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【論文レビュー】研修、やって終わりはダメ:研修転移
研修転移について2つ目の論文です。
先日はシステマティックレビューで包括的に研修転移を見ていましたが、今回は実証研究でより研修設計に参考になる内容です。
先日のまとめはこちら↓
参考文献
Saks, Alan M., and Monica Belcourt. 2006. “An Investigation of Training Activities and Transfer of Training in Organizations.” Human Resource Management 45(4): 629-648.
組織における研修活動と研修転移に関する調査
ざっくりまとめ
組織が実施する研修前、研修中、研修後の活動が、研修転移にどのように影響を与えるかを検討している
結果として、研修転移に最も影響を与えるのは、研修後の組織と上司による支援であり、研修中の同一要素の提供(研修内容がリアルを反映していること)も重要な役割を果たすことが示された
研修前、中、後の活動がそれぞれ研修転移に有意な影響を持つことが確認され、これにより研修設計において各段階の活動が重要であることが明らかになった
どんな内容か?
リサーチクエスチョン
組織は、研修前、中、後に研修転移を促進するためにどのような活動をどの程度実施しており、これらの活動が研修転移にどのように関連しているのか?
研究デザイン
対象:カナダの大規模な研修・人材開発協会のメンバー150名。いずれも人事担当者などの研修に携わる者であり、構成は57%が女性で、平均年齢は42歳。研修・人材開発領域での平均勤務年数は10.5年
方法、尺度:RQを解明すべく、独自尺度を用いて以下2点について調査した
参加者の転移:研修直後、6ヶ月後、1年後の3つの時点で従業員(参加者)が研修内容をどの程度適用したかを研修実施者が10段階評価で評価した
研修活動:研修実施者が、自分たちが行っている研修プログラムにおける活動(研修前、中、後で行う活動)がどの程度行われているかを評価した
結果
探索的因子分析:
研修前活動では4因子(参加者の準備、参加者の関与と参加、上司の関与、研修出席ポリシー)が、研修中活動では1つの因子(7つの因子で1つ)が、研修後活動では4因子(組織の支援、上司の支援、評価とフィードバック、参加者のアカウンタビリティ)が抽出された
回帰分析:研修前活動は、研修転移の21%を説明する。特に、上司の関与、参加者の関与と参加が有意な影響を示した。研修出席ポリシーは有意性がぎりぎりのレベルであり、参加者の準備は研修転移に対してほとんど影響を与えない
研修中活動は、研修転移の20%を説明する。同一要素の提供(研修中の内容が実際の職場環境に類似していること)が研修転移に対して最も強い有意な影響を持ち、参加者が学んだ内容を職場で効果的に適用する上で重要な役割を果たす。刺激の多様性(研修内容のバリエーション)、一般原則(特定スキルや理論のインプット)、フィードバック、正の強化(参加者が学んだ行動や成果を積極的に評価すること)、目標設定、巻き戻し防止は有意な影響を示さなかった
研修後活動は、研修転移の24%を説明する。組織の支援が最も強く影響し、上司の支援も一定の影響を及ぼしており双方が総合的に研修転移に寄与する。評価とフィードバック、参加者のアカウンタビリティは、有意な影響を示さなかった
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考察
研修転移に関する問題が依然として存在することを示しており、特に研修後活動が研修転移に大きく貢献することを明らかにした
組織が研修転移を促進する活動を増やすことで、研修効果を長期的に維持することができる可能性があることを示唆した
学び
あらためて、転移にはフォローアップが重要でやりっぱなし研修はダメということがわかりました。インストラクショナルデザインなどを学ぶと、研修コンテンツに意識が行きがちですが(もちろん興味を惹起するのが大切であることは前提)、研修に入る前、終わった後の支援が最も影響があるということは心に刻みたいです(研修実践者はやって燃え尽きがち…)
また、内部実践者としては、組織の支援として、研修で出た小さな質問・疑問も丁寧にフォローすることや、アクションに落とし込みやすいツールの提供、上司からのフォローメッセージや1on1での進捗確認など(ある意味プレッシャー)も込みで研修設計すべきと思いました。組織の自走支援としてもしっくりくる結果でした。CCの巻き込みが大事ですね。
実務に関連が深いので、やっぱり研修にまつわる先行研究は面白いなと思いました。
またレビューしたいと思います!