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itと呼ばれた子

これは、本の題名です。
この本の主人公(著者)が置かれた立場に、
なぜかとても共感した覚えがあります。

1998年にアメリカで出版されたこの本は、作者自身が母親から受けた虐待の様子を描いたノンフィクションで、全米で話題になりました。

この本には、壮絶な虐待の様子が描かれています。
まるで過酷な戦場を描写しているかのように残酷です。その残酷さに、多くの人が反応したのだと思います。
まさに、母親は『鬼畜』『悪鬼』。
そうした敵に追われる環境から抜け出すサマが、サバイバル大好きアメリカ人に受けたのでしょう。

この本が話題になった後、実弟や母方の祖母から、虐待の描写が虚偽であると告発され、この本の内容は、作者の創作であり、虚偽であるということでも話題になったようです。
反対に、虚偽を訴えた弟と別の弟が、作者が保護されて家を出て行ったあと、母親のターゲットになって虐待を受けていたということを告発する本が出され、それも話題になったそうです。

さて、真実は如何に?

他国のことですし、育児文化も、社会背景も違うので、一概に言えないのですが、私は、この本を読んで、自分がこの作者と同じ経験をしてきたと感じたことを覚えています。

私は作者のような残虐な虐待を受けたわけではありません。
母は、私の身体に傷一つ付けたことはありません。
手をピシャンとされたことはあったかもしれませんが、ちょっとたしなめるくらいで、暴力的ではありませんでしたから、母が身体的虐待をおこなったという記憶は一切ありません。
むしろ、そういうところは徹底していたと思います。
『バカ!』などの暴言を吐かれた記憶もほとんどありません。
言葉遣いにはうるさかったから、母自身がそんな言葉を使うことはありませんでした。
では、この本の虐待と何が共通しているのか?
それは、前にも記事にした『存在の無視』『存在の否定』なのです。

著者は、兄弟がたくさんいるにもかかわらず、1人だけ家に入れてもらえなかったり、物扱い(it呼ばわり)されてしまいます。
母親は、他の兄弟には愛情を注ぐ余裕があるのに、敢えて著者ひとりの存在だけを否定するのです。
それも著者に何か原因があるわけではなく、母親の気分次第で。
そんな扱いを受けていれば、やさぐれて、非行に走ってもおかしくありません。
祖母はそのことを取り上げて、本人に、家出をしたり、物を盗んだりする癖があったから、母親は厳しくしていたのだ、と、母親を擁護しています。
しかし、著者が非行に走る原因を作ったのは誰なのでしょうか?
そもそも、その『非行』は家から追い出されて仕方なく居場所を探していただけではないのでしょうか?

また、母親が、自分の子を虐待せざるを得ないような心理的状況に追い込まれていた原因に、祖母の育て方は影響していなかったと言えるのでしょうか?

母から子へ、祖母から母へ、虐待の連鎖が行われていたとして、明るみに出るのは、耐えられなかった最終被害者の子ども。
連鎖の前段階は、証明できるものは何も無い。
だから、その一因であったかもしれない祖母が『嘘だ』と主張し、母親に可愛がられて良い思いをしていた弟が、兄の行動に原因があったと主張するのは、本末転倒な話です。

もしかしたら、祖母も、弟も、悪いことをした自覚が心の片隅にあるからこそ、頑なに認めたくなかったのかもしれません、

子どもは生まれた時は無垢です。
虐待事件で、子どもの方に原因があることなど、100%あり得ません。
育てにくさなどで苦労はする親はいるでしょうが、それが虐待して良い理由にはならないし、育てにくい子どもであっても、子どもには何の責任も無いのです。
育てにくい子どもを育てるとき、誰かに助けを求めることは重要だけど、助けを求められないからといって虐待に走るのは大きな間違いです。

この本の母親は、主人公が家を出た後、ターゲットを弟に移して虐待を続けているので、子どもに原因があったとは絶対に言えず、母親の憂さ晴らしに子どもを利用していたと言えるでしょう。

調べたところ、母親は、著者とは疎遠のまま、心臓発作で早逝したそうです。
母親自身、とても不幸な人だったのだと思います。

親が、
子どもの存在を軽んじる。
子どもの存在を否定する。
子どもの存在を無視する。

身体的虐待も、心理的虐待も、性的虐待も、ネグレクトも、方法はどうであれ、根本的には、親が子どもの存在を疎ましく思い、子どもの生きる力を奪うところに、大きな問題があるのです。

親で無い人に殴られたとしても、それを庇う親がいれば、子どもは立ち直れます。
しかし庇うべき親に殴られたら、子どもは生きる意味を失います。
つまり、殴られたかどうかが問題なのではなくて、その存在を軽んじられたことが問題なのです。

私は殴られたり、家を追い出されたりしたわけでは無いけれど、存在を軽んじられてきたことが、この本の主人公と共通しているところであって、それこそが虐待の本当の『問題点』なのだと思うのです。

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