「光る君へ」うろ覚えレビュー《第43話:輝きののちに》
■三条天皇が危ない
藤原道長との覇権争いで生き生きと張り合ってきた三条天皇だが、ついに彼は病に陥った。視力が衰え、耳も聞こえなくなってきたのだ。
一説によると嗅覚もなくなっていたのだそう(でも、嗅覚についてはドラマにしにくい。「朕の飯は香りがあらへん! まずい!」とかいうのは、なんか違うよね)。
道長はこれ幸いにと三条天皇に譲位を迫る。
言葉遣いは丁寧ながら、結局は目も耳も効かなくなれば仕事ができないので天皇は辞めてくれ、と言い方は直接的だ。
次に天皇となる東宮は道長の孫であるから、幼い孫が天皇になれば道長は思うように世を動かすことができる。三条天皇にはさっさと辞めて欲しいでしょうとも。
一方、三条天皇は焦る。
道長に機会あるごとに譲位を迫られるのだ。なかなかのプレッシャー。
毒でも盛られるのかと気にしながら、そんなときに唯一頼りにできるのは藤原実資である。
そこで、実資の養子である資平を蔵人頭に取り立てることをエサにして、自分が譲位しなくてもよいように実資を動かそうとした。
道長にもはっきりと言い返す。
「譲位はせえへん! あんさん(道長)が朕の目と耳になれ。それやったら文句あらへんやろ」
天皇はそう強弁するが、道長はこりゃダメだ、とばかりに首を振る。
ま、道長だって、こないだまでめっちゃ病気で加減悪そうだったけど、ちょっと調子が戻ったら、こんな感じである。
そして道長は、三条天皇が譲位に納得していないこの状況のもとで、東宮・敦成親王に天皇になるにふさわしい帝王学を学ばせようと教育パパ的なことを口走るのだ。
親王の母親である皇太后の彰子にけげんな顔をされたりもする。
藤原実資はのちに道長に
「幼い東宮を即位させて、政を思うようにしはる(魂胆)は誰の目にも明らかでっせ」
とはっきり言った。
また、左大臣の言う政とは何か、と問うた実資だったが、それに対して、「民の幸せ」というキレイごとでまるーく返す道長。
それに対して実資はええことを言う。
「そもそも左大臣殿に民の顔やなんて見えてはりますのんか?」
「幸せとかいうあいまいなもん追い求めるのはわてらの仕事ちゃいまっせ。朝廷の仕事は、なんかあったときに真っ当な判断ができるよう構えておくことでっせ」
「志を追いかけるもんが力を持ったら、志そのものが変わっていきますわ。それが世の習いなんですわ」
実資の発言には、言葉の重みもあり、クリアなゴールもわからない「民の幸せ」みたいな言葉よりずっと現実的だ。
理詰めの言葉で三条天皇の譲位と道長の暴走気味(と三条天皇側が感じる)の考えを制止しようとしたのであった。
だけど、そんな実資は、のちにあっさり三条天皇に裏切られて。
実資の息子は蔵人頭に就けなかったから、唯一の頼りである実資の心までも三条天皇から離れていく。
■えげつない人々
前回かなり弱々しかった道長、死んでもおかしくないくらいの勢い(のなさ)だったのに、三条天皇の健康状態悪化をエキスにするようにして、元気になってきた。
例のごとく始めたのは、陣定(政治を行う公卿たちの会議)よりも力を持つかもしれない、道長の側近である四納言(藤原公任、源俊賢、藤原斉信、藤原行成)らを集めた作戦会議だ。
三条天皇は、一条天皇のように同情を誘うような性格の人ではないけれど、体が弱ってきているというのに、藤原行成(彼だけはお気の毒、みたいなことを言っていた)以外の四納言+道長は容赦はしない。
「三条天皇の目も耳もダメやったら、役に立ちまへんな。辞めてもらいまひょ」
てなもんである。道長に追従してかなりえげつないですね。
えげつないと言えば、道長の嫡男である藤原頼通と妻である隆姫との間に子がいないことについて、道長も正妻の倫子も実の父母じゃないみたいな心のない言いようだった。
道長はとにかく隆姫に頼通の子を産め、と言う。
倫子なんて、
「(子ができない隆姫はおいておいて)父上(道長)のようにもう一人妻を持ったら隆姫かて楽になるやもしれへんで」
などねじれた論理で無責任かつ意味不明なことを言い出す。
跡継ぎがそれほどまでに重要だった平安時代の貴族。
平安時代のお姫さまだって、苦労は山ほどある。
産まなかったらプレッシャー。
妊娠したらしたで、出産時に無痛分娩とかの選択もないしね。
命がけやということは庶民も貴族も同じやもんね。
しかも、生んだら生んだで男の子でなければまたプレッシャー。
■平安時代の医療
平安期における病気というものは、一体どのようにして治していたものか。
だって、江戸時代になっても虫歯の治療とは、歯を抜く(麻酔などないからね!)しか方法がなかったとかいうしね。恐ろしい。
今回は、あの調子が良くて、元気な藤原隆家まで眼病を患ってしまった。
しかし、これは木の枝で目を突いたとかいう外傷性のものである。
きちんと治療すれば快癒するのだろう。
目と耳の病に苦しむ三条天皇が飲んでいたという宋から取り寄せた、鹿のフンみたいな薬も、効き目は疑問符がつきそう。
そもそも、三条天皇が目や耳を患うことになったのは、怪しい薬が原因だ、とされる説もある。
不老不死や長寿の薬だという中国由来を飲んだとたんに加減が悪くなったというのだ。ヒ素や水銀などが入っていたというその薬を服用した天皇は、つまり自ら毒を飲んでいたようなもの。
長寿、もしくは不老不死などを願った強欲からの自業自得だったのだろうか。
■大宰府界隈
どうしても目を治したい藤原隆家は、太宰府にいる薬師の世話になるために九州は大宰府への任官を望み、道長はそれを受け入れた。
いよいよ彼が大宰府で活躍する時期が近づいてきたようだ。
(*「大宰府」とは九州筑前国の行政機関の名前。「太宰府」とは筑前国の土地の名前である。点の有り無しで微妙に違うので要注意)
だが、藤原隆家の大宰府任官にショックを受けたのは、「あたしの」藤原行成である。
彼は、隆家よりも先に道長に大宰府任官を願い出ていたのだ。
その理由とは、
「財を作りたいねん」。
その言葉に一瞬、行成くん、そのような下世話なことをはっきり言うタイプだったっけ、と思ったが、当時の彼には彼は太い実家があるわけでもなく、財力には限りがあったのかと気づく。
かつての関白家の子孫でありながら没落した家を背負う彼は、彼自身の勤勉さと優秀さで公卿まで上り詰めてきたが、実は病に苦しむ家族などを抱えており、お金が必要だったのだ。
地方へ行けば、役職的には華々しさに欠けるが、金を貯めることはできる。
特に太宰府など、宋との貿易で唐物が手に入りやすいだろうから、それでひと財産作ることはできそうだ。
結局彼は、道長にあっさりとそばにいろ、とだけ言われて都に残ることになってしまった。
最近の行成は、周囲に自分の主張を何一つ聞いてもらえなくて気の毒である。
実は、藤原隆家がのちに太宰府から都に戻ったあと、藤原行成は大宰権帥として任官することになる。
ただし、任地に行かなかったのであまりそういうイメージはないんよね。
行成は本当にお金に困ってたんやなぁ。
さらに太宰府つながりとなるのは、もう一人。
武者の双寿丸である。
藤原隆家が大宰府に赴任するにあたり、彼の親分がついていくことになったため、さらにその子分の双寿丸も九州へと渡ることが決まった。
わざとなのか天然なのか、双寿丸はそれをいかにも快活に賢子に告げるのである。
ついていきたい、と告げる賢子にあっさりとNOを突きつける双寿丸。
つまり彼女はフラレてしまった。
健気な賢子が、無惨にもあっさり断られるのを見るのは可哀想だったけれど、それに加えてあたしは従者の乙丸を見るのがつらかった。
今では髪に白いものも多く混じるようになった乙丸。
賢子の笠をけなげに両手にしっかり持ったまま、忠実な犬のように少し離れた場所から、震えるようにして彼が仕える若い「姫さま」が振られるさまを見つめていた。
やがて藤原隆家の指揮で、外国からの脅威に対し双寿丸ら武者たちが大活躍する事件が起きる。
日本は勝つんだけど、大変な犠牲をも払う。
どのような戦い方するのか、ドラマにその場面は出てくるのだろうか。
ちょっと観たい。