連(れん)
目の前に広がるのは、どこまでも続く山並み。
右も左も山、山、山。
途切れることない山を見ていたら、もうちょっとだけ頑張れる気がした。
「大丈夫、あともうちょっと。まだやれるよ、わたし。」
こんなところでテレワーク?驚かれたと思う。
昔の大作家じゃあるまいし、こんな山奥に来なくたって。って言われそう。
それでもわたしは車を走らせて1時間もかかる山の中のカフェに来ていた。
仕事用のパソコンといつものノートを持って。
朝家を出た時は、いつも通り普通に仕事場に行くはずだった。
けれど、今日のミーティングの予定が急遽キャンセルになり、
テレワークに切り替えることにした。
そのときふと思ったのだ。
「そうだ、山の中のカフェに行こう。」と。
山の中に素敵なカフェがある。
と、誰かのSNSで見たのだ。
仕事用のグレーのパンツスーツのまま、車をぐんぐん走らせた。
カフェへの途中に寄り道したコンビニで、
朝ごはん兼昼ごはんと称して買ったたまごサンドイッチも鞄に入っている。
「サンドイッチつぶれていないかな?」
なんて思いながら、車は山の中を走っていく。
空気がきれい。
目的のカフェはすぐに見つけることができた。
街にいるときと全然違う。
ナビに入れれば道を素直に表示してくれたし、
それに、お店に入ってみてびっくりした。
きちんと一人一人の距離がとってある。
各席にコンセントもあるし、Wi-Fiも通っている。
「なんだ、ここで仕事できるじゃん。」
ちょっぴり拍子抜けしてしまった。
仕事場や自宅じゃないとできないと思っていたけど、
なんだかここでもできそう。
どこでそんな風に思っていたのかな?
ひときわ大きな窓際の席に座る。
コーヒーを頼んで早速パソコンとノートを開く。
それから2時間ほど、集中して仕事をすることができた。
ふと顔を上げる。
窓から見えるのは山がいくつも連なった景色。
山並みがどこまでも続いていっている。
連なってる。
そっか、つらなっているんだ。
よくSNSとかで言われる
「つながりましょう。」
って言葉に疑問に思うことが多くて、
ちょっと「友達」になるのいやだなぁ。なんて思ってた。
けど、
連なる。
なら、わたしの言葉になる。
そっか、誰かと深く交わるわけではないけれど、
連なることなら
無理なくできるかも。
決して心を開いていないわけではないけど、
山並みが連なるように、どこか触れ合っている。
ただそんな関係を、そっと見つめてあげていればいいんだ。って思った。