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地球の心音【短編小説#28】

ここ最近、地球の心音が著しく弱い。
鼓動が聞こえにくくなっている。

医者の顔が曇っており、その表情を見る国連環境計画の職員も心配な顔をしている。

医者は地面に当てていた、聴診器を外した。

「正直、かなり厳しい状況だと思います。以前は体調を崩してもまた元に戻っていたんですが、ここ一年はずっと悪い調子です。」

動物以外の心音を聞き取れる聴診器を持つ、その医者は額の汗を拭った。地球の心音を聞き取れる場所は限られており、赤道付近とされているが、場所は公表されていない。

職員も懇願するように状況を伝える。

「各国が協力をして、持続可能な取り組みを推進しているのですが、紛争や化学兵器の開発、環境破壊が負荷をかけてしまっています。なんとか各機関と協力して軍縮や紛争解決に取り組んでいるのですが、遅々として進まない状況です。」

「取り組みは高く評価するのですが、あまりにも状況が改善しておりません。私にとっては地球は大事な患者なんです。その患者が悲鳴をあげている。もういっそのこと少しの間、寝て休ませてあげたいですよ。」

「状況の改善に向けて、全力を上げて取り組みますので、もうしばらく薬の投与で状況を見ていただけないでしょうか。」

「そう言い続けて一体何年になるんですか。このままでは本当に手遅れになります。。かなり酷使しています。このまま年内に状況が変わらないのであれば、我々としては最終手段を取らざるを得ません。」

「それだけは、、取るにしても各国からの承認を、、」

「何を言っているんですか。それだと否決されて、地球は苦しみ続けます。そうならないために、我々の医療機関は、独立した形式を取っているんです。」

「・・・・」

「期限は年内です。なんとか地球を休ませてあげてください。漢方を出しておきますので、朝昼晩と地面にまいてあげてください。」

「承知致しました。ありがとうございます。」

診察を終えて、医者は宇宙船に乗り、一時停泊中の月に帰った。月から見える地球は美しいが、中身はぼろぼろである。地球からの悲鳴が聞こえてくるようで、見ていられなかった。

その日、医者は各銀河に散らばる医療機関の執行部を緊急招集した。年内の状況改善は不可能だと判断し、最終手段の準備をすることを討議するためである。

「もう期限は過ぎました。これ以上待つことは無意味だと考えるので、最終手段を地球暦上の12月31日に取りたいと思います。万が一、状況が改善されれば再検討しますが、残念ながら厳しいでしょう。地球の生存を第一とします。」

満場一致で可決された。

「それでは、現場が好転しない場合に最終手段として、地球の自転を一定期間止めることを決定致します。以上。」

緊急集会が終わり、再度月から綺麗な地球を眺めていた。

「我々は星々を救う医者なんだ。残念ながら人類は犠牲になるが、いずれまた遠い未来に、生まれてくるであろう。」

人類滅亡のカウントダウンが始まったことを、地球人は誰一人知らない。


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