定した

  • 帰属意識の促進

    • グループメンバーの支援:メンバーを快適に感じさせ、彼らの最善の利益を考慮していると示す(Mor Barak & Cherin, 1998; Nembhard & Edmondson, 2006)

    • 公正さと公平さの確保:グループメンバーを公平に扱うことで、彼らがグループの尊敬される一員であることを示す(Lind & Tyler, 1988; Sabharwal, 2014; Shore et al., 2011)

    • 意思決定の共有:権力の共有、意思決定に関する広範な相談、仕事の進め方を決定する際にメンバー全員の参加させる(Mor Barak & Cherin, 1998; Nembhard & Edmondson, 2006; Nishii, 2013; Roberson, 2006)

  • 独自性の尊重

    • 多様な貢献の奨励:個々の経験や視点を重視し、発言しやすい環境を作ること。独自の意見の価値が認識されるために重要である(Mor Barak & Daya, 2014; Shore et al., 2011; Winters, 2014)

    • メンバーの貢献を引き出す:メンバーが自分の能力や意見を十分に発揮できるよう支援すること。それにより、グループの多様性が効果され、全員が貢献できるようになる(Roberson, 2006)

ILと他のリーダーシップスタイルとの比較

  • 変革型リーダーシップ、エンパワーメントリーダーシップ、サーバントリーダーシップ、オーセンティックリーダーシップ、リーダー-メンバー交換(LMX)理論の特徴と、それらがカバーしない要素を補うものとしてILとの違いを説明している

各リーダーシップスタイルの特徴とILとの違い

理論

リーダーの特性がILにどのように関連するか(先行要因)、ILがメンバーの行動結果にどのように影響を与えるかについて述べる

1. リーダーの特性
ILに影響を与えるリーダーの先行要因として、「多様性に対する積極的な信念」、「謙虚さ」、「認知的複雑さ」が挙げられる

  • 多様性に対する積極的な信念:多様性がグループに良いと信じるリーダーは、異なる視点や背景を積極的に取り入れようとするため、メンバーの帰属意識と独自性の価値を高める (Hogg & Terry, 2000)

  • 謙虚さ:謙虚なリーダーは、他者の独自性や強みを尊重するため、ILに向いている (Nielsen, Marrone, & Slay, 2010)

  • 認知的複雑さ: 認知的複雑さが高いリーダーは、他者を多面的に捉え、多様な特徴や能力を理解し、グループの成果に結びつける (Bieri, 1955)

2. ILとメンバーのインクルージョン認識
リーダーがメンバーの帰属意識を促進し、独自性を評価する行動を取ることで、メンバーは自分がグループに含まれていると感じる。メンバーがグループ内でインクルージョンを強く認識すると、自己同一化と心理的エンパワーメントを通じて、創造性やパフォーマンス向上、離職率の低下に繋がる

考察

  • ILは、多様なチームにおいて従業員の独自性を尊重しつつ、帰属意識を高めることで、創造性やパフォーマンスを向上させる重要な要素である

  • リーダーの個人的特性がこのプロセスにおいて重要な役割を果たす

学び

  • ILを発揮するリーダーの特性(先行要因)や他のリーダーシップスタイルとの違いが学びになりました。

  • この論文では、ILをメンバーの帰属意識、多様性を尊重し、心理的安全性から一歩進んでメンバーの貢献に資するものと定義しているところが、シェアド・リーダーシップなグループを作るためのリーダーシップ=ILと言えるかと感じました。その関連も今後探っていきたいです。

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