「光る君へ」うろ覚えレビュー《第11話+12話:まどう心+思いの果て》
■はじめに
今回は、11話と12話が一緒くたの「うろ覚えレビュー」となってしまった。ということで、語りたいことは山程あるのだが、ちゃきちゃき進めよう。
今回はドラマ中の耳に残るセリフ(関西風変換つき)を切り口に。
■源倫子「必ず夫にしますさかいに」
どうだろう。この人、源倫子の成長ぶり。
当初はただの良家のお嬢さん、天然丸出しだったのだが、どうしてどうして平安時代の貴族としての常識もたしなみも身につけた女性になったじゃぁありませんか。
父親が失職したまひろは、新天皇の摂政・藤原兼家に会うための取次を求めて左大臣・源雅信の娘である倫子に相談するが、普段はまひろに優しい倫子がぴしゃりと言う。
「摂政さまはあなたがお会いできるような方ではいやはらしまへん」
ごもっとも。
「摂政の決断は帝のご決断」なのだ。
身の程を知れ、ということだ。
それでも別日に催された恒例の女子会「学びの会」のあとには、その後のまひろのことを気遣う倫子の配慮も見られ、彼女の大人な対応ぶりが素晴らしかった。
そして、その場で倫子は自分に想い人がいることをまひろに告白。
そのときに口にしたのが上記タイトルの言葉。
「夫」とは「道長」のことだが、そのときまひろは誰のことかは知らない。ぽってりした顔で呑気そうにしながらも、やはり左大臣の娘。
倫子は欲しいものはなんとしても手に入れる。
こまろ(ペットの猫)の次は藤原道長である。
そして、道長もさまざまな外野的理由から倫子との婚姻を進めることにし、ある夜倫子を初めて訪ねた。
気恥ずかしがって御簾の奥で縮こまる倫子。
と、思いきや、いきなり道長を・・・あんた、押し倒しましたね?
コーヒーを吹きそうになりました。
■藤原兼家「虫けらが迷い込んだだけや」
倫子に釘を刺されても我が主人公まひろは、むりやり摂政・藤原兼家や道長の住む東三条殿の屋敷に押しかけた。
こういうひたむきさは、NHK朝ドラのヒロインさながらである。
あたしは朝ドラ、見たことないけど。
目的は当然、父・為時の官職再ゲットのための兼家への直談判。
無視するのか、わざと半日くらい待たせるのかと思いきや、意外にも兼家は友好的な態度ですぐにまひろに面会した。
だが。
まひろが父親に職を与えるようお願いした途端、彼は彼女を地の底に突き落とす。
「わしの目ぇが黒いうちにあんさんのおやっさんが官職を得ることはあらへんで」
彼の言い分はもっともだ。
そもそも彼の仕事を断ったのはまひろの父。何を今さら、である。
彼は、ブレないのだ。
下々の者に情をかけるような無駄なことはしないのである。
そうじゃなきゃ、藤原家があれほど栄えるものか。
コスパ、タイパ命である。
彼は天皇を策にかけることさえやっちゃうプロなのだよ。
のち、来客があったことを(来客がまひろだと知った上で)兼家に尋ねる道長に対し、父は息子に上記の言葉を吐いた。
おおー。やっぱりあたし、兼家が好きになってきた。
このひとのおかげでドラマがキリッと締まるじゃん。
いや、このひとが実在したことが喜ばしい。
だからこそ日本史は面白いのである。
■花山法皇「オン・シュチリ・キャラロハ・ウンケン・ソワカやで」
出家ですっかり様変わりした花山法皇は、騙されてお坊さんになっちゃった直後なので亡き妻・忯子の成仏を祈願する以上に後悔と恨みでハートは200%である。めっちゃ呪詛してる。
彼が何度も唱えていた上記のお言葉とは、仏教の五大明王のうちの一尊で、閻魔をもしのぐほど強い「大威徳明王」とその働きを意味する真言(密教の秘密の言葉)なのだ。
詳しくは以下のリンクをご覧いただきたい。(昔の明石 白が書きました)
花山法皇の呪詛は、自分を追い出した関係者、そして皇位に就くことになる新たな帝へと向けられたようだ。
そして、天皇が即位するときに着座する高御座の上で生首が発見された。このお話、平安時代の歴史物語『大鏡』に載っている。
だけど、花山法皇が呪詛したらどういうシステムで椅子の上に生首が乗ることになるのか、シンプルに誰のクビなのかなど気になる。
大事件になりかねないのをうまくおさめたのは道長のナイス判断。
だが服で椅子の血を拭くのはいかがなものか。
もうちょっとちゃんと生首見たかった(好奇心)。
■藤原道長「勝手なことばっかし言ぃないな」
ほぼ初めて藤原道長に共感・同意した。
タイトルの言葉、
「まさにそれ!」
である。
まひろは以前、「一緒に都から逃げよう」という道長の提案を断った。道長は、藤原家を背負い、良き政を行うべきだとの理由だ。
で、それを踏まえた上、今回の道長が再度プレゼンテーションしたのが
「妾(めかけ)になってくれへんか」である。
藤原家の一員としての立場上、彼女を北の方(正妻)とするわけにはいかないし、当時上級貴族が妾を持つことは珍しくない。
まひろの身分で摂政の家の息子の妾となれるだけでもかなりラッキーだ。
な・の・に。
まひろは「北の方やなかったらいやや」と言ったのだ。
あれもだめ、これもだめと言われた道長。上記のセリフはトーゼンである。
『源氏物語』で光源氏に愛された葵の上だって北の方じゃないんだよ。
ワンチャンでも北の方になれる希望を持っていたまひろに少しぞっとした。
結局、あとになって「妾でもいい!」なんて思いながら再度道長に会ったまひろ。
だが、彼があの倫子の婿になることを告白したら、素早く
「あてはあてらしく自分の生まれた意味を探していきますわ」
と頑張っちゃって言っちゃった。
それが『源氏物語』を書くパワーのルーツになるというのか。
ええんちゃいますか。
申し訳ないが、まだまひろにそれほど感情移入できていないあたしである。
藤原宣孝「ありゃダメやで」
まひろに感情移入できないし、道長にもたまにしか共感できないあたし。
藤原兼家や今は亡き直秀などをウキウキしながら見てきたんだが、もうひとりふたり好きなのがいる。それが藤原宣孝と藤原実資だ。
ちょうどその2人が重なるお話しがあったのが今回の12話。
ドラマは、どうしてもロバート藤原実資をイロモノ的に扱いがちである。
これは今回全くあたしの予想を超えていた設定だった。
実資ってそんなキャラだっけ。
彼の日記『小右記』の現代語訳やドラマの時代考証をされている倉本一宏先生のご苦労が忍ばれる。
実はなんと藤原実資が愚痴るたびに「日記に書いたらええやん」と言ってたあの素晴らしい正妻は既に亡くなっていた。
そこで、まひろを結婚させて夫のお金で彼女の一家の経済的安定を計画している藤原宣孝がターゲットにしたのが実資だった。
いや、この宣孝本人こそ、のちにまひろの夫となる男なんだが。
だが宣孝は、赤痢にかかったヨレヨレの情ない実資を見て上記のセリフを言った。
「もう半分死んどるわ。次を探すで」
がその後に続く。
いやいやいや。まひろの身分を考えたら「何様?」の発言なんだが。
「鼻くそのような女との縁談あり」
のちに実資はそう日記に書いたそうだが、そんなもんだろう。
それにしても、巻物から取り出した半裸女性の絵を見て嬉しそうな実資の顔ったら・・・。
実際実資は仕事はよく出来たし、珍しく誰にもこびない人物だったが、記録によるとホント女好きだったんである。
ついでに言わせてください。
あの「さわ」っていう新登場の女性、いやにまひろとの距離が近くないですか。ああいう人は苦手です。
なんで夜になっても他人の家でお酒飲んでんですか。