<亡き私>の生活と意見 【泣き虫あきこの人生大全】
地球を去ったのは、肉体を得て98年目の春だった。
最後に書き上げた大河ファンタジー「赤の少女と白い虎」の出版記念講演会の世界ツアーの最中のことだ。
無理をいって立ち寄った、ハワイ島のコンドミニアムの中庭。ソファに座り、ひと粒のぶどうを口にした瞬間、美しい虹がかかるのを見た。
「ああ、いまか」
そうしてゆっくりと目を閉じ、最後に息を大きく吸って絶えた。
粒子になって肉体からようやく解放された私は、様子を見にきた美しい孫娘に発見されるところまで見届けたあと、時空のねじれを猛スピードで突き抜けて無事に帰還した。
なじみのある宇宙船のロイヤルロビーに、仲間たちがいつものように集っているのが見えた。
「たっだいま〜!」
「おお〜!おかえり! 今ついたの?」
「うん、シャワー浴びてすっきり! あー、やっと落ち着いた。いやーやっぱり故郷はいいね。波動が軽いわ」
「いつも見てたよ! どうだった? 地球は」
「やーマジでもうだめかと思った。設定厳しくしすぎたかもって少し後悔しちゃった」
「後半、やりきったね。まさかあそこまで突き抜けるとは思わなかった」
「まあね。結局、エネルギー理論と法則はこっちと一緒だからそれさえ掴めば、ね」
「エネルギーワークまでは想定内だったけど、宇宙の風のセッションに始まり、法人コンサルしたり、アート系運営会社をつくったと思ったら、銀河系作家になっていて笑ったわー」
「でもさ、途中はかなり危なかったよね。見ていてヒヤヒヤしたよ」
「生まれてすぐに手を上げられて、ショックで記憶障害になってたじゃん。あの意識でよく30代まで持ちこたえたよね」
「33歳であのアメリカ人のワークショップに出てなかったら、早期帰還組だったよなぁ」
「それって、クリスのゲシュタルト・アウェアネス・プラクティスのこと?」
懐かしい響きに思わず顔がほころんだ。
「うんうん確かに。あそこでやった "いまここ" にい続ける練習で、マジで命びろいした。結局11年やっちゃったけど、おかげで無意識のパニック状態から脱することができたんだよね。あ! あとで彼女にも挨拶いっとこ。この船のどこかにいるはず」
「おー! それは感動の再会だねー」
仲間たちからの愛あるツッコミと笑い声。私は久しぶりにホッとして話し始めた。
「ねえねえ、地球時刻43歳で死んだパラレル宇宙があったのを誰か見てた? 私さ、ある日マンションのドア開ける時に、"あ、別の世界の私がいま死んだな"ってわかったんだ。あの頃、次元の知識なんてなかったのにすごくない?」
「あっぶねー! どれだけハードル上げてるんだよ」
「それってさーかなり近い時空間で起きてるってことだよな」
「そうそう〜! それまでの選択が少しでも違っていたら、死ぬ方の現実を体験してたかもね」
「知らずにやってたわけ?」
「そりゃそうよ。3次元でしかも記憶喪失状態なんだよ! ガチに決まってんじゃん」
「こわーーーー!」
「マジひくわ!」
みんなで大笑いした。
「だってさ、一度きりなんだよ。やってみたいじゃん」
「でもそういう時って怖いんでしょ? 怖いってどんな感じ?」
「すごい臨場感だよ。生まれたときから生きることに絶望していて、それを感じないように心を凍らせて生き延びて。だってさー、そのままで受け止めていたら、もっと早く死んじゃうでしょ?
感じないようにがんばるほどに疲弊して。受け入れられたくて自分らしさを封印して。ニコニコがんばって被害者をやってたなぁ」
「そんな周波数に長くいたら、そりゃしんどいわな」
「でもね、ギリギリまで拡大させて感じたかったんだなわたし。たぶんね」
「さすがチャレンジの宇宙の風をめがけて生まれていっただけあるなぁ。見ていてドキドキしたって」
ふふ、とわたしは笑った。
「今回やりたかったことって、地球でしかできないネガポジ反転の体験だからさ。人生後半を最高にするためには、前半の最低が必要不可欠でしょ? そのためには " チャレンジするほどに自分らしく在れる" というエネルギーが必要だったんだよね。でないと絶対に途中で諦めてしまう。
自分の宇宙の風を自覚したのは40歳くらいだったけど、そこから本格的にエネルギーの使い方を覚醒したし。やー、マジで助かったよ」
ひとしきりなごんだ後、私は少しだけ感じたことをシェアすることにした。
「あの鉛のような体に閉じ込められながら、ノイズに混沌としてる物理次元にいること自体、本当に楽じゃない。
まさに『銀河最後の秘境』といわれるだけのことはある場所だった。
みんながトライしては早々に帰ってくるのもわかった。
でもね、物理次元ならではの荒々しい美しさもたくさん見たんだよね。
3次元ってさ、まず肉体の五感が認識できることだけでつくられているでしょう? 光の粒子の本質はわからないし、見えないわけ。だから肉眼レベルの空間に出現させないといけないのよ。物理空間に安心するし、見えなかったらないのも同じ。しかもみんな同じものを見てると思い込んでるの。そんなわけないのにさ」
「マジ? テレパシーもないんでしょ? めちゃ不便じゃん」
「でもさ、時々は時空を超えてキャッチできたりもしてるのよ。おお、やるじゃん!って思っていたら "虫のしらせ" とか名付けてるしさ」
「ウケる〜! なんで "虫" なんだよ」
「とにかく、あの肉体の"目"でみえるようにするには、条件を整えてエネルギーをかーなーり粗くしないとね。周波数も粗い。要は人全体で波を細やかにするという底上げが必要だったんだよね」
「その底上げにもチャレンジしたってこと?」
「うん。先頭で旗振りしてくれている人のサポートで目覚めたら、さらに仲間を増やす。ものがたりをたくさん書いたり、講演会や講座をするようになっていたのはそういう裏ミッションもあったんだよね」
誰かが言った。
「そんなに粗い周波数、きっとオレは耐えられないよ」
「うんうん、わかる。でもね」
少しだけ地球でのことを思い出した。
「例えば有害物質のない土壌で育った植物で、最高に周波数の高いアロマオイルをつくる人がいてね。
その人は先に3次元を去っていったんだけど、仕組みを残していて。おかげでよい周波数をずっと手にすることができて、かなり助けられたんだよね。
ほかにも絵画や建築、音楽の周波数をつかって、目にするだけで一瞬で意識場を引き上げる人もいた。テクノロジーの進化に貢献するというアートもあったな。
なんていったっけ……多分アメリカ人で……"じょぶず"って呼ばれていたんだけどさ。とにかく、それはそれは美しい通信機器をつくったんだよね。気が狂いそうなくらい細部に込められたエネルギー量がハンパなかった。あの星では、周波数の細やかな意識はすべてアートの領域で体現されていたよ。
そういう面において、地球のカオスは私はとても好きだったな。
私の場合は、話すことと書くことで自分のエネルギーを物理化し、他人をどんどん入れて拡大していくことを選んだってわけ。
ほら、地球の体ってさ「お金があると幸せ」って集合無意識に超絶あるでしょう?
あの解除はマジでかなりの労力だったー。
最初は多勢に無勢って感じだったけど、地球が次元移動の過渡期だったのと、ここにいるみんなのサポートで6次元に抜けたのが大きかった。よく1人で泣いてたのみんな見てた? ふふふ! あの時はありがとうね。
地球上で何をどう創造したいのか。
記憶を取り戻せたのが決め手だったと思う。
究極さ、地球でもこっちでも一緒じゃん?エネルギーで全てをつくっているのは。
私たちは意識的に社会のインフラとして用いているけれど、地球ではみんな無意識レベル。要は無法地帯なのよ。
だからこそ、最悪なことを想定して最悪を生み出すことに気づけないまま泣けるわけ。最高に自由でしょ?
それが楽しくもあり、苦しいところでもあるんだけどね。3次元の二元分離世界って、昔は面白かったらしいんだけど、ほとんどの人たちがもうお腹いっぱいって顔してたわよ。
中には次元意識の使い方に目覚めて、意識的につかう人もいたけどさ、そういう人の言葉や表現って、聞く方の周波数が達していない場合、弾かれるばかりで全く入ってこないじゃん。周波数が高すぎると眩しいだけで見えないし、言葉も音も聞こえない。だからこそ、ピンからキリまでの情報が飛び交っていたんだけど「何を創造すればいいか」についてのウンチクは一切聞かないほうがよかったなと思う。
こうしたら得するとか儲かるとか、こうしたら幸せになるとか。それらは全部超巧妙なトリックで、支配者側の仕込みなのよ。
言っている本人たちさえそのことに気づいていないんで、凄まじい洗脳合戦は疲弊するばかりだったよ。
ただ。
好きなことをしたらいいだけだったんだよね。
マジで。
簡単すぎて笑える。
だから誰も信じない。
よくできてたなあ。あのシステム。
食べていけないとか、お金儲からないとかさ。
" 好きなことだけする=絶対に無理" を、巧妙にお互いに感染させ合うような、支配者サイドのトラップ満載だしさ。そうでないと吸い上げられないもんね。奴隷が自分で奴隷だと気づかないようにしないとまずいもんね!
誰もが生まれた時は "好きなことをやる" をもってるんだけど、失うように意図的に設計されていた世界。
それが強大で抵抗しても無理っぽかった。
だからわたしはそこでいったん失う、を選ぶことにした。多くの人と同じように。
でもそれが再び自分の好きなことを取り戻すという最高のチャレンジの舞台装置になったというわけ。
おかげでいい感じでドラマをつくれたし、前半はネタに事欠かなかった。
それがどれだけ役に立ったか。前半に育て上げたダークマターを生かすことに気づいたのが転機だったよ。
苦しんだり、悲しんだり、こんな自分はもうだめなんじゃないか? と人と比較しては自分を痛めつけてきた感情と体験があったからこそ、わたしの放つ言葉と綴る文字にはエネルギーの粒子が宿った。
闇が深い分、小さな光や希望で人生を照らす道しるべになった。それが私のライフワークになったんだよ。
エネルギーが回りだしてからは、お金の心配はあっという間になくなって、それまでの人生なんだったんだ! と笑ってた。自分でも使ったし、人にも使ったし、世界にたくさんあげた。見えないものにたくさん換えた。あげてもらって、またあげて。最後はもうよくわかんなくなっちゃったけど。とにかく最高に幸福だった。
そうやって「いらないと思ったらいつでも全てを失っていいんだ」とわかってからは、安心してさらに楽しめた。
でね、そうなると結局失うなんてことは何も起こらなかったんだよね。
失うなんてありえない。
あの重たい肉体を纏いながらそう思った。
結局、自分は最初から何も持っていない。
モノや領土やお金が減るとか増えるとか。そういうのもさ。
なにか自分のモノがあの世界にあると思える奇跡。笑えるっしょ?
性格とかさ。98%は後づけの付属品だからいくらでも変えられるのに、「しょうがない」とか思っているんだよー。うける。
あと「歳だから」も多かったな。
ま、しょうがないよね。あの肉体に入ってたら信じちゃうよね。
「自分のモノ」があるという幻想が終わって、
3次元原理の限界を見切れたら、あとは早かった。
人生の後半はさ、まさに物理次元空間において人をたくさん愛し、愛されたんだ。
前半とは違って能動的にね。たーくさん出会って、たーくさん別れた。家族なんて無理、パートナーなんて無理って思ってたのに気がついたら大家族で賑やかで。人生どうなってんの!? 最高!ってよくみんなで笑ってた。
めっちゃ笑ってめっちゃ泣いて、また笑って。
その頃には、もう泣くことはつらくはなくなってた。
表層的には悲しいんだけど、潜在意識ではどっしりとくつろいでいたからね。悲しみを全身で味わうほどに愛おしく、喜びもまた愛おしい。
ああ、生きてる。
ああ、生きてる。
極彩色を隅々まで堪能する嬉しさよ。
それがあの時のわたしにとっては生きる原動力だったなぁ。
ま、ぜーんぶ幻想なんだけどさ!
とにかく楽しかったし、今はただ、大満足の中でくつろいでいるよ。
地球はわたしたち銀河連合にとって、欠かすことのできない貴重なワンダーランドの星だと改めて思う」
みんなはそれぞれの聴き方で、最後まで黙って聞いていた。
「また地球に行きたい?」
誰かが言った。
「そうねぇ」
少し考えた。
「次は、宇宙の理(ことわり)の探求なんてことに1ミリも興味をもつことなく、けもののように生きてみようかしら」
「あはは、それいいねえ」
「いずれにせよ」
私はみんなの顔を見回した。
「どうせすべては
うまくいくんだからさ」
自分の人生のタイムラインを見下ろしながら、ふふ、と笑った
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