「光る君へ」うろ覚えレビュー《第47話:哀しくとも》
■気づいたら終わってた刀伊の入寇と周明の命
考えてみれば、戦いぶりを描く戦国ドラマとは種類が違うのだ。
「光る君へ」に描かれた刀伊の入寇は、刀伊たちがわぁあああっとやってきて、藤原隆家の軍が応戦し、海上でも戦ったのちに撃退した、らしい。
なにがどうしてどう撃退したのか、仔細は描かれなかった。
ところで、鏑矢だ。
平安時代など古い時代の合戦は、基本的に騙し討ちなどは卑怯だとされ、正々堂々と名乗りを上げてから戦う。
私が知っていた鏑矢とは、合戦が始まる合図の音を出すための道具。
今回の戦いでは、不気味な音をたてる鏑矢を、侵入者の異人たちを脅かす道具に使っていた。
そういう使い方もあるんだな。
とても不穏な音だった。
そして気になっていた周明だ。
中途半端になっていた周明という人物の存在は、大宰府でまひろと再会したことで、きっちりと回収された。薬師として活躍していた彼。
日本に生まれ、宋人でもなく、かといって生まれ故郷にも知る人はおらず、ただまじめに大宰府で薬師として働くのみだった周明の気持ちには、まひろとの再会で光が差していたのではなかったか。
刀伊が襲ってきた。
刀伊の放った矢に左胸を貫かれ、驚きで叫ぶまひろに彼が言えたことは、「逃げてんか・・・」
のひとこと。
それが精一杯。
結局、のちに彼女に話したかったことは何も言えないまま、ひとすじの涙を流して目を閉じてしまった。
まるで死ぬために登場してるやん。
それまでのまひろとの会話も、すべてこの死をさらに哀しくさせるためやん・・・。
半狂乱になっていたまひろは、乙丸に引きずられなければその場に残って同様の目にあっていたかもしれない。
その後も何かのマジックで、
というようなことはありませんでした。
こんなこと考えてごめんなさい。
実際には(ドラマの中ですけど)矢が胸に刺さったまま周明の身体は海風にさらされたまま浜辺に横たわっていた。
考えてみたら、周明はあまりに悲しい生涯を送った男だ。
親に捨てられた。
異国で育った。
日本人でも宋人でもない立ち位置で苦労もした。
それでも努力をして薬師になった。
大宰府のような場所で、宋と日本の言葉を操りながら活躍するマジメな薬師として生きていたのに。
■乙丸最強説
ドラマの序盤からずっと登場していた乙丸。
いつも気弱で、控えめで、一生懸命な彼。
まひろが旅にでるときに従者としてついてきてはくれたものの、「役に立つんかいな」と思われる程のか弱そうな男だった。
だが、今回、乙丸は荷物運び以外でも大活躍した。
周明が浜辺で倒れた際、取り乱したまひろを精一杯引っ張って逃がしたのは彼である。
彼がいなければ、刀伊の矢が降る中でまひろの命がどうなっていたことか。
やがて雪が降る頃、隆家が大宰権帥の役目を終えて都に戻ることとなった。親切にも隆家は、まひろに一緒に都へ戻るかどうかを尋ねる。
もどることを渋っていたまひろに対し、乙丸は、まるで駄々っ子のように視聴者も目を丸くしたあの連呼を始めたのである。
「帰りたい。帰りたーい。都に帰りたーい。きぬに会いたーい。お方様と帰りたーい」(←非関西弁)
これには隆家も目を丸くして、びっくり当惑。
いやぁ、結構うっとおしい。
根負けしたまひろも都に戻ることになった。
うっとおしいが、まぁ乙丸の決断が正解である。
彼がまひろを現実世界に引き戻したのだ。
最初にまひろが
「そんなら、乙丸だけ帰ったら?」
と言ったとき、乙丸の立場でそんなこと出来るわけないのに、なんて冷たい女だ、と思ったものだが、それにまさる乙丸のうっとおしさでした。
■幼稚な政治と大人な政治
遠い土地での出来事など、やはり他人事か。
摂政の藤原頼通をはじめとする都に住む朝廷の公卿たちは、大宰府の悲惨さの温度をわからないままだ。今回は、たまたま隆家が刀伊を撃退したからよかったものの、現地での苦労など他人事で、ましてや異人たちが都に押し寄せてくる可能性など考えてもいなかった。
彼らは自分たちの周辺のことにしか気が回っていなかった。日本全体を考えていなかったのだ。幼稚な政治家たち。
まったく電池が入ってない公卿たちの中、唯一、電池が入っていたのは、「朝廷の良心」藤原実資である。彼だけは危機感を持って対処に動いた。
同時に、朝廷だけでなく、藤原実資に直接別の書状を送っていた藤原隆家の機転の良さもある。
つまり、道に倒れた人を発見したら、「誰か助けて!」と言うのではなく、通行人の一人を指し、「あなた、救急車を呼んでください」と言うことの大切さと同じだ。
藤原隆家は、実資にピンポイントで助けを求めたのである。
実資は道長に報告し、その後の対処についても相談した。
戦のあとの報奨についても同様である。
ナレーターのお姉さんも言ってたよ!
しばらく経つと都の公卿たちは、もう刀伊の入寇のことやその影響になど「興味を失っていた」のだ。
心外だが、藤原行成までが朝廷が刀伊の追討命令を出す前に起きた戦いは、朝廷とは関わりがないなどとぬかしていました。(史実です。行成は杓子定規な考え方をするのが常です)
実資はそれに憤慨する。
「ぎょーさんの人を殺害し、連れ去った刀伊を撃退したものに報奨を与えへんかったら、この先に誰も戦えへんで!」
「都であぐらをかいてたわてらが、命をかけた彼らの働きを軽んじるんはあかんがな!」
結局、多くの報奨を与えることにはならないまま終わってしまったことを残念そうに道長に報告する実資。
あとで公任が言い訳するには、隆家は道長のライバル伊周の弟だから、道長のために隆家の武功を無視したといった。
まるで子どもの喧嘩の延長である。
公任や行成などの政治のやり方は、お友達政治だ。自分の知り合いや友人にばかり有利に進める政治であって、本来考えるべき日本の政治とは違う。
極めて幼稚。
一方、隆家は、報奨のないことを予想していた模様。配下の者たちに事情を説明したうえで詫び、その代わりに、配下の平為賢を肥前守に推挙した。
それを喜ぶ仲間たち。
九州の民のことを思い、さらに日本のためにって戦った隆家が、一番大人でしたね。
やがて隆家は都に戻るが、史実では、彼はその後もあまり優遇されなかったと聞く。
■回収、回収、そして爆弾級の伏線回収
大宰府で会った双寿丸は、肥前守となった平為賢について肥前へと旅立った。これでもう双寿丸とはさよならだな。
乙丸の尽力もあって、都の実家に戻ったまひろ。
家人たちが皆元気で、彼女を迎えた。
例の琵琶も相変わらず実家の片隅に立てかけられてあったので気が気じゃなかったが、まひろが弾かなかったので胸をなでおろす。
娘の賢子は、とてもよい「源氏物語』の読者となっていた。
母親としてはダメだったが、あの作品を書く才能には感銘を受けていたようだ。紆余曲折あったが、最終的にはまひろの書いた「源氏物語」が、母子の関係までうまく収めてくれたようである。
彰子サロンで働く賢子は、彰子にもよく仕え、実の父・道長とも言葉を交わす機会もあるようだ。こうやって、父は距離を保ちつつ娘の活躍ぶりを見守るのだろう。母の血なのか、彼女は恋愛上手な女性となり、歌人としても大成することになる。
まひろは再会した彰子との会話も弾まず、文章を書く力もなく、彰子のための再出仕についても即答できなかった。いつの間にか、彰子もすっかり貫禄がついたが、旅先での事件はまひろの心にはダメージが大きく、全然年取った顔をしていないが、まひろはどうも年を取ったことになってるらしい。
こうして、大河ドラマはあと1話を残して、さまざまなことが集約され、終わりへと近づいていく。
えっと。でも47話はこれで終わらなかった。
ここからが爆弾級の伏線回収だったのだ。
(実際は予告編の前にあった場面のことを言ってる)
それは倫子の発言。
久しぶりのまひろを招いた倫子は、最終兵器ともいうべきキラーワード、前回の予告編で誰もが気になった言葉を発するのだ。
優しい語り口で。
「それで、あなたと殿(道長)はいつからなん? 私が気づいていないとでも思ってたん?」
固まるまひろ。
まひろの性格では、正直に全部告白するのだろうか。
そうしたら、道長はどーなるの?
こりゃ、ドラマ的には刀伊の入寇以上の爆弾です。