ヒカリテラス

ヒカリテラス

私の目の前には、とてもおおきなまんまるのホットケーキが、
ほかほかと湯気をたてて、そりゃもうとてもとてもおいしそうに、
お皿の上に載っていた。

先週のプレゼンは最悪だった。
年度末の忙しさに加えて、この世界的な危機の状況だ。
大体この時期にプレゼンするか?というわたしの小言は宙にむなしく消え、
毎日遅くまで残業して挑んだにも関わらず、
クライアントからの手ごたえをまるで感じない。
「まぁ、こういうこともあるっすよ。」
イケメン後輩の慰めも虚しく、今年度のわたしの仕事は最悪な気分で年度末の決算を出すことになりそうだった。

こんな状況下なので、年度末のお疲れ様の飲み会も送迎会も全部中止。
うがいに手洗いに消毒にマスク。
大好きな化粧品のテスターも店頭から姿を消して、
友達たちは子供をどうしたものか?とそれぞれで忙しく、
私の春はなかなかやってこない。

ほんのわずかな休日をわたしはひとりセンチメンタルな気分に浸るため、
この喫茶店に入った。
たまたまSNSで目にしたこの喫茶店のホットケーキを、
いつか食べてみたいとずっと思っていたのだ。

目の前に出されたのは「THE お母さんが作ったホットケーキ」
大きくて黄色くてはちみつとバターが添えてある昔ながらのホットケーキだった。
私は両親が共働きで忙しかったので、学校から帰るといつもおばあちゃんがおやつをつくって待っていてくれた。
おはぎとかどら焼きとかそういった和菓子が多い中、
おばあちゃんが作ってくれる唯一の横文字おやつがホットケーキだったのだ。

いつだったか桜の花びらが舞う季節、おばあちゃんが言った。
「好きな人のために生きなさい。」って。

気分はさいあーーく。なんて思いながらも
そのホットケーキを一口、口に運べば甘い香りが広がる。
「あ、やば。おいし。」
おばあちゃんの作るホットケーキとはちょっとちがうけど、
でもきっと深い根っこのところは同じ味。そんな気がした。
「おばあちゃん、わたし、恋も仕事も全力疾走だよ。」

さぁて、プレゼン企画練り直しますか。
明日は仕事帰りに久しぶりにネイルサロンに行ってきれいにしてもらおう。
予約を取ろうとスマホを取り出したら、
ちょうどタイミングぴったりに彼からラインが入った。
スタンプも何もない「今日何してる?」のたった一言。

わたしはふふふと笑いながら、ぽちぽとと返信を打った。
「いまね、大きなホットケーキ食べてるよ。一緒に食べたい。」

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