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ティラノサウルスと銀杏

7時20分 携帯のアラームが鳴る。また朝が来た。横を向くとジュラ郎と目が合う。このクソ寒いなか、布団にも入らず呑気な顔をしている。
ジュラ郎くん、寒くないのかい? え? 氷河期と比べたらどってこともないだって? あぁなるほどなぁ。
彼から6000万年前に起きた隕石衝突によって地球は雲に覆われ氷河期が始まった、という説明を聞いているうちに、耐えきれなくなり二度寝をする。

7時40分 テレビの音で起きる。ジュラ郎くんがつけたようだ。今日は仕事なので起きる。テレビの前まで行くとすでにみんなが起きていた。
今日は1日晴れ。気温も過ごしやすいらしい。憂鬱というほどではないが、最近は少し疲れた。
しっかり者のプーくんから今日の予定を聞いて、出発の準備をする。奥さんが起きてきた。ガムを食べて出かけるとする。

8時20分 爆音のイヤホンをはめて電車に乗る。電車は嫌だが、始発駅なので座れるのがせめてもの救いだ。座って目を瞑り、舌を噛まないことに集中する。ガムにもう味はない。
ふと横に座っている中年の女性に話しかけられた気がした。イヤホンが爆音なのでなんと言っているかよく分からないが、どうやら僕の生まれを聞きたいらしい。
僕が千葉県の柏市出身であること、千葉県は落花生が有名なこと、耳にイヤホンが入っているからよく聞こえないこと、家にジュラ郎くんたちがいること、そしてそのジュラ郎くんは氷河期を耐えぬいた存在であることを説明した。
目を開けるとちょうど降りる駅だったので降りる。9時45分。

10時 仕事にとりかかる。やることは明確だ。頭を使って機能通りに作ればよい。またガムを口に放り込み画面に集中する。
業務を続けていると、暖房が強いのか、体が熱いことに気づく。吹き出る汗をハンカチで拭いていると、「1億年前は今より10℃くらい気温が高かった」とジュラ郎くんが話しだした。二酸化炭素の濃度も今より高く、もっと息苦しい世界だったという。

-当時はシダ植物ばっかだった
-哺乳類は小さい生き物ばかりで、ヒトなんてここ20万年の新参者なんだ
-日本は大陸と地続きで千葉県なんてなかった
-けど地磁気の逆転を示すチバニアンって地質はすごいと思う

ジュラ郎くんが話していると、同僚から肩を叩かれた。どうやら昼食の時間らしい。12時20分。

会社の外に出て、毎日かわらない素うどんを食べ、ガムを買って戻る。12時50分。

13時 ガムを口に放り込む。
さっそくジュラ郎くんが話している。恐竜にピーナッツアレルギーがないか気になるらしい。
1億年前にピーナッツバターはないが、落花生に似た植物はあっただろうから、たぶん大丈夫なんじゃないかと答えた。
そうだ。当時ならイチョウが繁栄していたから、銀杏は食べなかったのか?えぇ? あんな臭いものは食べる気にならない? いやぁ、銀杏は食べすぎるとバカになるが、チンしたあとに塩をふって食べるとあれほど美味しいものはないものだよ。まぁ、落花生ほどではないけどね。うん? そういえば、ティラノサウルスは肉食ではないのかな?

15時 打ち合わせが始まってもジュラ郎くんは喋っている。ヒトがティラノサウルス並に大きくなったとしたら、一日どれくらい落花生を食べないといけないかとか、逆にティラノサウルスの重さ分の落花生があったら、それを何日で食べきることができるかとか。なんとかなんとか。
打ち合わせの間に質問をうけたような気がしたが、爆音のせいでなんと言っているかわからない。仕方がないので、横にいるプーくんが耳打ちすることをそのまま話す。16時。

席に戻る。

同僚から声をかけられる。22時。
…ガムを噛まなかったからだ。視界の遠くにぐったりしているジュラ郎くんと、それを見守るプーくんが見えた。

「もう頃合いだよ」
プーくんが悲しそうに頷く

僕はむんずとジュラ郎を掴み、帰る準備をすることにした

編集:べみん
記事:アカ ヨシロウ

駆け出しのライターとして出会ったメンバーたちが、毎回特定のテーマに沿って好きなように書いていく「日刊かきあつめ」です。
今回のテーマは「#今日やったこと」です。


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