浜辺の朝

浜辺の朝

誰もいない浜辺の朝。
わたしは一人、海岸線を散歩する。
同じ太平洋の海であるのに、
どこかしら異国のような気分になる。
磯のにおいには、あまり慣れていない。

仕事は休んだ。
有休がたまっていたし、
まとまった休みなんてめったに取れないんだから。
同僚たちの目なんか気にせず、
ぱっと休みをとって、この浜辺に来た。

来ちゃったもの勝ちだもーん。
新幹線に乗って、電車に乗り換えて、
レンタカーまで借りてきた。
海水浴の季節でもないし、
お花の季節でもない。
ただ静かに目の前に海が広がっているだけ。

それだけが、とても心地よい。

心地よい。って、いい言葉だな。
唐突にそんなことを思った。

彼との生活も大学時代からだからどれくらいたっただろう。
付き合いたてのどきどきから
今は心地いいに変わってきた。

そう、心地よいのだ。
ただ自分がいるだけでいい。
言葉にできない安心感。
それだけで、いいじゃない。


彼に返事をしよう。
プロポーズの返事。
迷う理由なんてないのだから。

そう思ったら、遠くのほうでわたしを呼ぶ
彼の声が聞こえた気がした。

まだ冷たい朝の潮風。
少しだけ遠くに見える水平線。

ほら、やっぱり。
彼、わざわざここまで追っかけてきたんだ。

ふふふ。とちいさくほほえんで、
するりと風と風の間をすり抜けて、
彼のもとへ急ごう。

いつもと変わらない
浜辺の朝に。

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