電車で釣りをする青年【短編小説#14】

青年は電車の中で釣り糸を垂らしていた。

窓を見ながら、冬の15時の空はなんだか寂しい色をしていると思った。

すると、隣りに座っていたおじいさんが声をかけてきた。

「どうですか、釣れそうですか。」

釣り糸を垂らしているが、ずっとひっかからないと答えた。何かが釣れそうな気がする。いや、釣れると信じている。が、まだ釣れそうにない。

「この先、この電車は海の上を走りますよ。そこまで行くと釣れるかもしれませんね。」と励ましてくれた。おじいさんは目を閉じて眠り始めた。

電車は進んでいく。この電車は海の上を走るのか、それも悪くないなと思った。

釣り糸を垂らす時間は我慢の時間だ。待てば釣れる時もあるし、待てども釣れない時もある。

そうこうしている内に電車は海の上を走り始めた。するといつの間にか、隣のおじいさんは起きていて、声をかけてきた。

「海は平らに見えて、よく見ると波立ってるんです。静かに見えて動いています。捉えるなら細かな点まで見ることです。」と話した。

その時、釣り糸がひっぱられる感覚がした。

「さあ、一度ひっぱってごらんなさい。もし形にならなかったら、また何度でも釣り糸を垂らしに来たらいいのです。」

白ひげをはやした笑顔のおじいさんは優しく声をかけてくれた。

僕は脳に吊るしていた糸をひっぱった。

小さなアイデアがくっついていた。

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