Renkaシリーズの世界と人物に関する考察
本記事はRenka氏が製作し、Steamに公開しているゲーム「サンセット・ルート」「フラッシュバック」「白夜夢」「水星汐」の考察をまとめたものである。
この一連のゲーム群はそれぞれある程度共通の世界観を有しているのだが、多くを語らない(または遠回しに多くを語る)作風からストーリーや人物背景など想像の余地を多く残す点が一貫した特徴のひとつとなっている。そういった謎の一部には新作における新情報の開示で明るみになるものもあるが、一方で新たな謎もまた積み重なっていく。
で、その都度旧作をプレイし直して、甲板の上の人を消して金に換えたりガチョウを追い回したりして記憶を掘り起こすのは面倒なので、今ある情報や判明済みのこと、未解消の疑問などは可能な限り文章にまとめてしまおうというのが執筆の動機である。
もちろん個人の考察ゆえ精度には限りがあるので、見当違いな見解も多々あるでしょうがご了承ください。あとしょーもない突っ込みやネタ発言も多々ありますが、一応やり過ぎないよう気を付けているつもり……ではありますが、不快に感じられたらごめんなさいです。
めちゃくちゃ長いので読む際は目薬を用意すること。何せ60000文字超である。筆者自身「後どれだけ書いたら終わるの……?」「早く脱稿して救国のスネジンカやりたい」「頼むから今Dead Estateの最終アプデ来るなよ……(来た。10/28らしい。デッドライン制定……)」とか苦難を越えてどうにか書き上げた。
これだけの情報量を1ページにぶち込めば読みにくいことこの上ないし、複数の記事に分けて公開した方が本当はいいのだろうが……複数のゲームにまたがっているネタも多く、並列で執筆したり途中で記述を丸々別の章に移動させたりしている箇所も少なくないので、下手にバラすとすごく書きづらいことになってしまい……代わりにサムネをいくらか載せて、視認性を上げてみたつもりなのでとりあえず今回はこれでご勘弁ください。いっぱいいっぱいなんです実際。
無論ネタバレ全開である。嫌なら今のうちに各作品をご自身でプレイされたい。水星汐以外はオール120円だよ! 安いよ安いよ!
世界解説
ここで言う世界とは、一連のシリーズのメインの舞台と思われる『夕日』『反復』のそれを指す。白夜夢や水星汐の舞台についてはそれぞれの項目を参照されたい。
『夕日』『反復』世界の歴史
初回作の『夕日』内でも多少の類推はできたが、水星汐のアンとの会話や「図書館」でだいぶ具体的な歴史が開示された。
判明している中で最も古い歴史は、教会が強権を持ち腐敗に満ちた独裁組織だった時代。これは有志による宗教改革により一度打破され、世界に大きな平等と進歩がもたらされた。
その後は帝国による貴族階級者中心の社会(「帝国」の呼称はヴィーナスの過去解説から)となっていったが、これもまた少なからぬ圧政の元となったのか次第に生活困窮者が続出。教会の駆け込み寺としての求心力が再び高まり、集った民衆はやがて帝国を脅かしかねないほどの規模に達する。またこの頃に何やら技術革新が成されたそうで、電気を使って魔法の媒介を作ることで、魔法を容易に実践したり生産性の向上といったことが可能になったらしい。これらも下級階級者に、支配者層にも立ち向かえるほどの力を与えるきっかけとなった。
ついには帝国を倒して権利を勝ち取ろうと革命が為されようとした矢先、帝国が先手を打つ。新大陸政策――モフモフ亜人たちの住む「新大陸」に入植し土地と資源をゲットしようぜという政策で、そのために先立つ資金と武器まで民衆に提供した。
軍隊を擁する帝国と戦うよりもよっぽど楽して稼げそうなニンジンをぶら下げられた人民はこぞって新大陸の原住民集落(原住民=亜人。もちろん帝国側の呼称だ)に侵攻、略奪を働くヒャッハーに堕ちた。教会の中にも植民に熱狂する信徒たちを抑え、どうにか革命路線を維持しようとしていた者もいたようなのだが、教会自体の力が宗教改革で無に帰していたことがこの局面では仇となったらしい。
亜人陣営も当然ながら徹底抗戦に出る。始まりは自衛と仇討ちのための戦いだったはずだが次第にエスカレートし、しまいには旧大陸(亜人の「新大陸」に対する、モフモフでない人間の住む大陸の通称)へのテロ行為を繰り返す危険な集団と化してしまった。今や旧大陸からはスパイを、新大陸からは暗殺者を輸出し合う関係となっている。
ついには政府から緊急事態宣言が発令され、戦闘の最前線に向けた補給を強化すべく緊急時特別貿易許可証なんてものまで民間の貿易業者に交付されるようになった――というのが『夕日』の時代に当たる。
もっとも全ての亜人が過激派という訳ではなく(当然だが)、融和または非干渉を決め込む穏健派も一部には存在する。『反復』の街に住む亜人も基本的にはみんな穏健派だと暗殺者アオテツは語っている。もっとも『反復』で遭遇する強盗は亜人ばかりである。というかアオテツよ、自分の肩書きを言ってみろ。
教会の現状
白い楕円に星めいた赤十字の仮面がトレードマークの大体ろくでもない連中。アンも水星汐で、「どこから見たって教会は亜人に対する加害者だ」「教会のやったことに対して何らかの反撃を加えるだけの理由がある」と断言している。実際、現在の教会と亜人は激しい敵対関係にあり、『反復』や水星汐でもその様子が見られるのだが……
しかし最初に両者の争いを扇動したのは教会ではなく帝国のはずなのだが、これは一体どういうことなのか? まぁ帝国にすれば革命の矛先さえ変えられればよかった訳で亜人と争う理由はさほどない一方、教会(というかラプラス)は亜人社会に色々挑発や情報戦も行っているようでもある。結果として教会の方がより悪印象が目立っているということなのか。
というか教会、特別警察とかいう憲兵もどきを率いて普通に恐怖政治を敷いてるんだが。強権取り戻しとるやないか。暴行も拷問も賄賂も思いのままだぞこいつら。先祖返りと言うべきなのか。
どうもこの教会、亜人陣営とやり合いながら同時に帝国とも権力争いをしているらしい。二正面作戦を平気で執り行っている辺り、まさに作中最強の組織――すなわちラスボスっぽさが感じられる。そういう性質のゲームかはさて置き。
教会のボス格と言えば大司教のラプラスだが、それとは別に彼女が「旧時代の老人」と呼ぶ大人物がいるらしい(詳細はコマドリの項にて)。詳しいことは現時点では明らかでない。
亜人と門と異世界
モフモフで有名な亜人たち。いわゆる人間と違うのは耳としっぽだけなのだが、シリーズの主人公たちは皆このモフモフぶりを愛してやまない。モフモフ愛が主人公の必須条件であるようにも錯覚する(そうか?)。外見だけでなく仕草も猫ムーブをする者がチラホラ見られる。
教会が魔法を得意とするのに対し、亜人は銃など火器を愛用する。これは元々新大陸にあったものではなく、異世界から拝借してきたらしい。
亜人は(または亜人全体の中における、探検家・白の一族は)自分たちの住む『夕日』『反復』世界とは別世界に通じる門の存在を把握しており、これを守護する使命を己に課している。その中心人物と思われるのが通称「門番(水星汐では「ゲートキーパー」表記)」。で、その異世界の知識をこちらに持ち込むこともしているようだ。当然ながら異世界への訪問は厳重に制限されており、無闇に立ち入るとゲートキーパーにこっぴどく怒られる羽目になる。
また奇妙な儀式を執り行う者もいる。『反復』ではナイフを自分の手に刺すことで己の体の一部と化し、生き物しか通さない防御魔法を突破する亜人の強盗が登場。ただこれはポラリスいわく「東から伝わった儀式」だそうで、異世界由来ではない……と、断言するのは早計かも知れないが。水星汐に登場する魔法値を持った亜人の司祭も、やっていることはこれらの儀式と推測される。いわゆる魔法なんぞ使ったら同胞に裏切り者扱いされかねんだろうし。
もっともそういったオーパーツを有していながらも、亜人は教会には特に有利を取れていない。水星汐の白vsコマドリのシーンは象徴的と言えよう。魔法というモノの強さがうかがい知れる。
亜人が多く住んでいる新大陸には何やら古代の遺跡っぽいものがあるらしく、採掘家を連れて立ち寄ると高価な出土品をゲットできることがある。 他にも遺跡には謎の遺物がある……例えばラジオ。明らかにこことは別の世界の放送を受信しているらしい。というかこの世界に放送局など存在しない。じゃあ何故それがラジオと分かるの? という話はまたおいおい。
影つきまとう新世界教
『夕日』『反復』では教会の他に、いわゆる異教の存在が確認されている。『夕日』に登場する「異教徒」は甲板にいるランダムなキャラを確率で消し去り、不要なキャラのリストラに貢献する。「謎の人」はキャラが消失した際に報酬(?)を発生させ、「謎の商人」はその報酬金発生をトリガーに自身の貿易力が高まる。
『夕日』の特殊エンドのひとつではこの異教が新大陸に蔓延したのを受け、帝国は亜人と休戦し協同で撲滅に乗り出した……が、これが真の平和をもたらすことはなかったという(確定)。
『反復』ではこの異教の詳細がより明確になった。彼らの手に落ちた人はその姿が黒いおぼろげな影のように変貌し、教義を狂ったように叫んだり恐慌状態に陥ったりする。以下はその一例。
「この世界は偽者だ!目を覚ませ!そうすれば新世界に辿りつける!」
「すべて滅ぼせ!そして新世界の訪れを迎え入れよう!」
「助けて! ドアが見つからないの!(by風鈴)」
これらは「謎の人」こと長月によると、人の肉体と魂が分離し、現世に残された肉体の成れの果てらしい(方法は後述)。それらの多くは魂を失った状態に耐えられず、存在がぼんやりと希薄化する一方で攻撃性は増していく。近寄ると軽い目まいがする黒い染みを地面に残しながら彷徨い歩き、最後には灰となって消える。
中には魂なしでも存在と理性を保てる個体もあり、それらは異教徒の配下としてより多くの人々の覚醒を促す活動に利用される。健康値がMAXになると「献血」しに現れる特別警察……に潜入している連中もその一員だ。
覚醒とは先述の肉体から抜け出た魂が、現世を離れ新世界にたどり着いた状態を指す(風鈴の「ドアが見つからない」発言は、魂が上手く新世界に入れないという意味だろうか?)。この覚醒した人間が増えるほど世界の人々の認知がぼやけ曖昧になっていく。特異点を超えると現存する世界に新世界が重なり、ひとつに融合するのだという。このとき魂も現世の肉体に戻るらしいが……魂なしでも実体を維持できた者はともかく、影になり果てた肉体に戻れるのだろうか?
過去には大勢の人が一斉に「覚醒」した例があると長月は語っている。また彼女自身もこの一連のプロセスに似た経験をしたことがあるらしい。……ん? 似た経験? 覚醒または融合と似た経験とは何なのだろう。
それはさて置き、彼らの待ち望む新世界とは何なのか? 少なくとも大阪の通天閣界隈ではないはずだ。
長月によると「無数の自動工場があり、食べきれないほどの食料を生産している。人々は働く必要もなく、無料の食物で十分に腹を満たせる」「多くの娯楽があり、飽きる心配はない」完璧な世界らしい。確かに『夕日』『反復』に比べればだいぶ高度な文明だ。というか我々のいる現実世界とだいぶ近そうだが、食物が全部無料など全てが一致している訳ではなさそうでもある。もっとも長月の解説=新世界教の教義が全部正しい保証もないし、その辺は眉に唾を付けて判断すべきかも知れない。
謎の黒い箱は新世界と深い関係がありそうなアイテムのひとつ。長月いわくこの箱を開けることで「新世界」の何たるかを感じ取れるようになるらしい。風鈴もこの箱の中に「みんな仲良く暮らす世界」を見たとのこと。と同時に彼女の意識が朦朧とし、その姿が例の黒い影のように霞み始めた。箱自体にそういう効果があるのか、箱を通じて新世界を見たことが変貌のトリガーなのか? いずれにせよ黒い影になる=肉体と魂が離れ出す=覚醒に近付くということで、人民に覚醒を促すための小道具と考えていいだろう。
一方の主人公は開けた際に何も見ず何も感じず、ただの空箱としか認識しなかったため新世界のことも知らずじまいだった。このことが長月に、より主人公への興味を引かせる要因となっている。
人がいないこともない無人島
『夕日』では各地の港以外に、ごく稀に無人島が目的地候補に挙がることがある。ここは港がないだけに取引ができず収入が得られない半面、他所で高く売れる遺跡の欠片を仕入れられる。またユニークな船員を雇用できることがある。
ユニーク船員は「元船長」と「ペンギン」(共にDLC限定。ここ限定ではないが???も出没する)。特筆すべきは元船長で、船員をペンギンに変えるという異能を持っている。なんでこんな能力を持っているのか首を傾げがちだが、別のとある超レア船員との共通点に気付くと合点がいくかも知れない(後述)。
また超レア船員の一人「勇者」がこの無人島を目指している。???の討伐にでも行くのか、それとも遺跡の方に用があるのか……?
魔法はあるけど、奇跡はないんだよ
魔法は教会の象徴とも言うべきモノである。何なら過激派の亜人の前で魔法を使っただけで教会の犬呼ばわりされるくらいだ。
その教会の犬……もとい特別警察はそれぞれ、簡単な魔法を扱うための触媒となる「ルーン」を教会から支給されている(材料と思しきルーン石は『夕日』でも交易品として登場している。分類も剣や火器と同じ「武器」扱い)。
その魔法の原理がなかなか独特である。まず媒介として、互いに絡み合う二つ一組のマジックアイテムが必要。このふたつの媒介の間に生まれる特殊な空間に対し、ある種の特性=起こしたい超常現象=魔法を付与する。するとその特性が媒介間の空間から実世界の任意の場所へと送り出され、実際に魔法として発現する(ラプラスはこの仕組みをHTML構文に例えて説明している。本項目のサムネを参照)。
扱える魔法の規模や形態は媒介の質に比例し、先述のルーンは量産品なので起こせる魔法は限定的。逆によほど上質な媒介なら小さな世界をひとつ構築したり、第四の壁を越えて「何者か」に語りかけることすら可能とする。
また魔法の媒介は原則的に無機物=道具で、生命体が媒介の機能を持つ例はあり得ない……はずだった。これが『反復』の物語の大きな背景となっている。
ちなみに媒介が生命体――ぶっちゃけると人間の場合でも、媒介以外の者がその人間を、当人の意思を無視して魔法のダシにすることが可能らしい(『反復』の後日談が丸々それ)。ただし当人の意識が失われている間しか利用できない……はずである。
水星汐ではさらに魔法の設定が開示された。まず魔法とは世界への干渉――すなわち世界と同じ権限をもって送信した情報により(先述の「魔法媒介で生成した特殊空間に特性を付与し~」というやつだ)、世界を外側から大なり小なり改変するという定義付けがなされている。概念操作と呼ばれるモノが近いのだろうか。
ここで魔法を使って物品の加工というか改変を行う場合……作中の例で言うならお空の雲を飴玉に変えたいといった場合だと、雲を構成する水滴や水蒸気の「味」「硬度」「色」「外側に『包装紙』を付与」といった様々な修正事項をチマチマと入力送信し、雲を構成する概念をひとつずつ変えていく工程が主流らしい。いきなり「雲→飴玉」とすると一度に改変する情報量が多過ぎて難易度が爆上がりするのだそうで(先述のも充分高度な手法らしいが)。
ちなみに誤った改変情報……誤った情報とは何がどう誤っているのか? 「ああああ」とか「オンベレブンビンバ」とかそんなやつか? とにかく滅茶苦茶な情報を送信するとエラーが発生。世界の修正力が働き、巨大なエネルギーをその場で爆発させながら変な改変を修復する。この爆発を攻撃手段に転用することも可能だが、魔法使い同士のバトルでは相手の魔法領域に簡単に遮られる。ちなみに正常な概念操作でもエネルギーの爆発は発生するが、よほどの改変規模でない限りはごく軽微なものに留まる。
さて、魔法でもできないこと……というより、人の手では到底扱い切れないのが死者(死体)の蘇生。まず生命の生き死にというものが、概念としてあまりに高等過ぎて実行至難。そして高等過ぎる分、実行時に発生するエネルギーの爆発量もヤバい。蘇生に成功したと同時に蘇生対象は爆発四散! サヨナラ! とかいう無意味な結果に終わる。
それらをどうにかして対策できたとしても、生者の蘇生という結果にはたどり着けない。得られるのは生きた死体(リビングデッド)でしかない。この生きた死体というのがどの程度まともな生者と違うのかは明確でないが、読み取れる範囲では体が腐敗する・知能が低い・生前の記憶がない……といったところか。確かにゾンビらしい。この死体をさらに概念操作してより人間らしく加工することは可能だが、どこまでいってもやっても完全な生者に「仕立てる」には限界があるようだ。
……で、その限界に挑戦した者がいる――というのが水星汐の裏ストーリー。「表」でもラスボス勝利時のイベントで魔法について色々語られるが、それらの多くは戦闘描写のツマなのでそこまで追究することはないと思われる。対戦している人物に関する記述はさて置き……
あと、「魔法の最も基本的な要素はその人自身」らしい。ふむ?
「サンセット・ルート」解説
爆発オチなんてサイテー! by現地人
……解説と銘打ってみたが、サンセット・ルートはストーリーがほとんど無いに等しく、語ることがあんまりない。というか、世界解説の項で粗方語ってしまった。各種の特殊エンドもそこに至るまでの因果関係が明確に説明されている(どのエンドも一時の平和の後に来る騒乱の存在が示唆されているが、こんなのまで謎呼ばわりしていたらキリがない)。
今思えばこの作品は一連のシリーズの序章にして、これから登場する人物たちの顔見せパートに過ぎなかったのだろうと思う(ストーリー的には)。水星汐の後に続くであろう新作でも、ここから新たに出演するキャラがいるに違いない。
唯一大きな謎と言えるのは特殊でないノーマルエンドにおける、大陸の地形や気候すら変えるほどの原因不明の大爆発か。最も戦闘が激化していた地域で発生したとのことだが、情報が無さ過ぎて何も語りようがないのが実情である。
水星汐をプレイした後なら、誰かがよっぽど無茶な魔法実験でもしたのかなーみたいな想像も可能は可能だが……某大型媒介無しにアレをやろうとして大失敗した大司教とか……いや大失敗ってレベルじゃねぇぞ!? 魔法の失敗で世界半壊させんな。まぁ激戦地でわざわざそれをやる必然性もなし、ラプラスの仕業ではないと思うが。
「フラッシュバック」解説
シリーズ中でも難題のゲーム。ふたつの意味で。
謎そのものが難解なだけではない。本作は一度真エンドを見てしまうと「はじめから」を選んでも完全には最初からやり直すことができない仕様になっているため、人様のプレイ動画を見に行くなどしないと再度確認できないイベントが多いのだ(この点は作者も反省点としていたのか、水星汐ではカットシーンを全て網羅するようになった)。その分備忘録として、イベント内容の丸写しのような記述がどうしても増えてしまうのはご勘弁願いたい。
主人公・運び屋と異界者アリスの関係
フラッシュバックには主人公の運び屋(本名不明)と、その相棒である異界者のアリスがメインキャラとして登場する。なんでも運び屋が現住所の街に来る時に乗った船で出会ったそうで、まるで別世界のもう一人の自分と思うくらい話が合って意気投合したことから一緒に暮らすことにしたらしい。実際、デフォルメ顔の髪型と色もそっくりである。
この乗ってきた船はアン船長のもので、その縁で彼女から斡旋された運び屋(という名の何でも屋)の仕事に従事している。とある会社の所属のようで、フリーランスではないらしい。運び屋がこの街へ移住した理由は一枚の手紙だそうだが、その内容は明かされていない。
だが街であれこれ奔走するのは全て運び屋一人だけで、アリスが街で直接何かするシーンは一切ない。アリスが登場するのはゲームオーバー時などの「幕間(アリス曰く『夢と現実の狭間』)」と、イベントを放棄する際にアリスに「体を預ける」時だけ。どう考えても実体がない。なんぞこれ? もしや二重人格か何か?
「夢と現実の狭間」ではアリスが次回のみ有効になる軽いバフを付与すると共に、「帰るべき場所を見つける」べく1日目からのやり直しを促してくる。かたや「体を預ける」とイベントがなかったことになると共に、体が傷だらけになり(全パラメータ微減)レベルが1上がる。この間に何が起きたのかは一切明かされない。アリスが力づくでどうにかしたのかなー? とか根拠のない想像をするかしないか程度である。
この二人は一体何者なのか? 何が起きているのか? 何も分からないまま仕事のために街を駆け回り――30日目の爆弾テロに遭遇する。ゲーム的にもまだ序の口だ。
30日限定の『反復』世界
30日目で初回の爆発を生き延びる(しかし次の爆発で無条件に死ぬ)と、レベルがどうあがいても足らんから30日越えは無理とか、特殊イベントを完遂するためのガイドを解禁するとか、色々メタ発言を交えつつまた1日目に戻らされる。
それでも再度挑んで討ち死にすると30日越えは不可能と念押しされた上で、「31日目は存在しない」「あの爆発のせいで30日目以降の世界には苦痛しか残らなかった」「そこから世界がどの程度続いたかは私も知らない」と意味深な発言。イベントガイドも30日越えは色んな意味でノーフューチャーだから他の特殊エンドを「帰るべき場所」として満足しとけという意図だったらしく、それらを無視して30日越えに固執する運び屋に非難がましさすら感じる言葉をぶつけてくる。
最終的には根負けしたように31日目に進ませてくれる。あれ? 31日目って無いんじゃなかったの? それ以降で発生するイベントは30日目以前とほぼ一緒(特殊エンド関連のイベントのみ無い)だが、ゲームオーバーになるかアレを使う以外に終わりがなくひたすら無限の日々が続く。苦痛しかないとかどれだけ続くかは知らないってそういう意味?
それでそれで、30日目の大爆発を万策尽くしてようやく生き延びた際、ラプラスとの遭遇を経て最後のアリスの登場シーン。「選択肢」を与えてくれる。1日目に戻るか31日目に進むか、はたまた放棄するか。いずれにせよこのシーンを最後に、アリスはその後、ゲームを最初からやり直してもほぼ全く出現しなくなってしまう(同じ要領で30日を突破した場合のみ、先述の最終登場シーンで再び現れる)。
そしてアリスとは二度と会えないまま、運び屋とプレイヤーは真エンドを迎えることになる。まるで訳が分からんぞ! と困惑するか、ラプラスの解説である程度の真相を悟ったかは人によるだろう。
30日限定の揺籠または無限回廊
ラプラスも言った通り、運び屋がいた街は虚構――現実でない偽の世界である。彼女がそう断定した根拠は後の項に回すが、ともかく運び屋が繰り返した30日間は全て嘘っ八だったということになる。
ラプラスは真エンドの中で、アリスが運び屋を抱き締めて爆発から守ってくれていたと語る。肉体的にも精神的にもと。またその前の30日を自力突破した後のシーンでは、運び屋の現状を「実在しないモノに触れようとした一瞬と、それが現実でないと気付くまでの一瞬との間」といった感じの言葉で例えている。これらをまとめ、筆者が推測した真相は次の通り。
まず現実で爆弾テロが発生、運び屋は死の危機を迎える。だがそこでアリスが介入し運び屋をまず肉体的に守る。といっても生身の人間が抱き締めたくらいでノーダメージになる訳がない……というかそもそもアリスに実体があるのかどうかがまず疑わしいので、おそらく防御魔法とかそれっぽいものを行使して爆風を防いだものと考えられる。「アリスって魔法使えるの?」という疑問はまた後々。
と同時に運び屋は気絶。そして現実ではたった一瞬の無意識(または夢)の中で、30日の仮想世界を延々ぐるぐる周回していた……という訳である。この辺はラプラスが大方説明しているし理解できた人も多いだろう……が、残念ながらそれだけでは終われないのだ(いや別に、終わってもいいんだろうけど)。
で、この仮想世界だが、おそらくこれもアリスが何らかの魔法で構築したものと私は推測している。運び屋が一人で勝手に見た夢という解釈も成り立つだろうが、それだとラプラスが言った「精神的にも」の部分が何に掛かっているのかが分からなくなる。アリスがゲームオーバーのたびに毎度現れるのも明確な干渉の表れだろう。運び屋が夢から覚めるのを阻むための。
しかし執拗に30日目の突破――すなわち仮想世界の枠からの逸脱を目指す運び屋に押し切られ、「君に選択肢を与えるべきだと思った」とアリスはつぶやく。30日のループを「放棄する」選択肢を。かくして運び屋は現実世界で仮想世界を脱し、目を覚ました。そして……
さてそうなると、アリスは何故こんな夢の世界に運び屋を閉じ込めたのか? という疑問が湧く。爆発から身を守れたならそれだけでいいのでは?
全くの憶測になるが、アリスが施した魔法は仮想世界の構築だけで、爆発からの防御の方はそもそもアリスとは別の人物によるものだったりはしないだろうか。例えばラプラス。彼女は主犯(後述)なので爆発と介入のタイミングを適切に測れるし、運び屋を生きたまま確保するのがそもそもの目的なのだから爆発から守る手段をあらかじめ用意してして然るべきである。
防御魔法がアリスの仕業ではないと考えた理由は、30日目で二度ゲームオーバーになった際のアリスのセリフにある。「あの爆発のせいで30日目以降の世界には苦痛しか残らなかった」「そこから世界がどの程度続いたかは私も知らない」……これって要するに、爆発をモロに食らって瀕死状態もしくは即死、世界(=運び屋の命)の存続は保証不能という意味ではないだろうか。爆風を浴びれば普通は死ぬし、運良く生き延びられても手足が吹っ飛ぶやら大火傷やらで悲惨な余生になるのは疑いない。
で、そんな場面に遭遇してしまったアリスは、とっさに運び屋に抱き着いてかばいながら仮想世界の構築を実行。同時に爆風が運び屋とアリスを襲う。当然爆死する運命の二人だが、爆風を浴びる一瞬と死ぬまでの一瞬の間に展開された仮想世界に運び屋の意識を押し込めば、その一瞬の間(に、無限に引き延ばされた運び屋の認識の中)だけでも普段通りの人生を送り続けることができる。これが「運び屋を精神的に守る」の実態だった――実際は爆発のダメージは完璧に防がれ、そんなことをせずとも五体満足で助かっていたとも知らずに。
ただこの説だと、「肉体的にも」の部分が説明できなくなる。そっちも何かしらアリスが干渉していたはずなのだ。じゃあやっぱりアリスはちゃんと実体があって、運び屋を文字通り抱き締めて守ったと捉えるのが正解なのか?
また仮想世界を構築する魔法が、アリスが意図的に発動させたものなのかどうかも疑問の残るところかも知れない。だって爆発よ? 爆弾が不意に起爆する一瞬のうちに世界を一つ作るなんて大それた魔法を使って運び屋を守る判断をして実際に行使する、なんてことが意識的に可能なのか? 小足見てから昇龍余裕でしたどころの話じゃないぞ? 世界構築は自発的に行った行動ではなく、暴走気味に自動発動しちゃっただけなんじゃないだろうか。
ともかくこれで、大きな謎もどうにか全部解決……解決?
してない……。
結局アリスは
アリスは存在するの? してるの? という疑問に戻ってきてしまう。
「いやだって、ラプラス言ってたじゃん? 運び屋を抱き締めて守ってたって」。うん、確かにそう言った。ついでにとある理由から「二人の」身柄を欲し、それを達成できたとも言った。だがその二点しか証拠がないのだ。例の夢と現実の狭間を除き、他の場面では一切登場していないことに変わりはない。
疑義の根拠はもうひとつある。実績達成でラプラスの項目を解禁すると運び屋の「その後」がわずかに語られるのだが、そこでもアリスについては全く言及されないのが不可解なのだ。いや別の病室にいるなど、他の可能性が考えられないでもないが……
……そんな感じで大きな謎を残したまま長い時間が過ぎる中、水星汐でようやく大きなカギになり得る情報が登場した。ゲートキーパーのこの発言がそれだ。
「契約では常に主人公(記憶喪失者)の記憶がラプラスに流れ、ラプラスをある意味二人の存在にさせた。そうしてラプラスの魔法の中で万能の領域へと近づいた」
「これも余計な記憶を持ったラプラスが二人の存在になった理論の根底だ」
はて? と思うだろう。なぜ二人分の記憶を持つ(=一人を二人の存在にする)とその人物が万能に近い存在になるのか? 水星汐のカットシーン集を散々駆けずり回っても、それらしい答えはついぞ見つからなかった。
だがしかし、これって要は『反復』における運び屋とアリスの関係を再現したものなのではないか? 二人は彼女ら自身が極上の魔法の媒介であるとラプラスは言っていた。つまり一人の人間にもう一人分の記憶を付与し、「二人の存在」を形成することで意図的にスーパー魔法媒介人間を生み出せるということなのではあるまいか。『反復』で運び屋とアリスを観察したラプラスはそのことに気付き(曰く「なぜそうなったのか(二人が媒介化した)はしばらく分からなかった」。つまり『反復』の後日談の時点では原因を理解している)、水星汐で自分の体を使い実行に移した。多分そういうことなのではと筆者は推測している。
そこで『反復』に話を戻す。もし前述の仮説が正しいなら、オリジナルである運び屋も同じ状態にあったはずだ。すなわち本来の運び屋にアリスの記憶(と人格)が追加され、二人の存在――二重人格になったのが『反復』における運び屋の有様だったのだと思う。真エンドで「彼女も無事だ」とラプラスが言ったのも、二人は体を共有しているのだから運び屋が無事ならアリスも当然無事というだけのこと。「な~んだ結局二重人格じゃん」とは言わないでほしい。感覚的にその可能性が高いとは察せられても、それをロジックで検証しようとするとこんなにも遠回りしなきゃならんのよ……
そして運び屋とアリスで「二人の存在」になったことにより、二人は強大な魔法を行使できるようになった。もっとも運び屋もアリスも生来の魔法使いではないため、魔法の使い方(どころか、自分たちが魔法使いになったことそのもの)など知らないはず……ということはやっぱり「無意識に発動」説が有力か?
もしそうだったとすれば、防御魔法を発動させたのもやっぱりアリスだったという説も成り立ち得る。こっちの方が「肉体的にも精神的にも」というラプラスの言にも矛盾がない(「抱き締めて」はただの比喩)。対爆防御と世界構築の同時発動……は、いよいよ無理がありそうと言われたらそうなのだが。
しかしそれはそれで謎は残る。アリスはどこから現れて、どのように運び屋に記憶を渡したのか。そして記憶を渡した後のアリス自身はどこへ消えたのか。どこから現れたかは次作の白夜夢で明白だが、問題は残りの2件である。
いやそもそも、記憶(と人格)ってなんやねんと突っ込んだ人もいよう。確かに水星汐では、記憶喪失者の人格までラプラスに移植されたとは一言も言っていない。増えた記憶が元々の性格に影響を与えることはもしかしたらあるかも知れないが、作中の幕間に現れるアリスはそんなあやふやではない明瞭な姿を有している。少なくともこの件に関しては、記憶と一緒に人格(あるいは魂?)も運び屋の中に移っていると考えるのが自然だろう。
これら全ての答えはおそらく、先述した新世界教の教義の中にある。「現存する世界に新世界が重なり、ひとつに融合する」というやつだ。この一文がほぼほぼ筆者の推論そのものなので……もうちょい真面目に語れやという方は、白夜夢の解説の方で続きを話すのでそちらへ飛んでいただきたい。
非実在の塔と未来
『追憶』の舞台の街で度々登場する潮汐の塔。
ラプラスが言うには、この潮汐の塔はそもそも実在しない建造物らしい。世界のどこにも。潮の満ち引きの状況を高い所から見て知るためにこの塔が建てられたっぽいのだが、この世界では日付と時間から干潮の度合いを割り出す計算式がすでに確立されている。実際に目で見るというアナログな方法に頼るまでもないゆえに、そういう用途の塔など建てる必要性がない……という理屈だ。そしてこの非実在の塔の存在が、ラプラスが『追憶』世界の欺瞞に気付く根拠となった。
この思い違いをしていたのは、運び屋なのかアリスかは「この時点では」何とも言えない。正解は白夜夢でアリスの起源が明かされるのを待つことになる。
しかし、ちょっと待ってほしい。実在しないにしては作中でやけに塔絡みのイベントが起きていないか?
例えば謎の商人・神無月。彼女はそれとなく主人公に爆弾を渡し、この潮汐の塔の爆破を試みている。長月は主人公に連れてこられた塔を前に、「近頃過ごした日々と同じ」との発言をする。そしてラプラスその人からも、潮汐の塔のそばに花束を置いてくるよう依頼される。なんでラプラスが? 潮汐の塔は存在しないって言ってなかったっけ? それとアンも塔のそばでゲロをゲロゲロしている。
ただこれらは、実はそんなに目くじらを立てることでもなかったりする。特殊エンドを思い出してほしい。どのエンドも特定のキャラと共に新天地へと旅立つ訳だが、これらはいずれも仮想世界の中だけの出来事であり、運び屋が現実に体験したことではない。どのエンドも自宅を去る結果になる訳で、その自宅で発生した爆弾テロに巻き込まれる結末には繋がらないのだから。
つまりこの仮想世界は、運び屋&アリスの実体験と記憶のみをベースとしているのではない。そこから派生し得る様々な可能性をもシミュレートし再現できる代物なのである。
白もポラリスも長月も、みんな現実では運び屋とは深い関わりのなかった赤の他人のはずだ。(街でちょっと見かけた程度か、あるいはその場限りの何気ない取引などはあったかも知れないが)。だがもし仮に、彼女たちとより踏み込んだ関係を運び屋が持ったとしたら? という、IFの未来を再現した結果が各種の特殊エンドなのだ。
で、実際には体験したことのない出来事を生み出せるほどなのだから、潮汐の塔が実在するものとして配置された程度ではこの仮想世界はエラーを吐かない。世界の方が問題なく順応し、爆弾運搬や花束といった「潮汐の塔の周りで起こるであろうイベント」が自動的にそれっぽく設計・配置されただけのことだったのだ。よってそれぞれのイベントの内容や結果も、別に何の意味も背景も持たない。我田引水? まぁね。
ちなみに上でシミュレートという言葉を使ったが、これが水星汐でも再び絡みついてくるのである……
運び屋&アリスの使い道
真エンドの最後の最後、ラプラスは「(運び屋&アリスを)何に使うかは次のお話で」「世界の様子を少しばかり変えるので、この場所(魔法媒介の間の空間?)をちょっと利用させてもらう」と言った。これは何を、何のために行おうとしていたのだろう?
上記の通り次に会った時に話すということだったが、実際の次作はラプラスなどどこにもいない白夜夢であった。その次の水星汐ではラプラスは登場こそしたが、『反復』における上記のアンサーは何も語らず。
しかしやったことは明白である。コマドリの蘇生だ。だが完全な蘇生は失敗し、今度はもっとデカい手段に出るべく奇跡魔法の実行を目論んで……詳細は水星汐およびコマドリの項、またはだいぶ前の「魔法はあるけど~」をご参照あれ。
だがこれで解明されたのは、運び屋&アリスという大型魔法媒介の使い道である。世界の様子を変える云々の方がよく分からない。世界改変と死者の蘇生がどう関係してくるのか? 関係あるのか? すみません見当もつきません。お手上げ。
ところで真エンドと言えば、ラプラスを真犯人と言い当てるシーンの「ラプラス。」の選択肢も地味に謎である。ラプラスって名前はどこから出てきた? 作中で名乗ったことあったっけ? これは単純に作者のミスか。
「白夜夢」解説
前2作と打って変わり、舞台は現代の日本っぽい都市に変わる。ラーメンやらタコ焼きやらガチャガチャやら1000円自販機やら、童話「不思議の国のアリス」やらが存在する辺り、相当に我々の住む現実に近くファンタジー要素も皆無(表面上は)。
ストーリー自体は非常に簡潔で、主人公が猫を追って町を彷徨い、誘われるように長い穴に落下。落ちながら主人公は、落ちた先で先述の童話にちなんでアリスを名乗ることを決める。以上。
だがよくよく観察すると、日常にはあり得ないモノが色々とそこらに転がっているのだ。
アリスになる前の主人公
主人公は休学中のおそらく大学生。現在は食べ物の画像生成AIを扱うバイトで生計を立てている。
かなりの人見知りで人間関係も乏しく、学校関係で名前を覚えている人物は数えられる程度。口下手、人に気を遣わせることが多い、誘いを断るのが苦手と、コミュ力もガタガタらしい。
彼女の最大の特徴は、ほとんどあらゆる人間と動物が常時何らかの食べ物に見えてしまうこと。視覚的には街中から人間と動物が消滅し、代わりに器に盛られた料理の群れが人語をしゃべりながら街を跋扈しているような異様な有り様だが、それとは別に人見知りの激しさからそれらと遭遇する度に精神的ダメージを受け意志力=HPが減る。SAN値ピンチ。
本人の自己分析によると、人が食べ物に見える件は一日食べ物の画像ばかり眺める仕事に適応した結果とか、過労やプレッシャーやらが原因らしい。ただアルコールを摂取して酩酊度が高まり、頭がぼやけている間は本来の姿もぼんやり見えるようになる(ゲーム面では各々の特殊能力も表示される)ので、これでどうにか日常生活を乗り切っている。逆に酔いが醒めると食べ物の画の方が明瞭になってしまい、遭遇時にクリティカルダメージが発生する元になる(実際のゲームでは素面の方が画がぼやけてしまうのだが、これはゲーム上の分かりやすさを優先したためだろう)。SAN値直葬。
これらのダメージを軽減すべく、道中では三角コーンや標識やバリケードを遮蔽物にしたり、帽子やマスクや段ボール箱を身に着ける(?)などして一時的な防御力を確保しながら進んでいく(盆栽や空き瓶はどうやって使っているんだろう?)。
登場する他人の見た目は食べ物という点ではみんな一緒のはずだが、相手によって受けるダメージが結構異なる。
年下かつ無害そうな男子&女子学生や、主婦などと出会った際の意志力の減りは微量。捕まったら面倒臭そうな客引きとか酔っ払いとか、深酔いしている時の警官などが大ダメージなのは分かりやすい。サラリーマンやOLら勤め人、ギャルやヒップホッパー、カップルもそこそこ大ダメージを受ける。この辺は休学中の負い目や苦手意識など想像の余地がありそうだ。
通常エンド以外の全てのエンディングにおいて、主人公は平凡な人生を少しだけ前向きに捉えられるようになる。裏を返せばそれまでは少なからず不満のある毎日だったということだが、それはまぁ大抵の人が大なり小なりそうだろう。
何なら意志力が尽きてゲームオーバーになった時も、それなりの満足感と共に「ようやく普通で幸せな日常に戻ることができた」と出る(分類も「HAPPY END」。れっきとしたエンディングのひとつ)。何も果たしても変化してもないのに普通の日常に戻れたの? 人がちゃんと人に見える状態に? とも言われそうだが、自己分析通り仕事のストレスが原因だったのだとしたら、ちょっと普段と違うことをして発散させれば解決する程度のものだったのかも知れない。
大穴としては「ペン先で作ったペンダントを手放した=ペンダントが食べ物化の原因」「白猫を追うのをやめた=白猫が原因」なんてのも考えられそうだが……これらはさすがに陰謀論止まりだろう。
一夜の愉快な仲間たち
街中の特定の地域では、全く食べ物に見えない普通の姿の人と出会うことになる。彼女らサブキャラはそれぞれ特殊エンドの出現条件に関わっているため、上手に街を渡り歩いていく必要がある。慣れると通常エンドを目指す際に居場所を回避するのが逆に面倒になってきたりする。イベントを避けるとスキルもお預けになるし……
全5人(+α)いる「普通に見える人物」はそれぞれ、『夕日』や『反復』で登場したキャラと対応している(Steamの実績のアイコンで確認可能)。
・探偵(願望器)
出不精な自称・安楽椅子探偵。受けた依頼はハイテク機器と人を使い事務所から出ずに解決する。アイドルとはグループチャット上での知り合いで、奇妙な少女の姉でもある。さらに怪しい少女とコネがあるなど顔が広い。
主人公が持ち込んだ猫探しという地味な仕事に「こういう普通の探偵の仕事がしたかった」と食いついてくる。じゃあ普段はどんなハードな依頼を受けているのか? というツッコミは主人公も行っていた。……まさか「願望器」ってそういう? あの妹の姉となると安易に否定し難いのだが……
インフィニティモードでは眼帯を持参。中二病?
・クラスメイト(謎の人)
主人公のクラスメイト。セーラー服に似た服装だが高校生ではないはず(そうなると主人公の酒浸りが大問題になってしまう……)。主人公は名前すらろくに覚えていなかったが、クラスメイトの方は主人公を友達として大事に思っているようである。
怪しい少女と共にバンドを結成し、ライブハウスでたまに演奏している。バンド名は「新世界」。歌え新世界へ! Burning up! 新世界と言えば『反復』に登場した長月も新世界を奉ずる異教の一員だったが……
インフィニティモードではピックを持参。ギター担当なのか。
・アイドル(亡命中の姫君)
ネット上で人気の地下アイドル。主人公も彼女の熱烈なファンの一人。実は良家のご令嬢で、その身分を利用してか「大人の力」を行使できる。
クラスメイトとはライブハウスにおける先輩後輩の関係。かわいい後輩に先輩風を吹かせたい一方、クラスメイトの方からは頼りない先輩と思われている悲しい人でもある。ちなみに他のサブキャラとペアの特殊エンドがない唯一のキャラでもある(5人いたら1人はどうしても余ってしまう……)。
インフィニティモードではゆめにっき夢日記を持参。最近、異世界で船旅をする夢をよく見るらしいが……?
・怪しい少女(謎の商人)
バンド「新世界」のメンバー。すなわちクラスメイトのバンド仲間。自由奔放で自分が楽しむこと・面白いことを優先して行動しがち。友人である探偵の頼みで、彼女の代わりに現場の調査に赴くことも。仲間内からは神出鬼没で知られ、主人公もその一端を目の当たりにすることになる。
バンドの他にラジオ放送「異世界ラジオ」も手掛けており、隙あらば通行人にバンド共々宣伝している。この放送が何やら思わぬ所まで届いているようで……?
インフィニティモードではタバコを持参。なお彼女が20歳以上かどうかは不明だが、怪しい少女って言ってるし……というか水着の女性を除き、主人公を含めた全員が少女扱いである。
・奇妙な少女(元船長)
謎多き少女。一言で言えば不思議ちゃん。姉の探偵共々オッドアイだが、目の色は姉妹で左右逆だったりする。また『夕日』の願望器と元船長には他の船員を別のキャラに変化させるという共通点があり、これも二人が姉妹であることを示唆……って分かるか!
本編でも突然の入水で主人公を戸惑わせている。実績コーナーの記述にもろくな情報がない、というか文章自体がほとんど無い。ゴクゴクって何を飲んでるんだ、海水か? だが彼女の存在と行動ひとつで、この世界もただの現実世界ではないとうかがい知ることができる。
インフィニティモードではペンギンのぬいぐるみを持参。分かりやすい『夕日』とのリンクである。
・水着の女性
どう見てもアンです。
なんで彼女がここにいるのか。そう言えば『夕日』のゲームオーバー時に海辺でのバカンスに繰り出していたが……?
すれ違った主人公には今後何度も出会いそうという予感を抱かせている。また実績コーナーの記述で、「キラキラしたお姉さん」が主人公からの手紙を奇妙な少女に託している。これもおそらく彼女だろう。
アリスと上と下の世界
通常エンド(なおトゥルーエンドでもある)では先述の通り、穴に落下した主人公がアリスを名乗ることを決めたところでゲームが終わる。
『反復』をプレイ済みなら自明だろうが、この主人公こそが後の異界者アリスである。『反復』の実績の項でも名付けの理由が一致しているので確定と見ていいはずだ。
ついでに『反復』の主人公である運び屋の方から請わない限り、アリス人格が表出しない理由もこれで分かった。人見知りだからだ。何たるパーフェクトアンサー。そして「別世界の自分」という距離の近さゆえか、人前に出る必要もなくなりストレスが大幅に軽減されたためか、運び屋に対しては(場面にもよるが)白夜夢時代のコミュ障ぶりが嘘のように饒舌になる。環境は人を変えるのだ。
妙に常識が欠落しているという運び屋の評も、元々別世界の人間だったのだから当然である。
そしてこの件から『夕日』『反復』のファンタジー世界と、白夜夢の舞台となった現代世界が繋がっていることが分かる。
2つの世界が繋がっている証拠は他にもある。アンらしき水着の女性の存在。その女性が穴に落ちた主人公からの手紙を、落ちる前の世界にいる奇妙な少女に渡した件。怪しい少女の発信したラジオ放送が『夕日』世界の遺跡から聴こえてくる。『反復』では謎の商人がコーラや監視カメラと思しき品物(後述)を売りつけてくる、等々。
そして……以前の項目では言葉を濁したが、ぶっちゃけこの白夜夢の世界こそが長月らの言う新世界と思われる。神無月が取り返しに来た黒い箱を思い出してほしい。なぜ運び屋はあの箱を空箱としか認識しなかったのか、黒い影にならなかったのか? それは運び屋が(正確には運び屋の中のアリスの人格が)すでに新世界を認知していた。それどころか新世界そのものの住人だったからに他ならないだろう。あの箱が『反復』の世界の住人に新世界との融合を促すためのアイテムだったとしたら、元から新世界にいた人間には何の影響も及ぼさなくても不思議はない。
そもそもこれだけ長月の解説とかなり一致している世界を出しておいて、実は新世界は全然違う場所ですとかいう話もないだろう。いやあるかも知れないが。あとこれを前提にすると他の作品の色々な疑問に説明が付けやすくなるという筆者の自分勝手な理由も関係している。
例えば基底世界へ落ちた白夜夢の主人公=アリスが、その後どうなったのかという点。これの答えは長月が言った「現存する世界に新世界が重なり、ひとつに融合する」というセリフにあると『反復』の項に書いた。
まず運び屋曰く、アリスは別世界のもう一人の自分のように思えたとのことである。これは実際にそうなのだろう――つまりふたつの世界は表裏一体で、基底世界の住人に対応する人物が新世界にも存在している。
そして「現存する世界に新世界が重なり、ひとつに融合する」。ならば基底世界の住人と、対応する新世界の住人が直接出会ったらどうなるのか? 同じように、その二人が融合するとは考えられないだろうか? そしてその結果が運び屋と、彼女の頭の中だけに存在する実体無きアリスということなのでは……と筆者は捉えている。
で、直接は新世界を知らない運び屋(の主人格)もアリス人格と同様に新世界の人間判定され、黒い箱は効果を発揮しなかったという訳だ。または新世界との融合を果たした人間だからこそ効かなかったのか。
ところで「非実在の塔と未来」の項で、潮汐の塔を知らないのが『反復』主人公なのかアリスなのかは「この時点では」不明と書いた。
しかしこの白夜夢で、アリスは元々基底世界を知らなかった新世界の出身と判明した。なので基底世界の現地人である運び屋よりは、よそ者であるアリスの方が塔の不在を知らない人物だった線がより濃いだろう。
アリスがそんな塔が存在すると勘違いした理由は想像するしかないが……学校の授業か何かで見聞きした別の何かの塔と記憶がごっちゃになっていたとか、触れたことのあるゲームか小説かアニメかでそういう架空の塔が出てきたのを普遍的なモノと誤認したとか、そんなところではないだろうか。
大団円エンドの白猫と彼女
街を上手く一筆書きし、時間内に5人の少女と出会いつつゲームクリアすると特殊エンド「大団円」になる(念押しするが、いわゆるHAPPY ENDはゲームオーバー時のやつである)。主人公の知らないところで彼女たちが小さな善意で連絡を取り合い、それが回り回って主人公を穴落ちから回避する……という内容だ。
この過程で白猫が新世界にいることが門番=ゲートキーパーにバレたと謎の女性から伝えられ、それ以上の活動を白猫が断念したのが直接の経緯である……のだが。ここにも謎が2つほどある。
まず1つ目。これ誰?
誰この人?
思い付く候補はまずはアン。根拠はわずかに見える着衣の色が作中の水着姿のそれと同じだから……なのだが、髪の色が微妙に違う気がする(アンは薄紫よりもピンク寄り)。何よりアンは敬語を全く使わないのだ。誰に対しても常にタメ口。なのでこの口調は非常に違和感がある。
もう一人はラプラス。髪型と髪の色がおおむね一致し(髪はもう少し短めだが)、猫を被っている時は敬語も使う。慇懃な口調もイメージからは外れていない。ただラプラスと白猫との接点が見当たらないのだ。結局誰なのかははっきりしない。
そう、この女性と白猫は顔見知りの可能性がある。さらに白猫は人語を解する。んで白夜夢以前の過去作に登場した白猫と言えば? 白猫への変身能力を持った探検家のモフモフ亜人・白だ。いや該当者だからといって件の白猫が白である(ややこしいので人名の方は以降「シロ」と書く)確証はないのだが、これだけ一致してるキャラを出しておいてそれとは無関係ですとかいう話もないだろう(二度目)。ゲートキーパーと関係がある以上、少なくとも亜人なのはまず間違いないと思うのだが。そのゲートキーパーが水星汐で次回作における新世界と白猫(この白猫は確実にシロである)の再登場を匂わせているので、白夜夢の白猫も同じくシロの可能性が高い……はず……
で、教会と亜人は敵対しているため、なおさらラプラスの線は薄い。一方アンはゲートキーパーとの関係が水星汐で明らかになっており、シロと直接面識がなかったとしてもゲートキーパーの意向を伝えるためにアンの方から接触したということはあり得る。やっぱりアンなのか?
白猫がシロであろうとなかろうと、それに関係なく大きな疑問がもう1つある。白猫は何を目的に、主人公を基底世界へと誘ったのか? 謎の女性にあきらめろと言われた後に実際にペンダントを返して立ち去ったことから、白猫は明確な意図をもって主人公を穴まで誘導してきたと分かる。それは一体何のために?
動機が全く思い当たらないのだ。長月ら新世界教の信徒ならまだ理由をこじつける余地があるかもだが、亜人が何故そんなことを? 異世界の品物や知識を導入するのではなく、人間を基底世界に連れてきてどうしようというのか? そもそも主人公を選んだことには何か深い意味はあるのか? それとも無作為に選んだのが偶然主人公だっただけ? ゲートキーパーに黙って独断で動いた理由も想像がつかない。
全然分からん。何も分からん。次回作で何か開示されればいいが。
通常エンドの二通の手紙
実績コーナーで披露される5人の少女のストーリーは、通常エンド(トゥルー)の後日談となっている。時間は本編の夜から結構な日数が経った後のようだ。
大団円エンドは主人公が、探偵とクラスメイトに連絡を取らなければと考えたところで幕を閉じる。同様に通常エンドを経て基底世界に来た主人公=アリスも、この二人に現状報告をするべく手紙を2通書いた。色々あって手紙は新世界に渡り、二人の所に無事届いた。で、問題はその「色々」である。
まずは探偵に宛てた方の手紙。これはおそらく基底世界にて「キラキラお姉さん」から託された奇妙な少女が、こっそり新世界の探偵の家に届けた。
こちらはキラキラお姉さんがアンだとすればさほど疑問点はない。アリスとアンは白夜夢の時点で遭遇し得る(海辺の隠しイベント)。新世界と基底世界の両方でアンと出会ったとなれば、彼女が何らかの方法で2つの世界を行き来できることにアリスは気付くはず。手紙を新世界に届けるようアンに頼むことも可能だ。妹の奇妙な少女経由で探偵までたどり着かせるルートも、アンなら自力で見出すかも知れない。……いや苦しいか?(奇妙な少女がアンをキラキラお姉さんと呼んでいる=名前を知らないことから、この二人は面識がない。知った仲ならもしかしたら、新世界での家族関係を聞き出してそこから手を考えるといったことも比較的容易かも知れないが)。
問題はクラスメイトに宛てた手紙の方だ。各サブキャラのエピソードを時系列順に並べるとこうなるはずである(Aはアイドル、Bは探偵、Cは怪しい少女の出来事)。
さて一番の突っ込みどころは、やはり怪しい少女の行動だろう。
依頼のキャンセルを無視して現場を調べに行くのはまだいい。何故そこに視聴者からの手紙を置く? 「面白そうだから」?? 探偵はこんな訳の分から……えー独創性に優れた頭の持ち主を信頼して調査を頼んでいるのか?
というかその「視聴者の手紙」ってアリスがクラスメイトに宛てた手紙なんだが……視聴者の手紙ということは異世界ラジオ宛てに投函された手紙な訳で、そしたら番組スタッフである怪しい少女は一度は中身を読むはずだ。んでそれが自分のバンド仲間宛ての手紙と分かるよな? 何故クラスメイトに知らせなかった? 黙って手紙を投棄した? 仲悪いのかこの二人は? 「テンプレ」エンドでは携帯で雑談し合う程度に距離は近いようだったが。
というか手紙を異世界ラジオに送ったアリスかアンは、直接怪しい少女に手渡そうとはしなかったのだろうか。理由としてありそうなのは「探偵の時と違い怪しい少女→クラスメイトのコネクションをアリスもアンも見つけ出すことができず、クラスメイトまで手紙をたどり着かせるルートが思い付かなかったため、仕方なく唯一の手掛かりである遺跡から聴こえたラジオ番組に一縷の望みを託した」……とか、そんな感じなのかも知れない。だとしても怪しい少女が手紙をクラスメイトに渡さず、失踪現場に放置した理由の説明にはならないのだが……
疑問はまだある。2通の手紙にはそれぞれアリスの近況を撮ったと思しき写真が同封されているのだが、文明レベルがありがちなファンタジー水準の基底世界で、現代人が見ても違和感のない写真なんて撮る手段があるのだろうか。アリスが穴に落ちた時にカメラを都合よく持っていたとか?
ちなみにこの2通の手紙の文面から、アリスはいずれ新世界に戻ってくるつもりだったことが分かる(一時帰還か再定住かは不明)。ということは、アリスは今もちゃんと実体を持っているということなのか? 融合説はオシャカ? それとも新世界にいる間は常にアリス人格でいるつもりなのだろうか。まぁ手紙がどのタイミングで書かれたものかも分からない以上、ここから何か見出そうとするのは無謀かも知れない。
ぼんやりした人影とか閃きとか
午前2時くらいを過ぎると街の全域に現れ出す「ぼんやりした影」たち。酔っていても素面になっても何者かはさっぱり分からない、まるっきり謎の強敵である(注:戦闘はしません)。
だが先の仮定、白夜夢の世界=新世界を前提にすればおそらく説明が付く。ズバリこいつらは「覚醒」により魂と肉体が分離し、魂だけの状態で新世界=白夜夢の世界にやってきた基底世界の人間だ。影と言えばこれ関連しかあるまい。実際にどんな風に見えるのかは不明だが、肉体の方の有り様を考えればまともな外見でないのは明らかだろう。意志力もごっそり減るというものだ。
道中で発生する閃き。英語だとInspirationとあるので文字通りの「ひらめき」らしい。ピコーン! 高速ナブラ! というアレだ。
で、突然閃いたスキルを得る訳だが、その内容は全て形ある物品、アイテム(缶ビールとか烏龍茶とか手袋とか)である。まさか水星汐のゲートキーパーみたいに虚空からアイテムを取り出し……いやいやそんな訳がない。それよりはアイテムの機能を模した特殊能力という線の方がありそうに思える(「缶チューハイ1本飲んだ時のように酩酊値15アップ!」とか)が、そもそもスキルとか特殊能力って一体何だ。主人公は何者だ。やはり白猫が目を付けるほどの何かをこの主人公は持っているというのか。いやまぁ、こんな明らかにゲーム上の小道具でしかなさげなモノにいちいち突っ込みを入れることがそもそも大人げないと言われたらそうなのだが。
そう言えばこのスキルを操る能力は、『反復』でも使っているのだろうか。運び屋に体を預けられてアレコレこなす際に、これらのスキルも活用している……のかどうかは定かではない。
「水星汐」解説
現時点での最新作。『夕日』の流れを汲みつつも最もRPGらしい作りで、かつボードゲームや脱出ゲームなど色々なジャンルのゲームの要素も併せ持つ。ゲームオーバーがない点では難易度は歴代で最も低い。
英語では「Mareld」というタイトルになっている。古スカンジナビア語で海の火という意味らしい。「水星汐」といい、従来の分かりやすい題名とは路線の違った意味深長な命名である。なお「汐」は訓読みで「うしお」。すなわち潮の満ち引き、転じて潮時。音読みでは「せき」と読むそうですぅ。
この辺からメタフィクションの色が一層強まり、同時にアンやゲートキーパーまでもが直接プレイヤーに上から目線ででかい顔をし始める。『反復』で言いたいことだけ言い逃げしたラプラスが、本作のラストでおとなしくなった途端これだ。負けてたまるか、可能な限り謎を暴いておいしくいただきますしてやるという反骨心が本記事執筆の原動力のひとつである。
……と勢い込んだのはよかったが、この作品もまたややこしい裏設定だらけで……紐解くのもまとめるのも苦労の連続なのであった。
無為なる箱庭、その名は水星汐
まずは本作の世界――記憶喪失者こと主人公が冒険した世界の方だ――の起源から始める。
まず初めに、チェス盤の世界が協会の手によって創造された(教会じゃないの? という疑問はまた後で)。チェス盤の世界とは単純にゲームの世界のこと。『夕日』とか『反復』とか白夜夢とか、我々が今まで見て体験してきた世界だ。ついでにアンはこの「ゲームの中の世界」について、「無数にシミュレートされた世界の中にある砂粒のような一つに過ぎない」ものと形容している。
で、そのチェス盤の世界のひとつの住人(=登場人物)であるラプラスは、『夕日』にも登場した記憶喪失者と契約を交わした。これにより記憶喪失者は定期的に自分の記憶をラプラスに受け渡し(渡した記憶は記憶喪失者の脳裏から消える)、ラプラスは二人分の記憶を有することで万能に近い存在と化す。これは『反復』の項でも触れた、自身を強力な魔法媒介と化すことで難易度MAXな(例えば死者の蘇生)魔法をも実現可能にすることを目指す技法だと考えられる。
契約の目的は死んだコマドリを生き返らせることだったが、蘇生は不完全な形でしか実現できなかった(詳細はコマドリの項にて)。それでもなお契約を果たそうとしたラプラスは「何らかの複雑な奇跡魔法」とやらを使い、チェス盤の世界からより上位の世界へと移動した(詳細は後述)。そこで今度こそ死者蘇生を成功しようとしたがこれまた失敗……というより、どうあがいても不可能という事実を知る。
ラプラスがやろうとした事自体はこの頓挫をもっておしまいだが、問題は先ほど使った奇跡魔法の副作用(らしい)により、チェス盤の中に「あってはならない空間」――すなわち「水星汐」というゲームの世界が突然1個誕生してしまったこと。おまけに他のゲーム(『夕日』や『反復』)の登場人物たちが大勢、この水星汐の世界に引きずり込まれてしまった。
副作用という言い方からして、水星汐の世界の出現は全くの偶発的、術者のラプラスにとっても想定外だったと思われる。すなわち、この世界自体には何の存在意義もない。『反復』の仮想世界には主人公を永遠に平和な夢に閉じ込めるという目的があったが、こちらにはそういったものすらない。完全に無用な世界である。
ゲームの世界が増えただけならそのまま捨て置いてしまってもよかったのかも知れないが(協会の都合は知らん)、他のゲームのキャラが拉致拘束されているとなれば無視はできない。もちろん当のゲームキャラたちも元の世界に帰るべく、その方法を求めて行動を開始し……というところで本編が始まる。
果たしてアンに招かれた客人ことプレイヤーがこの世界に干渉――つまりゲームを遊んで進めていった結果、最終的にコマドリが奇跡魔法を解いてこの世界を処分する方法に気付く。そして世界は崩壊、ゲームキャラたちも元の世界に帰還できた。めでたしめでたし。だそうだ。
二人の偽者と一人のイレギュラー
水星汐の世界に登場するキャラの大半は実在の人物(旧作に登場したキャラと同一という意味で)だが、二人だけニセモノが存在する。一人はラプラス。もう一人は記憶喪失者……もとい、「本作の主人公」だ。
プレイヤーの分身となって水星汐の世界を探索する主人公は、『夕日』に登場した記憶喪失者その人ではない。その記憶喪失者がラプラスに受け渡していた、彼女の記憶の具現体。およびラプラスの奇跡魔法の媒介、すなわち水星汐の世界の核である。つまり記憶喪失者自身は、この世界に存在しなければ関与も一切していない。徹頭徹尾蚊帳の外だったことになる。
同様にラプラスも本人ではない。その正体は魔法で作ったハリボテである水星汐の世界が、自らの存在を否定し得る外部からの観測者――傍観者を排除すべく人(ラプラス)の姿と人格をとって現れた言わば防衛機構である。
この傍観者とは厳密には主人公のことではない。そもそも主人公自身は世界を支える媒介なのだから、世界には殺しに来る理由が全くないのだ。では誰かと言えば……主人公を操作している「客人」、プレイヤーこそが傍観者ということになる。何故ならいかなるゲームの登場人物とも異なり、ゲームの外という完全なる余所から入り込んできた異邦人だから。まぁそのプレイヤーが「乗り移っている」以上、実質的に主人公が傍観者とみなされる訳だが。
ラプラスを模倣しているのは、単にこの世界がラプラスの魔法で生み出されたからだろう。責任者代理というところか(ラプラスは責任者になった覚えはないのは置いておく)。
そう、水星汐の世界はラプラスの奇跡魔法の産物(副産物)。その魔法は記憶喪失者がラプラスに渡した記憶を媒介とすることで実現した。ゆえにこの媒介を壊せば――主人公を殺せば魔法は解け、水星汐の世界は崩壊する。同時にプレイヤーと主人公=記憶喪失者の記憶との接続は切れ、記憶はラプラスの元から記憶喪失者へと返還され元通りになった。
ここら辺までは真エンドまでたどり着ければ、ゲートキーパーの口からおおよそ説明されることである。本番はここからだ。
水星汐の作り手たちの記憶
『反復』の仮想世界では運び屋またはアリスの勘違いにより、潮汐の塔という実在しない建造物が登場した。ならば水星汐の世界も、ラプラスまたは記憶喪失者の記憶や知識が少なからず反映されているはずである。
どちらかと言えばラプラスよりも、記憶喪失者の記憶の方が色濃く出ているように見える。機械の墓場エリアや、廃棄された公道エリアは顕著な例と言えよう。こんな現代的なロケーションをラプラスが知るはずがないのだ。一方記憶喪失者は、シロが言うには「門」の向こうの世界で出会ったことがあるらしい。つまり記憶喪失者もまた異界人の可能性が考えられる(ただシロは、「あなたもこっちの世界(基底世界)から向こうへ行ったことがあるだけかも」とも言っている。後述の「三枚の鍵の~」の項で語る考察も含めると、出自はラプラスらと同じ基底世界である線が強い)。で、そこでの先進技術の知識が水星汐の世界に現れたのが先述のエリアという訳だ。
他だと遺跡エリアも記憶喪失者の記憶によるものと思われる。ラプラスは亜人の居住地域にはこれまた詳しくないだろうから。
また渓流エリアの奥にある、湖心の島の図書館も興味深い。魔法についてはラプラス由来であろう知識が詳細に記述されているのに対し、農業については全ページが全くの白紙。二人ともずぶの素人という訳だ。サイボーグ団地の隅に無造作にベリーやジャガイモが植わっているみたいな謎っぷりは、その辺に理由があるのかも知れない。
ついでに図書館には絵付きの推理小説(ラノベ?)もあるが、内容はお粗末の一言。これはどっちが書いた(描いた)のだろう?
とは言え、二人の記憶だけでは説明のつきにくい場所やアイテムも少なくない。先述のサイボーグ団地もそうだし、他にも泣く機械と墓地(堆土)とか、住宅街の奥の怪異とか、鏡の中の(?)大草原と骨橋の異世界とか。
これらは記憶喪失者が門の向こうにて触れたことのある……何かなのだろう多分。ゲームか小説かアニメかでそういうものが出てきたとか。あるいは頭の中で空想してた架空の世界が、奇跡魔法の中でダダ漏れになったとか。
敵キャラに目を向けると……動物は分かる。どこにでもいる。影はラプラスが『反復』のどこかで、ドローンは記憶喪失者が門の向こうで見たのだろう。サイボーグやキメラや魔力を持った怪しい動物勢は記憶喪失者が門の(以下略)。そう言えば基底世界では、いわゆるモンスターって全く登場してないんだな。
「光」がさっぱり想像がつかない。森でもゴミ捨て場でも海辺でも島でも出てくるが、旧作でそれらしいものは見たことない。先述の空想説を取るにしても、やけにバリエーションが多く具体性が強過ぎる。全くヒントらしいヒントがないということは、これから次回作以降で詳細が明かされるのかも知れない。といいなぁ。
三枚の鍵と三つの寝床、三人の残影
本作には3枚の「カード」が登場する。いずれもシャッターを開ける鍵として使用する、ということはカードキー、ICカードのようだ。いずれも顔写真があしらわれていることから、身分証の類でもあると推測できる。写真を除いたカード自体は3枚とも同種のものだろうか。
まず1枚目、「私の写真付きカード」。湖畔の小屋で見つかるこれには、その名の通り主人公の顔写真付きだ。3枚目の「見覚えのないカード」も湖畔の小屋で手に入るが、入手時期はかなり後になる。
2枚目は「見覚えのあるカード」。入手にひと手間かかるこれは、そこに至るまでの経緯がひと際謎めいている。
入手場所は渓流エリア、水上駅の廃棄された列車。時計を適切に回すと初めは社内の少女の影が外の景色(のさらに遠く?)を眺め、次に脂汗を流して何かの苦痛に耐えながらうずくまり、最後に何かを決心して主人公またはその背後の扉を見据える(バトル開始)。倒した後に出てくるのが見覚えのあるカード。だが写真が誰のかはついぞ思い出せなかった。少なくとも少女の影と同一人物ではあるようだったが。しかしなぜ時刻表がJR横浜線のなんだろう。しかも根岸線直通ときたもんだ。
さてこれらのカードにも、何か「元ネタ」があるはずである。一番それらしいのはEnd1の舞台である学校。カードは学生証だろう。End1には主人公とコマドリ、ラプラスの三人の名が登場するので頭数も合う。
このエンドの中で主人公は、ラプラスは名前すら覚えがないと言っている……となると見覚えのないカードの持ち主もラプラスか? なら見覚えのあるカードの写真(と、少女の影)は消去法でコマドリということになるのか。
私の写真付きカードを拾った際、主人公は現場の小屋にどこか懐かしさを覚えていた(気のせいかも的なことも言っているが)。そして室内にあった3つのベッドに注目する。いわく「私以外にこの場所に関係する人物があと二人いるということだろうか?」。
普通に考えるなら仮にベッドの主の一人が主人公だった場合、他の2枚のカードの持ち主が残りのベッドの主ということになるだろう。実際、見覚えのないカードもこの小屋の中にあった。偶然ではあるまい。
つまり主人公とコマドリ、そしてラプラスは、同じ屋根の下に住んでいた時期があったということになる。そこで注目したいのがコマドリの過去。彼女と主人公は同じ修道院で一時期暮らしていたと本人は証言するが、実はラプラスも一緒だったのではないだろうか。そう言えば湖心の島には教会があるが、あそこの地下室(「地下牢」は多分誤訳。教会に牢屋はないだろう)のベッドと湖畔の小屋のベッドってリンクしてるな? 片方をいじるともう片方も変化するやつ。教会と修道院は用途は違えど同じ宗教の施設……と、色々繋がってくる。
ここでちょっと、水星汐の世界が発生した発端を思い出してみたい。親友コマドリを死から蘇生させるというアレだが、そもそもコマドリは誰にとっての親友なのか? 実は作中では名言されていないのだこれが。
蘇生に関わっているのは術者のラプラスと協力者の記憶喪失者の二人。契約を交わす際に記憶という代償を差し出しているのは記憶喪失者である。つまりコマドリの復活を願った「親友」も記憶喪失者の方で、ラプラスは依頼されて手を貸してやっただけ……となるだろう、普通は。だがラプラスと記憶喪失者とコマドリが全員深い関係だったとなると話は変わってくる。つまりラプラスまたは記憶喪失者とコマドリの二人が親友だったのではなく、三人全員が仲良しトリオだったのでは? コマドリの蘇生は記憶喪失者とラプラスの双方の願いだったのではないだろうか? もしそうだとすれば蘇生を一回の失敗ではあきらめず、あらゆる手段に出て食い下がったラプラスの執念もうなづけるというものである。
ちなみに、記憶喪失者とラプラスは親友同士で間違いないと思われる。Steamにあるテイザームービーをご覧いただこう。百聞は一見に如かずだ。
ベッドに三人の性格を聞いてみた
小屋の3つのベッドのうち、「清潔なベッド」を調べると「清潔なベッドは持ち主の性格を表す」と出る。なら他の2つ、「乱雑なベッド」と「人形だらけのベッド」も持ち主の人となりを反映しているに違いない。ちなみにベッドの仕掛けを解く過程で、乱雑~は塗料で真っ白に塗られ、人形~は斧で真っ二つにされる(謎解きのためとは言え、なんて事するんだ主人公)。
記憶喪失者とコマドリとラプラス、どれが誰のベッドなのだろう? さすがにこれだけの情報で推理するのは無茶だが、せっかくなのでダメ元で考えてみよう。
まず乱雑なベッド。コマドリもラプラスもズボラなイメージはないので、消去法で記憶喪失者と見る。塗料で白く塗られるのは記憶を失い頭の中が真っ白ということか?
次は人形だらけのベッド。他人を掌握する魔法を使い、操り「人形」を従えているラプラスがそれっぽいか。一方で先の国王の彫像に備えた西洋人形の出所がここであることを思うと、コマドリの線も捨て難い。ベッドが斧で両断されるのも死のメタファーらしくもある。
残った清潔なベッドは……誰だ? 衛生面での清潔さの差なんて分かる訳がないし、比喩的な意味では……ラプラスもコマドリ(長月)も清廉潔白とは程遠いだろう。いやコマドリは一度死んだのでリセットとか? いやでもゾンビで改造人間だし全然清らかではない……
結論:考察は不毛だということが分かった。以上。
End1:人造魔女はスクールライフの夢を見るか
コマドリルートのエンディング。なんかいきなり主人公とコマドリ、そしてラプラスがどこぞの学校のクラスメイトになる。アンまでそこの先生になる。なんでや。
コマドリが青い蝶を使って主人公と世界に何かをしたのは明白だが、誰が見たって唐突である。この学校はいつのどこだ? 何故さっきまで戦ってたラプラスまで友達ポジなのか? そもそもどんな理屈で、一体何がどうなったのか?
まずはいきなり世界が変わった点の考察から。コマドリvsラプラスの決戦そのものは後者に軍配が上がったが、コマドリは最後の一手により「引き分け」に持ち込んだ。自然、End1がその引き分けの結果ということになる。
End1のサブタイは「胡蝶の夢」。夢と現実がごっちゃになり、どっちがどっちだけ? となるアレだ。また夢の内容をよく覚えてないと言った記憶喪失者に、コマドリは「忘れちゃいなよ」「一時のきれいな夢さ」と返している。そして「私を見ていてほしい。そして私の存在を信じ続けてほしい」の発言。
これらの情報を踏まえて筆者が推測したのは次の通りである。
コマドリが行ったのは水星汐の世界の簒奪および改変。または主人公を閉じ込める仮想世界の構築。このいずれかではないかと筆者は考える。
まず前者。主人公こそが奇跡魔法の媒介、世界の核だったとラプラスに知らされたコマドリは、主人公――魔法媒介に青い蝶を通じて干渉。ラプラスが媒介を使って水星汐の世界を(偶然)創ったように、コマドリは媒介を利用して水星汐の世界を自分好みに創り替えた。
後者はまんま『反復』のそれ。これまた自分好みの世界をこしらえてその中に主人公を引きずり込んだ。まぁ具体的な方法がどちらなのかはともかく、コマドリが自ら作り上げた世界に主人公と自分(と、あるいは水星汐の世界に居合わせた他のキャラたち)が配置された……ということである。
どうやってそれらを実現させたのかは不明。知らん。コマドリは空間操作に長けた魔女ということなので、それを駆使したんじゃないかと思う。「自分の身体の使い方を多少は心得ている」が「この体に受け継がれている魔法の研究はあまり多くなく、できることも限られていた」だそうで、本来ならもっとデカい事をしでかすつもりだったのかも知れない。その内容を知れる機会は多分今後もないだろう。
で、こんなことをした動機である。特に後者は一体何の意味があるのか?
まずコマドリはラプラスの傀儡による襲撃と自身の自爆攻撃により、「コマドリ、またはコマドリだったものの一部」と形容されるほどに肉体が砕け散った。最早余命いくばくもなく、ここから逆転して世界の打破などはとても望めない。
そんな体で彼女が最期にやろうとしたこと、やりたかったことは――自分の存在を何らかの形で残す・維持することだったのではないだろうか。コマドリは死体を不完全に蘇生させた、生前の彼女とは似て異なる存在である。いくら後付けで「設定」された通りにコマドリと名乗ってみても、自身が例に挙げたように「『彼女は君の親友ではない。君の親友は既に死んでいる』と君に言ったなら」「魔法はその瞬間に跡形もなく消えてしまう」。もっとも物理的に肉体が消滅したりする訳ではないが、彼女のアイデンティティが非常に脆いものであるのは想像に難くないだろう。だからどうせ死ぬくらいなら、最期に自分という存在が確実に残り続ける世界をコマドリは望んだ。
先ほど挙げた「私を見ていてほしい。そして私の存在を信じ続けてほしい」のセリフは、傍観者である主人公=記憶喪失者に向けられたもの。信じ続けてほしい=自分が消えないよう守り続けてほしい。だからコマドリが創造した世界の中心には記憶喪失者こそが必要だった。あるいは生前の記憶が途絶えたために実感は伴わずとも、かつて自分の親友だったという点でも記憶喪失者はコマドリの中で特別視される存在だっただろう。
で、修道院の同期という記憶喪失者との繋がりと、記憶喪失者の記憶にあった「学校」の2要素を組み合わせ、ラプラスも含めた3人(と、アン先生を含めた4人)の学生生活を実現する世界を創造した。修道院ではなく学校にしたのは、学校のある「門」の向こうの世界の方がよっぽど先進的かつ平和だったからだろうか。基底世界は戦乱に明け暮れた平和と程遠い世界だった。何より、そのためにコマドリは望まず生体兵器となった(コマドリの項を参照)。そんな乱世はまっぴらと言えばそうだろう。
ともあれ現実はコマドリが創った夢の世界に、それまでの現実は「一時のきれいな夢」として忘れ去られ、コマドリは幸せな日々を送るのであった。めでたしめでたし。
……もっとも前述の通り、この世界の主人公は記憶喪失者本人ではない。ラプラスも同様である。自ら創った偽物の世界で偽者と知らずに彼女らと仲良くする構図が何とも皮肉だが、コマドリが幸せならOKです!(グッ)ってことにでもしとけばいいんじゃなかろうか。
あと主人公=魔法媒介を取り巻く状況が余計複雑になったことで協会やアンはいよいよ頭を抱える羽目になったと思われるが、そんなことは誰の知ったことではない。被造物(二重の意味で)のささやかな反乱か復讐ということにでもしとけばいいんじゃなかろうか。
End2:主人公よ、お前は今何者だ
シロルートのエンディング。こっちは主人公と白猫形態のシロが現代っぽい世界に移って終わる。
ほじくると色々濃い内容だったEnd1と比べると、End2は……というかシロルート自体がコマドリルートと比べて相当に格落ちする内容と言わざるを得ない。
まずシロが、ラプラスとの因縁がほとんどない。憎き教会の主教(シロ曰く「盗賊の首魁」)として戦う理由こそあるが、それ以上の個人的な関係が何もないのだ。おかげでラプラスの方も一言も交わすセリフがない。
初登場シーンでは攻撃が一切コマドリに通じず、水星汐の世界を脱出する方法もコマドリの「媒介を探して破壊する」に対し、シロのは全くの不正解だった。コマドリも肝心の媒介が誰かまでは真エンドまで分かっていなかったので完全正解ではないが。60点だな。
そもそもシロ自身がラプラスともコマドリとも主人公とも違い、水星汐の世界の成り立ちに一切噛んでいないのである。言ってしまえばモブキャラ代表。他ゲーから引きずり込まれたキャラクターの中で、たまたま出身のゲームで最も地位と実力が高かっただけの理由で舞台に立った子……と、どこを切り取ってもキャラが「薄い」のだ。
ただ魔法に無力な亜人だからこそ、魔法の総本山の大ボスを身体能力と策で出し抜くラストバトルは価値があった……いやその後の異世界移動をやったのがシロじゃなく推定ゲートキーパー(指パッチン)な点でもまた差を付けられている。異能なしの悲しさよ……
で、移動後の別世界(おそらく「門」の向こうの世界)。明らかに主人公が知っている街並みで、白猫モードのシロを抱えて駆け出すところで幕が下りる。奇跡魔法が破壊されたことで記憶はラプラスから記憶喪失者に戻り、かつていた世界の土地勘も戻ってきた。ここからまた小さな冒険が始まるのかも知れないが、それはまた別のお話――
って、待て待て待ておかしいだろこれ?
水星汐の世界崩壊してないよこのエンドでは? なんで記憶戻ってるの!? そもそもこの主人公は記憶喪失者の記憶が水星汐の世界の中で擬人化しただけで、記憶喪失者本人じゃないよ? ていうかそのまま水星汐の世界から出ちゃって大丈夫なの? 擬人化解けたりとかしない??
OK。落ち着いて考えよう。
まずゲートキーパーは何故、突然主人公とシロを「門」に放り込んだか。その行為に何の意味があるのか。主人公は奇跡魔法の媒介で、水星汐の世界の核でもある。その核を世界の中からいきなりぶっこ抜くと……世界はどうなるのだろう? 崩壊したりしない? そう、実は媒介を破壊する以外にも方法があったのだ、ゲームの外の上位存在だけが使えるチート技が。しかしそういうやり方はいわゆるデウスエクスマキナであり、おいそれとやるものではなかった。「ゲーム」がラスボスの撃破までたどり着き、プレイヤーが干渉する部分が一応の決着を迎えるまでは。
媒介を失った水星汐の世界は崩壊し、主人公=記憶喪失者の記憶は記憶喪失者に戻る。ところが記憶が記憶喪失者の元へ行くのではなく、記憶喪失者の本体の方が記憶の所へどういう訳か引き寄せられる結果になった。で、ひとつに統合された記憶喪失者はシロと共に「門」の向こうの世界に降り立ったのだった……という訳だ。
うん。苦しい。強引過ぎ。
なんだそのご都合過ぎる記憶喪失者の挙動は。大体そんな裏技を使ったなら、いくらゲートキーパーでも少しは匂わせるようなことくらい言うだろう。明らかに無理しかないが、皆まで言わないでほしい。作中の状況からどうにか整合性の取れそうな解釈をこねくった結果がこれだ。
大体「門」の向こうの世界に来た後の記憶喪失者の自意識は、どう見ても水星汐の主人公のまま継続している。じゃやっぱり本体と統合してない、記憶の具現体のまま? でもそれだと街の地理を思い出せている理由を説明できない……
分からん。無理。説明しろゲートキーパー。
上位存在たちのバックヤード
水星汐の世界に登場するキャラの大半はゲームの登場人物だが、二人だけ例外が存在する。アンとゲートキーパーだ。
彼女らは水星汐(および他の諸作品)の世界の登場人物であると共に、それとは別のもうひとつの世界の住人にもなっている。世界といっても作中に登場するのはどこかの部屋の中だけなのだが、見た限りはこれまた現代と遜色ない文明レベルと察せられる。例えば「飢餓や不公平が少ない」「権力に外部的な縛りを付けることに成功している」「生産力の発展速度が凄まじく、下流階級者でも色々なものに手が届く」など。
あともう一人、この謎の世界の登場人物がいる。ラプラスである。彼女はコマドリの蘇生のために奇跡魔法を使ってより上位の世界を目指した……という下りがあったが、ここがまさにその世界という訳。ここはそれぞれの「ゲームの世界」の上にある上位世界に当たる。
そしてゲートキーパーの「チェス盤の世界の人々の認識ではここ(上位世界)は神の世界で、ラプラスは神は万能であると思っていた」との発言からして、この部屋はゲームの開発室。そこに居座っているアンとゲートキーパーは作者の代弁者と考えられる。ゲームの中の二人は「作中に『出演』している『ご本人(注:作者本人という意味ではない)』」ということになるか。
で、ラプラスは神の力――開発者権限に頼ってコマドリを蘇生させようとしたが、それは不可能と断られる(協会の人に?)。作者ならキャラを増やすも復活させるも何とでもできそうなものだが、本作はそういうルールだと突っぱねたのだろうか。またはシナリオの整合性が云々で却下したか。まぁ作者なら変更の余地がなきゃ誰だってそーする私もそーする。
で、夢破れてただでさえ傷心なところに、さらに協会から何やら詰められ(「お前ゲームキャラのくせに何勝手にゲームから出て開発室来てんの? しかも勝手にゲーム増やしてくれてどう落とし前付けてくれんのお前?」とかそんな感じか?)、挙げ句本作から(あるいは一連のシリーズから)の除名処分を下されるなど踏んだり蹴ったりな目に遭ってしまう。除名はアンの奔走で何とか免れそうな模様だが水星汐の世界の始末はラプラス自身にもできなかったようで、結局ゲーム内のキャラたちと客人=プレイヤーに委ねられることになった……という次第である。
しかし制作者の部屋に突然ゲームの登場人物が現れるとか、驚天動地な出来事だと思うが。普通慌てふためくし、相手によっちゃ自分の命の心配するぞ。私だってすぴくりやだんまりのキャラが出てきたらどんな反応するか分からん。だんまりの方なら例え主人公でも逃げるか通報する。
なのだが実のところ、アンにしてもゲートキーパーにしてもこういう出来事は驚くことではなかったりする。何故なら前例があるから。というかゲートキーパーその人が前例だから。アンに対してゲートキーパーは「私も客人なんだけどね」と嘯いているが、この発言は彼女もまた基底世界から上位世界へやってきたことを意味する。といっても彼女は実質的にアンと同等の立ち位置なので、ラプラスとは全く異なるのだが。
協会は教会じゃない
と、ここまで協会というワードを繰り返し使ってきた。これは教会の誤字ではない。それぞれの話の文脈からしても、ラプラスが主教をやってる教会のそれではなさそうなのはうっすら感じ取れただろう。
使用言語を英語にすると両者の違いが明確になる。教会はchunchなのに対し、協会はassociation。確かに別物だ。日本語訳担当はなんでこんな発音も字面も紛らわしい単語を使っちゃったんだろう(ああそうそう一ヶ所だけ、「チェス盤の補充として教会に取り出され~」とあるが、これは協会の間違いである。ほら自分でも間違えてる、言わんこっちゃない)。
さてこの協会とはどういう団体なのか? 前項までを見ていけば想像がつく人もいるだろうが、これは各ゲームの制作会社「に扮した」架空の組織と思われる。つまりこっちが作者のアバター……とも言い難い。何せ作中には直接登場はしないため、作者の代弁などは一切行わない。あくまでそういう設定があるだけという印象である。
協会は組織だけに規律にうるさく、トラブルなどへの対応が厳しめなのがアンらとの違いと言える。老害がどうとかアンも愚痴っているそうだが、どんな論戦が交わされたのか詳しく聞いてみたいものだ。
アンの罪状を問う
ゲートキーパーが言うには、どうも当初はアンが普通に水星汐の主人公役も演じる予定だったらしい。ところがアンと協会の間の取り決めとやらにより、客人ことプレイヤーがメインで水星汐の世界に干渉することになった(アンはGM役に収まった(?))のだとか。「ボスは不干渉の立場を取ることにした」と代理人からも説明されている。
その取り決めが行われた理由だが、ゲートキーパーは「前回の失敗のせいで、アンは自分がチェス盤に上がりたくもないし、上がることもできなくなってしまったのさ」と語っている。言い換えれば次回作の主役を剥奪されるほど重大な、なおかつアン自身も「トホホ~、もう主人公はこりごりだよ~」となるような失態またはトラウマ的な出来事があったと推察される。
この「前回の失敗」とは一体何を指しているのか? アンって何かやらかしてたっけ?
「前回」は素直に前作――白夜夢のことと捉えるべきだろう。白夜夢で(推定)アンのしたことと言えば水着着て基底世界から新世界に来たことと、奇妙な少女に探偵宛ての手紙を託したことか。それと白猫に警告もしたな。……どれもやらかしという観点ではいくらでもこじつけられそうな行動だが、アン自身が嫌になるような体験には当てはまらないように思える。
なら白夜夢のさらに前の『反復』ではどうだろうか。『反復』でアンのやった失態……失態…… …………
……えーと? まさかと思うが、「飲み過ぎて路地裏でゲロ吐いてた」がそれ……なんてことある? そんなアホみたいな理由で??
じゃ、じゃあ『夕日』はどうだ? アンが主人公やった唯一の作品だしこれなら……いや駄目だ。『夕日』にはアンの絡んだエピソード自体が何にもない。あるのはOPと世界情勢を説明した後日談だけだ。
……どうやら消去法の結果、「飲み過ぎて路地裏でゲロ吐いてた」説が相対的に最有力になってしまったようだ。マジですか。これが主役やりたくなくなった理由なのか。そんなんでいいのかアン。シリーズの顔役がそんなんで本当にいいのか。
ていうか、真エンド迎えた後のタイトル画面でもアン飲んでるよな。据わった目と赤ら顔で。くれぐれも吐くなよ。
水星汐:無為なる箱庭にひと時の愛を
機械の墓場エリアの概念的最深部(距離的には骨頂が最奥)、サイボーグ団地の制御室で繰り広げられる音声ガイドとの問答。「会社」のコンピューター群により毎秒30万個配備される工場?? とヴィーナスのように圧倒された人もいることだろう。
これは何ぞや? という答えは、その少し先に示されている。一行がたどり着いた工場――毎秒30万個のうちの1個が担当しているのは、船の生産プロセス(進水・出航過程を含む)のシミュレーションである。ならば他の30万-1個の工場集団も、それぞれ何か他のシミュレーションに従事していると考えられよう。
……いやいやそれもおかしい。いくら何でも毎秒30万のペースで企業に新たな案件が持ち込まれる訳がない。と、この「会社」そのものが何なのかはつかみかねるのだが、この光景が表す概念は何となく察せられる。
これは要するに、コンピューターによる膨大なシミュレーション作業の過程を「内側」から見た様子なんじゃないだろうか。例えばスパコンの「富岳」は1秒間に約44京回の計算が可能とのこと(これでも2024年時点では型落ち化しているらしく、後継機の開発がすでに行われているとか)。その計算の様子は無論コンピューターの中でのことなので目には見えないが、可視化したところで人の目では全く追いつきようがない。それを演算速度を落としつつ、比喩的に表現したのが毎秒30万個の工場配備というやつなのだろう。と筆者は考える。
さて、ここからが本題である。これだけのネタならわざわざラストに持ってこない。
アンは「ゲームの中の世界」について、「無数にシミュレートされた世界の中にある砂粒のような一つに過ぎない」ものと形容している――と冒頭の項で述べた。ここで言う「ゲームの中の世界」とは開発室という名の上位世界を含まない、「水星汐の世界」と呼び表してきた世界のことを指しているのはもうお分かりだろう(たぶん)。
ゲームというのは実際、大体において一種のシミュレーションであると言える。そもそもシミュレーションーーすなわち模擬実験とは、(特に現代では)ある現象や環境をコンピューター上に疑似的に再現し、結果や最適解を予測する……ってことでいいのか? めんどくさいから厳密な定義は各自Wikipediaでも見てもらうことにして、ゲームもまた登場人物のビジュアルとスペックや、舞台の構造、物語の展開、各場面での選択肢とその結果……その他諸々の設定がコンピューターに読み込まれ、画面上に再現された仮想環境の端くれという訳だ。
で、これをプレイすることは、ゲームという名のシミュレーターで試行を行うということと同じである。
シミュレーションは現実ではないから、実際に用意するのが困難、または不可能な環境も生成できる。現実には亜人も魔法もモンスターも存在しないが、ゲームの中でならそんな不思議世界も思いのままだ。
シミュレーションは現実ではないから、何度でもノーリスクで試行を重ねたり条件を変えてリトライできる。戦闘で負けても失うものは何もなく(強いて言えば時間と食品だけ)、パーティーを相手に合わせて最適化した上で再戦できる。
シミュレーションは現実ではないから、本題と関わりない箇所は省略もできる。移動は一瞬、長くて数秒。バシバシ叩き合うだけの戦闘も倍速化機能でスムーズに進められる。アイテムの山もカバンに突っ込めば自動でまとまってくれる。
マルチエンディングもシミュレーションならではの仕様である。現実なら人生は一度しかない。複数の結末なんて体験できる訳がない。だがシミュレーションならそれも容易だ。
だが水星汐において、二つあるどちらのエンディングも水星汐の世界の破棄という大目的には至らない。失敗、大げさに言えばバッドエンドだ。
で、その両方を目の当たりにした後、ゲートキーパーがひょいと取り出すのが真エンド。目的に対する成功パターンである。そんなもん自分で用意できるなら最初から出せよという意見もあるかも知れない。何故そうしなかった、そうならなかったのか?
この水星汐というゲームで綴られる物語は「誰かが自分の存在を残したいがためにつけた醜い爪痕」なのかも知れない、とゲートキーパーは推測している(確定事項ではない)。それを見てもらいたいがための本作であり、それはおそらく真エンドではない。つまり二つの「失敗」に通じる本編こそがその「爪痕」なのだ。
だが誰かとは誰なのだろう? コマドリ? ラプラス? 記憶喪失者? 「水星汐の主人公」? それとも? 何なら作者??
筆者は――おそらく正解からズレているだろうことを前提に挙げると――
これはシミュレーションの結果産み落とされた「失敗例」たちの物語なのではないか、と考えている。
秒間30万回よろしくシミュレートを繰り返した末に、望む最適解を得られたとする。だがその陰には無数の試行錯誤によって生まれた、無数の「最適に至れなかった解」がある。そんな有象無象はコンピューターの中で自動的に弾かれ、一瞬のうちに消えてなくなる。誰もその存在を気にも留めず認識すらされない。
水星汐で言うならEnd1とEnd2がそれに当たるが、実際はプレイヤーが体験しなかった失敗エンドが他にも何万何億とあるのかも知れない。End1とEnd2は数億分の2という豪運に恵まれたおかげで、たまたま日の目を見ただけに過ぎないのかも知れない。
そんな儚い失敗作たちにも愛を――「彼ら」なりに頑張ったその一部始終、成功に至ろうとした過程の、本来は存在すら瞬時に忘れ去られるモノの痕跡を見届け、一時思いを馳せるのも悪くないのではないだろうか。
真エンドという成功など脇役に過ぎない、だから最後に回しただけのこと。脚光を浴びるべき主演は冴えない過程の方なのだから。ポルノグラフィティはこんな風に歌ってる、それは「最初からハッピーエンドの映画なんて、三分もあれば終わっちゃうだろ」。Century Loversって曲ね。
いや、多分違うと思いますよこの解釈。上でも書いたけど。
ゲートキーパーは「いわゆる『人は過ちを繰り返す』というやつ」とも言ってるので、主体はモノではなく人なのだろう。それが誰なのかの特定は難しそうだが。やっぱりコマドリとラプラスが有力株か? このどちらかかも知れないし両方かも知れないし、もっと他の誰かのニュアンスも加わるのかも知れない。
まぁそういったことを承知しつつ、作中でやけにシミュレーションを推してきてたので、筆者はちょっとそういう解釈をしてみたくなったのだ。「繰り返される失敗=シミュレーションの残滓?」ってな具合で。あと最後くらいでかい考察をぶち上げてみたかったのもある。私は満足です。
人物解説
特記するほど情報量のないキャラは割愛する。また運び屋やアリス、記憶喪失者など、個別のゲームの項目内で充分解説し切った(少なくとも現状では)と思われるキャラはここでは触れないことにする。
鳥さんを愛する女アン
『夕日』主人公アン。本名アニャータ。
趣味で船長をやっているというのっけから謎な説明文の彼女だが、その正体は彼女の代理人いわく「長官」。船長は実際仮の姿で、貿易船を使って人と物の流れをコントロールすることで世の行く末を操ろうとしていた……というと聞こえが悪そうだが、アン自身は至って善良で植民政策に端を発する戦乱を収める方法を模索し、影ながら奔走していた。実際、『夕日』では立ち回り方次第で戦乱を完全に鎮め、一時的な(強調)平和を勝ち取ることすら可能である。
また貿易の過程で遭遇した難民や脱走兵、密航者(ヴィーナスとか)、その他訳アリだったり素性不明の者(運び屋とかポラリス&7とか???とか)とか、ニワトリやカモメやハシビコロウみたいな鳥類を無下にせず、仕事を与えて自活の道を作る懐の深さも見せている。誰だよ鳥を船員リストに載せたのは……って、アンの意向なんだろうなきっと。もっともあらゆる面でバラバラな寄せ集め各位の統率を欠かないようにする苦労はやはりあるようで、水星汐ではコマドリとシロの険悪ぶりにほとほと手を焼いている様子が見られた。
より正確な身分はおそらく城主と思われる。水星汐で登場した際にある時は城主、またある時は船長みたいな事を言っていたのが根拠。船長は分かるが城主として登場したことなんてあったっけ? と疑問に思い、消去法でここに当てはめただけなのだが多分合っているはずだ。
城主ということはすなわち領主、貴族でもある。……というか久々に『夕日』をプレイしたら、ヌエヴァ・アニャータ統治領なんてそのものズバリな地名が出てきてるじゃないか。まぁアニャータという本名が明かされたのは次作のことなので、この時点では知りようがなかったのだから仕方がない。
白夜夢では海辺にてチョイ役で登場。水着姿からバカンスで来たのだろうと主人公には思われていたが……『夕日』でもゲームオーバー後にバカンスに繰り出すアンだが、ここがその行き先なのだろうか。
水星汐では唐突に孤児院の先生という設定が生えてきた。孤児院の先生? ナンデ? いやいくら何でも船長と領主と院長先生の両立は無理があるし、年齢設定もおかしいだろう。アンは一体何歳なんだ、『夕日』のタイトル画面じゃ明らかにティーンな顔してたが。そう言えば『反復』でも代理人がアンの年齢に疑問を抱いてたし、水星汐でも若人という言葉を使ってたっけ。
ただこれは先述の、「アンとゲートキーパーは、各ゲーム内では『出演者』である」という点を押さえていれば実は難しい話ではない。これはごく単純に、「水星汐」では「孤児院の先生(と、水星汐の世界に取り込まれたゲームキャラ達の調停者)」の役を演じているという、まさにそういうキャラ設定というだけのことなのだ。先の例にならって言うなら「もしここが孤児院なら、私は孤児院の先生ということになる」ということだ。もし次回作でも出演していたら、その時はまた別の設定をまとって現れるのだろう。
ただし若人という言葉は「開発室」で使っていたので……どういうことなのだろう? 設定上明確な上下関係のある水星汐の世界の中でならともかく、外でもラプラスやコマドリ(あるいは客人も??)をそう呼ぶ理由は?
水星汐では「異世界の存在で、時々元いた場所に帰っては身内に会っている」という情報も明かされている。代理人がポロっと漏らした未確認の噂なのだが、メタ的にはこの手の噂は9割事実と思ってよい(要検証)。真っ先に思い当たるのは白夜夢だが……まさか奇妙な少女(と探偵)が? 仮にそうなら二人の血縁関係を知っていることにも説得力が湧くが、奇妙な少女はアンの素性を知らない節があるし……どうなんだろう。
名無しの代理人
そんなアンの右腕として仕える、自称「代理人」。実はサムネを見ての通り、『夕日』の時点ですでに(ほぼ)全身画が作中に登場している。
水星汐まで来ても未だに本名が明かされていない。『反復』では「あなたを守るため」と主人公に説明していたが。ついでに適当な偽名を名乗らないのは「あなたを尊重しているから」だそうで、運び屋も追及はせず敬意を込めて代理人と呼んでいる(アンの腹心とは知らない様子)。
彼女がボスと呼ぶ(「長官」呼びは公でのものだろう)アンとの関係は良好だが、いわゆる忠誠心のようなものは特になく、あくまでビジネスパートナーという間柄らしい。他にも大きなカネの動く案件においてフィクサーとして暗躍しており、場合によっては無能な者に対し鉄拳制裁を食らわすこともある。『夕日』でもそれぐらい暴れてほしかったぞ。何だ「スキルを持たないキャラ全員の貿易力が1上がる」なんてしみったれたスキルは。いや騎士と各種兵士と組ませれば低難易度ならイケるけど、それ以上がね……
そういう裏社会寄りの人間なので、『反復』で運び屋に持ち掛ける仕事もウラのある話が多い。主人公に地下闘技場の噛ませ犬役になってもらったり、猛獣ショーの襲われ役になってもらったり。そうとは知らずに勝ったり逃げ延びたりできた場合も特にお咎めはなく(勝負は素人に負けた方が悪い。その負けた奴の処遇は……もう書いたから分かるな?)、またさらなる儲け話を持ってきたりする。一応、運び屋を信頼しての依頼ではあるらしい。あるイベントでは運び屋の身の振りについて忠告してくれたりもする。
水星汐のある場面ではアンについて、「彼女がまるで神そのもので、解決できない問題など何もないように感じることがある」と評している。さすがにアンが、ゲームの外側からの視点も持つキャラであることまでは知らないらしい。実際はアンにも解決できない問題があるのはここまで語った通り。
探検家・白の異世界ネコ歩き
『夕日』以来シリーズ皆勤賞の一人である冒険者。もっとも『反復』と白夜夢では登場はしたものの名前は明かされず、水星汐でようやく白(シロ)という本名が判明した。『夕日』ではボサボサ頭が特徴的だったが、『反復』以降では多少は整った髪型になっている。正直『夕日』のは髪の色も含めてゲートキーパーとそっくりで、血縁とか何か関連があるのかと思ったらそんなことはなかった。白夜夢といい水星汐といい、うっすらとした絡みはちょくちょくあるのだが。 シロ本人の最大の特徴は完全な白猫の姿に変身できること。ゲートキーパーいわく猫の姿でも人語を話せるそうだが、どの作品でも実際に披露したことはない。まぁ目立つし。あと抱き心地が抜群らしい。
また基底世界とは別の世界へ移動する手段を持っている……が、亜人一族が管理している「門」を使っているのか、シロ個人の特殊能力なのかははっきりしていない。
『反復』では白猫の姿で暗殺者アオテツと行動を共にしているほか、イベントで潮汐の塔に爆弾を運ぼうとする運び屋を阻止する一幕もあった。特殊エンドでは運び屋を東の地、おそらく新大陸へと誘ってくる。実績コーナーの解説では亜人の族長という身分が明かされた。確かに『夕日』や水星汐における、周りにモフモフが多いほどパワーアップする設定は指導者のそれらしい。モフモフが鳥や動物でもOKなのはさて置き。
ちなみに暗殺者は『夕日』でも特殊エンドに絡んでいる。帝国の過激派官僚が暗殺される事件が相次ぎ、亜人への激しい報復処置が行われる一方で穏健派の貴族も台頭、政治がゴタついてきたため新大陸政策は一旦(強調)棚上げとなった。
あと後日談にて、白・アオテツ共に廃墟でバイオリンを弾いている人物を知っているらしい。バイオリン弾きなんて出てきてたっけ? ……え、もしかして白夜夢の商店街にいたあの人(ワイン)?
その白夜夢ではこれまた猫の姿で冒頭から登場し……ているのかどうかすら怪しいのは先述の通り。何をしようとしているのか意図もよく分からない、舞台装置に徹したキャラであった。
あとゲートキーパーに怒られるとまずいという場面から、二人の上下関係が明らかになっている。族長と言えど絶対的権力者というほどの権限はないようだ。まぁ水星汐で明かされたゲートキーパーの立場から、そもそもメタ的な上位者と下位者という厳然たる格差があるのだが。
その水星汐でも対抗馬のコマドリに色々水を開けられ、切ないことになっている。詳細はEnd2の項目を参照。
主人公もとい記憶喪失者とは別の世界(新世界か、新世界とはまた別の世界かは未確定)で出会ったことがあるらしいが、どんな関係だったのかは明かされていない。曰く「短い出会い」とのことだったが、それはシロに感銘を与え、その後の生き方さえ変えるほど彼女にとって価値のある出来事だったようだ。
記憶喪失者共々次回作での再登場が示唆されているが、よくセリフを読むとEnd2で異世界転移した後の二人とは一言も言っていないんだな。もしかしたら上述の短い出会いの方がフィーチャーされる可能性もある。というか次回作のテイザームービーにちょろっと白猫の姿があるが、相方はどうも記憶喪失者とは別人に見える。どっちにしろ、既存の謎がいくらかでも明らかになることを願おう。
うっかり風鈴の山あり谷ありな日々
モフモフ亜人の一人、風鈴(フウリン)。ネームドとしては『反復』が初登場となる。
『夕日』での職業は「特使」。『反復』でもゲートキーパーの命で同じ職に就いているようだが、長い間道に迷い続けて任務を果たせなくなり、といって来た道を帰るでもなく主人公の住む街で漫然と日々を送っている。もとい、待機している。
長期滞在ができるほど大金を持ち歩いているが、その多くは好物のジャンクフードに消えている様子。それでも足りないほど食い意地が張っており、教会が提供した慈善目的の配給食料にも好んで手を出す。曰く「タダというのは最高の調味料なんですよ」。こいつ……
またどういう経緯か、謎の黒い箱を手に入れたせいで謎の商人に追い回されたりもしている。箱の作用か謎の商人にナニカサレタのか、黒い人影になりかける危機にも陥っていた。その後ポラリスとラプラスに助けられ、どうにか回復したものと思われる。
特使とは何らかの任務を帯びて派遣される使者のことで、当然有能な者が就くべき地位のはずなのだが……色々な面で脇の甘い彼女が何故起用されているのかは些細ながら謎ではある。教えてゲートキーパー。
水星汐でも再び登場。今作では完全にゲートキーパーのパシリ化しており、遺跡のお供えの食べ物を自分の所まで運ぶ特使を担わされている。主人公をいい人間さんと呼んだり酒(ではなくお香。マタタビ?)の勢いで上司からの扱いの悪さに泣き言を言ったり、不憫かわいい系小動物キャラの地位を確立させている。
あとスキルが役に立たない。効果をブーストする手立てはあるが、そのためにはレアアイテムで本人を2人に分裂させるという人道にもとる真似をする必要がある。そしてそこで該当アイテムを消費するとおまけボスを全部倒すことができなくなるため、最終的にはそれすらも行われなくなる。公式不憫。まぁ『夕日』のコモン枠ならこんなもんなのか。
大公国の二連星 feat.ポラリス
水星汐の某イベントで突然脈絡もなくペアシーンが発生したポラリスとヴィーナス。一見何の繋がりもなさそうな二人だが、実は関係がなくはないのだ。
まずはポラリス。『夕日』では人権キャラの一角だった「亡命中の姫君」で、『反復』でネームドキャラ化。白夜夢のアイドルを含めて皆勤賞の一人となっている。
出身は旧大陸北部の内陸にある大公国。帝国の属国ながら人間も亜人も仲良く暮らす平和な国だったのだが、新大陸時代に大公を始めとする王族がポラリス(と、一人の弟)を除き皆殺しにされ、彼女は身分を隠しての放浪生活を強いられることになってしまった。大公国は今や帝国と教会間の戦場として荒廃を極めている。
大公の一族に代々伝わる能力として、「物を浄化し、他の人でも扱える魔法に変換」する魔法を行使できる(もっともポラリスが魔法に開眼したのは最近のことで、目下訓練中の身)。要は先述のルーンと同様のアイテムを製造できる能力者で、これを使って街で困っている人をさりげなく助けたり、手遅れになったと思しき人影を退治している。人のいい性格は水星汐で初遭遇した時の会話からも察せられる(アン曰く「お喋り」でもあるらしいが)。
魔法を独占したい教会から目を付けられている一方、大公国が滅んだ原因の片割れゆえかポラリスの方も教会とは因縁を感じている。亡命中に生き別れた弟も捜している。
その後ポラリスは出会いと別れを繰り返して永続的な貿易力+3を積み重ねながら西の国へ渡る(『反復』の特殊エンドでは運び屋も同行)。『夕日』のエンディング次第ではやがて旧大陸に帰還し、帝国か教会かに征服されていた大公国に舞い戻るや颯爽と復国運動の陣頭に立つ。その辣腕は支配者層をも手こずらせるほどで、植民地政策どころではなくなったためか世界情勢も緩和。ひと時の(強調)平和が戻ったという。
水星汐では断片的ながら、過去のポラリスの「不愉快な記憶」も明かされている。というか暴露されている。垂れ流されている。拡声器で吹聴されている。どうも自分に目を向けてくれる人に過剰に寄りかかり無限の施しを求め、しまいには自分との心中を要求する……要するにある種の病み人であった時期があったらしい。今は克服済みの模様。
主人公に教会派か亜人派か聞かれた時には無所属と答えていたが、その回答には歯切れの悪さがあったとのこと。会ったばかりの人物を警戒したのか曖昧な態度を取ることに躊躇いがあったのか、実はどちらかの派閥だったのか。定かではない。
大公国の二連星 feat.ヴィーナス
かたや丸耳亜人で僕っ子のヴィーナスは、この大公国にある亜人の集落の出身。大公の手厚い保護のもと不自由なく暮らしていた彼女らだったが、大公一族が殺され大公国そのものに帝国や教会の魔の手が迫ったことにより、国民も亜人をかばい切れなくなってしまった。
そこで亜人の多い新大陸に移住すべく、『夕日』で言う「密航者」として船に乗り込んだもののバレてしまう……が、その船の主が運良く仏のアン船長だったため不問にされる。それどころか仕事をくれたり航海術を教わったりと色々目をかけてもらい、ヴィーナスもレア枠にしては強めの貿易力4を活かしたり、ウィッシュリストで呼べる思想家への生贄として恩に報いるべく働いた。その甲斐あってか密航者にしてはやけにオシャレな服を着ている。まぁ「元」密航者だろうしそこは突っ込みどころではないか。
これらの経緯から亜人としては人間への敵対心は低く、種族内では穏健派の部類となっている。もっともゲートキーパーからは団結すべき時にぐーたらしている時流の読めない連中扱いされており、真エンドでもおバカさん呼ばわりである(誰のことを言っているかは実際のセリフからは分かりにくいが、消去法でヴィーナスだけが候補に残る)。
という訳で、実は同郷だった……というこの二人だが、あのサイボーグ団地の制御室という場面で唐突に彼女らが抜擢された理由の方はよく分からない。団地と大公国の共通点も見当たらないし。そもそもヴィーナス自身が今作での初登場キャラだし、そこまで深く考える必要はないのかも知れない。
謎の商人とアイテム色々
『反復』で登場する謎の商人・神無月。その名は組織内のコードネームで、本名は不明。
彼女も新世界教の一員……かどうかは、実のところ作中では明言されていなかったりする。長月と似た異名と黒ローブ、実績項目でも「新世界と深い繋がりがある」と長月と同様の特徴が語られ、実際に先述の黒い箱など新世界絡みのアイテムと関わりがある……とまでくれば十中八九新世界教だとは思うのだが。神無月自身は新世界の降臨への興味はなさそうとのこと。
その仕事は新世界関連に留まらず、日に陰に色々な商売をしているらしい。代理人と組んで何か手掛けたこともある様子。あと意外とステゴロが強い。
作中でも普通の商売人として出くわすことがある。売り物はどれも「不思議な世界からの掘り出し物」だそうだ。
「幸せの箱」の正体は後日談で匂わされるが、どうも一種の監視カメラと思われる。撮った映像がどこかで放映されるらしく、知らぬ間に顔が広まる仕組み。プライバシーの問題は知らん。
「万能薬」は黒いシュワシュワした飲み物……で察する人も多いだろうが、これも後日談でコーラと明言されている。つまり不思議な世界というのは新世界のこと? つまり神無月は基底世界と別世界を行き来する術を持っていることになり、その行き先が新世界だとすれば世界の融合に関心がないのも納得がいく。融合などせずとも自分は好きな時(?)に行けるし、現地の物を仕入れて恩恵に預かれるのだから。
じゃあ「匂い袋」は? ……となるが、これは元ネタはよく分からない。多分何の裏も深い意味もない、ただの植物性の匂い袋なんだと思う。ガチョウが分捕ろうとする理由は知らぬ。
ゲートキーパー、門の前後の間に立つ者
「門番」を含めた名前だけなら皆勤だが、本格的に表舞台に現れたのは水星汐がお初の人。花のタトゥーは『夕日』の頃からよく見ると彫られている。しかし髪型が随分変わったな。
亜人たちが守護していると言われる、基底世界と新世界を繋ぐ「門」の管理人と思われる。作中でそう語られたり実際に何かしている場面は一度もないが、肩書きが門番なんだからそうなんだろうきっと。
しかしアンとシロはともかく、神無月、奇妙な少女……と、おそらくゲートキーパーの関知してないと思しきところで異世界間を自由に行き来できる人物は存外に多い(記憶喪失者は不明な点が多いので除外。アリスのように本人の意図でない可能性もある)。ここまで多いと「門」ってそんなに大したもんでもないのか? と疑いをかけたくなるが、そもそも「門」自体の情報がほとんどないから何とも言えない。
水星汐の世界では「建前上の」亜人のリーダーとして、遺跡エリアは地下宮殿の奥深くにてヴィーナスら穏健派の亜人を取りまとめ監督している。建前上とは族長のシロは遠征隊として外出中なのでその代理……というのはシリーズの中の設定としては多分合っているはずだが、彼女がアンと同じ上位存在であることを加味するとニュアンスが違ってくるような気がする。「このゲームの中では」亜人のリーダー「の役」という訳だ。
また虚空に次元の穴っぽいモノを生成し、離れた所にある物や人を手元に取り寄せる特殊能力を披露している。これが「門」なのか? いや白夜夢ではシロがゲートキーパーに無断で新世界へ行っているので、「門」はこれとは別のナニカだと考えられる。
アンとは悪友じみた対等な関係で、毎日開発室に「客人として」やってきては油を売っている。後述のラプラスのことを考えると第二の上位存在と呼ぶべきか?
ラプラスと言えば、彼女の発言の中に意味深なものがある。「ゲームの世界であろうと、生死は不可逆なものだと。そうでなければ、君(ゲートキーパー)が存在していられる根本すらなくなってしまうんだぞ」。言い換えれば死者の復活があり得ないからこそゲートキーパーはここに(どこに? 開発室?)存在していられる、ということ……なのか? これはよく分からない。
作中でゲートキーパーを仲間にする手順もまた不可解の一言。完全に隠しキャラ、イースターエッグのノリである。住宅街のバグったボスとか道標無き海の向こうとか、この辺は考察するだけ無意味というものだろう。
出撃枠をブチ破って参戦可能だの、元気バー以外の食べ物も戦闘中に使用可能といった無法スペックも空間超越者にして上位存在らしい。おまけにどう見ても亜人なのに、おまけのギミックボス攻略の謎解きのためだけに本作に限りモフモフ属性ではなくなっている(バグではない仕様。断言)。
水星汐のEnd2の項でゲートキーパーに関してデウスエクスマキナという単語を出したが、その飄々とした超然とした態度といい、おそらくはなからそういうキャラクターとして造形されているのだろう。上位存在とはこういう存在だ!! そうだったのか……
長月、コマドリ、そして「謎の人」
「謎の人」。初めに『夕日』にてこの職業名で登場した彼女は、実際多くの謎に満ちた存在である。
まず「長月」。長月とはこれまた新世界教内のコードネームであり、本名は不明。ちなみに神無月が10月、長月が9月を指す。
彼女は新世界の降臨を導く案内人を自称し、『反復』の世界と新世界を融合することで世界の救済を目指しているらしい。特殊エンドでは先述の経緯で運び屋を「新世界を知らず、かつ現世の法則の影響下にある」人物とみなし、新世界の到来を見届ける奇妙な旅へと誘ってくる。魔法を行使する能力を持つが、教会が扱うものとは違うらしい。
アリスが言うには「昔泣き虫だったのに、今じゃすっかり頼もしい(皮肉気味)」。この発言はもちろん長月ではなく、新世界で友達だったクラスメイトを指したものだろう。アリスも大概コミュ障だったのに、異世界でいい空気を吸い出した途端この調子の乗りようである。
また会話相手の返事の内容に「90点」「120点」といった点数を付けたがる癖がある。「人々に記憶されたものだけが歴史に残る」の発言もまた意味深だが……
水星汐ではコマドリの名で登場。これまた仮名で、本名は未だ不明。
そしてどういう訳か、唐突に教会に属する人間として出現した。実際今作では新世界のことは何一つ口にしないが、だがかといって教会の側に立つような発言も皆無だったりする。シロからは露骨に敵視されるあたり、教会側なのは間違いなさそうなのだが。ついでに記憶喪失者とは(さらにラプラスとも?)同じ修道院で育ったという過去が生えた。
あるいは長月とコマドリは別人なのでは? と疑いたくなるが……「0点」とか「60点」とか、「もしも誰も見ていなければ魔法は歴史の一部にはなり得ず、全てが無駄に終わってしまう(『人々に記憶されたものだけが歴史に残る』の裏返し)」など、長月のそれと酷似する発言もいくつか見られる。
この連続性のなさの理由は一度何らかの原因で死んだ後ラプラスの手で不完全に蘇生させられ、その際に長月時代を含めた過去の記憶が全て失われたため。で、そこから可能な限り生前の状態に近付くよう、さらに色々手を加えたのが現在のコマドリなのだと思われる。彼女も立派な記憶喪失者という訳だ。
死んだタイミングは恐らく、テロで負傷して一時入院したというその時(水星汐の「三枚の鍵と~」の項を参照)。負傷というのは嘘で本当は死亡していた。で、ラプラスは運び屋&アリスを利用してコマドリを蘇生させるも失敗。次の手として記憶喪失者との契約により記憶を預かり(記憶喪失者はその後「門」の世界へ移動(?))、奇跡魔法で上位世界にいるであろう「神」への直訴を試みる。一方不完全な蘇生を果たしたコマドリは修道院へ戻ってきたがすでに記憶喪失者は不在――というのが多分一番辻褄が合うんじゃないだろうか。
この手を加えられたという「色々」だが、これがまたなかなかの魔改造ぶりである。魔法だけに。まず右目が摘出され、空いた眼窩に魔法の触媒か何かっぽいモノを配置。これにより空間という概念自体を制し、自分の視界全体を攻撃範囲に収めることができる。他にも色々。
こんな改造がなされたのは、新生したコマドリを対亜人戦争の切り札たる人造魔女にするためだった。亜人と争っているのは教会だから、教会側になったのもこの時からということだろう(シロと遭遇したのもこの頃?)。ただしやったのはラプラスではない。彼女いわく「旧時代の老人」の仕業らしいが、一体何者なのか? というか蘇生させたのはラプラスなのだが、その後コマドリを老人とやらに引き渡したのか? いや全身全霊で復活させようとした親友を売る真似はさすがにしないだろうから、誘拐されたとか権力で言いなりにさせられたとかいうところだろうか。大司教よりも権力のある地位……法王とか教皇とか? 考えてみればラプラスがトップとは言われていない。そもそもラプラスはなんで若い身で大司教なんかやってるんだ――
やめよう。ここはラプラスじゃなくコマドリの項目だ。
なおゲートキーパーいわく、生前の記憶は再現できていないらしい。「点数」のような分かりやすい口癖は比較的楽に後付けできたのだろうが、例えば旧友に偶然会った時の心の動きとか、記憶に紐づいた感情は植え付けられなかったようだ。
だが自分の手を汚さないラプラスが(ある意味?)自身を改造したと知った際、コマドリは軽い失望のような態度を見せている。記憶に伴う感情が戻りつつあったのだろうか?
……あれちょっと待て。生前の記憶がないということは……記憶喪失者と修道院で育ったとかいう過去も全部嘘? 誰かがでっち上げた偽の記憶? それは困る(考察する上で)。
えーと修道院の話をした人物は他に……誰もいない。修道院が実在した証拠が見当たらない! おいおいどうすんだ。一応渓流エリアの小屋の3ベッドというのもあるが、あれもコマドリの過去を抜きにすると論拠としてはだいぶ弱くなってしまう……う~~ん??
いやこれはさすがに、記憶に関してはラプラスが可能な限り正しく設定したはずだ。少なくとも共に過ごした修道院の頃のは特に。ゲートキーパーが言っているのは記憶に付随するはずの感情が再現されていないという意味だ、きっと。だよねラプラス? ラプラス?
大司教ラプラス、悲願の末路と行く末
コマドリがそうであったように、ラプラスもまた本名ではない。その名は他人を操る魔法の継承者に与えられる異名らしい。自分の手は一切汚さず、他者を魔法の媒介という傀儡に仕立てた上で徹底的に使い潰すのがモットーだそうで。
ただ水星汐では何やら不本意な経緯により、自身を改造することで一対の人型魔法媒介を生成する(どういうこっちゃ?)なんてことも行っていた。もっとも水星汐の世界の中での話なので、本人がそれを本当にやったのかどうかは断言し難い。
まずは『反復』。ここでは徹頭徹尾、物語の黒幕である。
彼女はモブ聖職者を装って主人公に近付き、家に爆弾テロを仕掛けたドサクサで運び屋(とアリス?)を拉致、となんだかんだ自分の手も汚している。これを利用しコマドリの蘇生を企てた。だが失敗。
次に記憶喪失者と契約を結び、記憶を譲渡させることで今度は自身が魔法媒介化。これを用いて上位世界に渡り、協会にコマドリの復活を訴えたが却下される。ここまでが水星汐の本編開始までの出来事。
水星汐でも表面的には一連の事態の元凶ということになるが(ラスボスとしても登場するが、前述の通りこれは別人)、裏では彼女は彼女で色々あった……というのは上記の通り。
飲み物片手にゲートキーパーの前に現れた彼女は、『反復』における上から目線の饒舌ぶりとは打って変わった借りてきた猫状態であった。まぁ大司教にして策士と粋がっていた自分がお釈迦様の手の上で踊るゲームキャラと知らされた上、その協会にこってり絞られた後ではそうもなろう。ともあれ上位世界に自ら足を踏み入れたことで、今のラプラスは第三の上位存在と呼べる。
ゲートキーパーは「これほど頑張っても目的を達成できなかった今、彼女が過去と和解できるのやら」と語っている。コマドリの死はラプラスにとって大きな心の傷だったということだろうか、それとももっと別の何かが和解すべき過去なのか。前者であればラプラスにとってもコマドリは親友だった説を補強し得る……がそれと共に、実はコマドリの死にもラプラスが関与しているなんてことない? という疑念を抱かせる発言と言えはしないか。教会vs新世界教で図らずも直接対決して殺してしまったとか……まぁいくらでも妄想捏造できそうなネタでもあるので、現状ではほどほどにということで。
ラプラスにはもうひとつ謎がある。「上位世界の」アンに教え子と呼ばれている点だ。水星汐の世界の中で呼ばれるのはいい、そこでのアンは修道院の先生という設定なのだから。何故その世界の外でも教え子と呼ばれる? ラプラスはゲームのキャラじゃないのか?
……と思ったがこればかりは、特にこれといった裏はない気がする。アンは「私の教え子が問題を起こしてしまった」と言っている。問題とはもちろん水星汐の世界を意図せず生み出してしまったことだが、アンのこの言い方からすると時系列は「ラプラスがアンの教え子になる→ラプラスが問題を起こす」と捉えるのが普通だろう。水星汐の世界が出現したのはラプラスが奇跡魔法で上位世界へ来たのとおそらく同時のはずなので、それ以前にラプラスがアンの教え子だったというのは修道院での上下関係のことしか考えられない(現状の情報では)。
じゃあ何故教え子と呼んだ? と言われると……ただの洒落とかそんなところなんじゃないだろうか。真意は不明だが、とにかく深い意味はなさそうである。以上。
ガチョウ
ガチョウ。それはモフモフの鳥類。
ガチョウ。それはシリーズ恒例のネタキャラ。
とても勇敢(というか獰猛)でアンのお気に入りの鳥らしい。
ガチョウもまた『夕日』からの皆勤賞キャラ。『夕日』では食品を入荷するだけで船員候補のレアリティが激増する超の付く強キャラだったが、そんなゲーム上のスペック以外では特筆すべき要素はなかった。この頃は。
次作の『反復』で奴は弾けた。なんか急に強キャラになった。さらに勝つと最重要アイテムをくれる。それはいい。だがこいつはガチョウだ。何故ただのガチョウがそんな物を? その問いは虚空を一瞬響かせ空しく消えた。
白夜夢では焼き鳥として現れた。いや主人公にはそう見えるだけで、本来の見た目はちゃんとしたガチョウなのだろうが。何度やり過ごしても6ターン後に再遭遇する……と書くといかにも鬱陶しそうだが、弱い上に錆びた自転車という分かりやすい対策カードが頻出する上、2桁3桁4桁ダメの乱れ舞う終盤では定期的に出てくれるこいつは極上の癒しキャラですらあった。
水星汐では再び仲間に。逃げ足の速さは『反復』、倒されても自力復帰するしぶとさは白夜夢が由来か。サポートに回すとモフモフ属性を非モフキャラに付与するという謎の能力も持ち、おまけボス攻略の一角を担う。おかげで明らかに知性体であるにも関わらず、躊躇なく陰陽鏡で2体に分裂させられた。優先して分裂させられる対象がいてよかったな風鈴。
だが水星汐における突っ込みどころはガチョウ当人ではなく、加入に必要になる邪神フィギュアの方だろう。邪神というがどの邪神だろう。某モッコスが世に出たのは20年も前だが、それが発端となりすっげぇキモいデザインのフィギュアは押しなべて邪神の称号を拝領するようになったと噂に聞く。まぁどれと聞かれても作者も困るだろう。
……という具合に、毎回何かしらの形でネタを供給してくれるのがこのガチョウというキャラである。なんでただのダチョウがこんな役回りなのか。それを知る者はいない。
まぁお遊びキャラであることに深い理由や意味を求めるのも野暮だろう。やけに素早くて態度がでかく、変なアイテムと縁のある謎の鳥。それ以上でも以下でもないのだろう。きっと。
……なんでそれをガチョウで例えたんですかコマドリさん?
それ何か意味あるんですか? 我々が今まで見てきたガチョウはガチョウではないとでも? じゃああの生き物は一体??
あとがき
……やっと書き終わった。
実に3か月かかった。締切1日前だ。疲れた。
読み返せばまだいくらでも不備とか未言及の謎などあるだろうが、いい加減キリがないのでここまでにする。気が向いたらサイレント更新でもするかも知れないが、あまり期待はしないでほしい。
このシリーズはとにかく謎が多い。そのミステリーの数々にひたすら体当たりで当たって砕けまくった結果、やっぱり分からずじまいの謎も多く残ったがいくつかの推論も得られた。もちろんあーでもないこーでもないと思考を巡らす時間も楽しかった。睡眠時間は多いに削られたが。水星汐はムービーシーンを見返す時間だけでプレイ時間が倍以上に延びてしまった。
この記事が難解極まりないシリーズの理解の一助に……とまではいかなくとも、モヤモヤの山のひとつくらいの解消にでも繋がれば幸いです。
とりあえずこれで次に行ける。早速Dead Estateの最終更新だ。もう時間ないからスネジンカは来年だ。
今年中に来るとされるアイ・ネット・マーダーマジックも当然来年だ。公開されたらとりあえず定価(リリース記念セール)で買っておくし、遊んだ暁にはまた疑問やネタをまとめるかも知れないから勘弁してほしい。今度はもっと早く書いて片すぞ!