きづかいさがし ネタバレ
ナメてるゲームデザイナーあからんです。きづかいのかけらもない拙作をお楽しみかもしれない皆様に「#きづかいさがし」という真反対のゲームを、ボドベントカレンダーの一つとして提供いたしました。
▼開発にいたったきっかけ
「今から来週のゲムマのボードゲーム作りませんか?」
「ああ、じゃあ今から昼飯食いながら提出しておきます」
そんな狂った会話がきっかけでした。結局昼飯中に提出したボードゲームは、その夜「一人からプレイできるもの」というルールによってボツになり、翌日のランチで仲間に私はこうもちかけました。
「今から昼飯食いながらゲムマのボードゲーム作りませんか?」
こうして3人のランチ中にゲームデザインが完成したのが「#きづかいさがし」です。
柚井さんが撮影中に私にもちかけたのが2024/12/7の木曜日、ボツになって作り直したランチが金曜日、イラストレーターの爆竹香織さんと映像デザイナーのレイにーさんが土日に原稿を作って入稿。ボドゲの鉄人は狂ってると思ったけれど、ボドゲの鉄人を見たデザイナーはみんな狂ってしまうのかもしれない。
柚井さんの狂った企画に対して誰も参加を拒否しなかったらしい。全員狂っている。何が狂っているのかわからない方に説明すると、ゲームマーケットに出品するボードゲームは開催の1〜3ヶ月前にはみんな入稿し終えるのが普通だ。そして入稿するボードゲームのイラストやグラフィックなどのデザインも1〜2ヶ月かけるものだし、ゲームデザインそのものだって普段ためたアイデアを年単位で構想を練ったりするし、プロだって数ヶ月かけてボードゲームを作るのが普通だ。それをゲムマ開催一週間前に、今からボードゲームデザイナーを24人集めて、開発・制作・入稿・印刷・頒布…を当然全員自分のゲムマの準備と並行してやろうという企画…これは狂ってる。しかし参加者は全員狂ってるので、全員参加したし、全員完成させたし、全部売れた。この狂ってる感じがどうしても好きなのが創り手という生き物なんですよね。私も、メンバーもワクワクしてしまいましたからね。こういうワクワクを生み出してしまうプロデューサーは楽しいクソ納期を生み出してしまうけどワクワクするから仕方ない。まるで「文化祭前日の準備」 のようだ。
▼きづかいさがしはなぜノーヒントを貫いたのか
ノーヒントで超難問を解いたらすごく気持ちがいいですよね。自分だけが気付いていて周りが気付いてないとかも気持ちがいいですよね。自分の回答よりいい回答があったらもっといい回答を考えられたらもっと気持ちがいいですよね。自分の回答が「最も」正解かつ優勝していると確信できたなら最高に気持がいいですよね。超えられないために最高の回答を考え続けるのも気持ちがいいかもしれません。そんな気持ちがいい体験を用意したのが「 #きづかいさがし 」です。
もし公式が匂わせでも欠片でもヒントを出してしまったら台無しになります。作者はユーザーの体験を奪ってはいけないと思いました。
ところで「難しすぎたらどうしよう」と私は日和かけてしまい、Masao Fukaseさんに相談しました。そこで一つ体験談をうかがいました。Fukaseさんは自身が用意した体験でやはり日和ってしまったことをIKEさんに相談して「ユーザーの体験を奪ってはいけない」 と言われてハッとしたという話です。(この話、IKEさんがメチャメチャIKEMENすぎるので聞きたい方はFukaseさんから聞いてみてください)
案の定、柚井さんからも「難しすぎるかも」という相談を受けましたが、この相談を経ていたので方針がブレることなく着地点を見つけられました。
さて、これくらい長文を読んでもなお知りたいなら、本当にネタバレしましょう。
▼きづかいさがしの正解条件と優勝条件
・正解:あなたが決めます。あなたの回答が正解です。
・優勝:みんなが決めます。みんなが一番だと思った回答が優勝です。
正解は自分が決める、優勝はみんなが決める。
オインクゲームズの「VOID」のシステムのようなものと言って通じる人は通じるかもしれません。
ポストカード本体の裏の切手部分にはQRコードがあり、読み込むと説明書や謎解きの問題文に行くと思わせておいて、Xのハッシュタグ「#きづかいさがし」の検索画面に飛びます。そこには「回答かもしれない投稿」 のネタバレだけが存在していて、解き方は存在しません。「これは謎解きだから実は裏で事件が起きてるんだ!」「まちがいさがしだから不自然な点を答えるんだ!」などなど、楽しみながら見させていただきました。早乗りした人たちだけが楽しめる考察遊びがそこにありました。
そしてやがて「ああ、まさにこれこそきづかいさがしだ」とみんなが思うような投稿が現れます。やがて共感を得た投稿はインプレッションが上がり、拡散されるかもしれません。もっともきづかいさがしを感じられたとみんなが思う投稿たちこそ優勝にふさわしいと言えるのではないでしょうか。しかしまたその投稿をも超えるきづかいを考える投稿が現れるかもしれません。人間のきづかいの正解は時代や文化で進化しますので10年後はわかりません。
▼きづかいさがしとは結局何だったのか?
「#きづかいさがし」は、共感力の知育が主目的のコミュニケーションツールです。
たとえば、美術館の絵画は教養があるとないとでは面白さが段違いだと思いませんか?わかる人は史実や背景の意図や関係性も踏まえて浸かるような体験をしていますが、わからない人は「すごい」「きれい」「あれみたい」「へんなの」とおしゃべりしています。
でもそれは誰かと食事をするといった日常の光景であっても、共感力の教養のあるなしでだいぶ変わってくるのではないでしょうか。しかし美術よりもさらに共感力の授業や教本は一般的でないと思います。より日常で多くの人が出会うものなのにです。
「#きづかいさがし」の楽しみ方に決まりはありません。ルールはありませんがデザインはあります。ポストカードの光景を見て相手とどう過ごしたいのか、楽しく過ごすために何ができるのかを考えるときりがありません。自分以外の誰かとそれを話し合っても楽しいでしょう。ポストカードを額縁に入れて飾っても良いですし、切手を貼って誰かに送ってもよいです。日常のきづかいさがしのきっかけになれれることをデザインしていますから。
Fukaseさんからは相談した際に「ユーザーは製作者の想像などゆうに超えてきますよ」とも聞かされていたのですが、公開解禁の翌朝には私の想像した模範解答すら超えた投稿がされていて度肝を抜かれました。一年くらい経っても誰も気付かなくて、このネタバレnoteを公開することになるかもしれないとすら思っていましたから。当たり前ですが思っていた以上のきづかいさがしが世の中にはあるものですね。
▼まちがいさがしと謎解きについて
ポストカードの光景に実際に出くわしたあと、あなたは自分の振る舞いを振り返ってみて採点するとしたらそれは100点満点でしたでしょうか。ポストカードと違って現実はいつもワンパターンではありません。そこにはいつもまちがいさがしが存在するかもしれません。
また、あなたは一緒に過ごしている相手の気持ちを常に想像できているでしょうか。わかっている、伝わっていると思うでしょうか。それともいつも謎に包まれているのでしょうか。もしかするとその謎には解き方が存在するかもしれません。
「#きづかいさがし」を経てメタのきづかいを意識して、現実に戻って日常を過ごすとき、あなたはまちがいさがしと謎解きに挑むことになるのです。
▼開発秘話について
ランチの時間でゲームデザインを完成させたとさらっと書きましたが、何をしていたか気になる方に向けてネタバレをします。当然時間がありませんから、メンバーでできることを考えます。そのキーワードがたまたまきづかいでした。そしてイラストレーターがいる。他のゲームデザイナーはおそらくイラストを発注する暇がない。(あとでわかりましたが、はらセレブさんという脅威がいましたね)それならば下手にゲームなど作らない。われわれらしい謎をしかけてやろう、ということで方針が決まりました。アイデアはアナログゲームという枠にとらわれずやりたいことを話しました。その中に「恋愛シミュレーションゲームのUIでお互いに気づかいをし合って、きづかいされると心の借金ゲージが増えて、先にノックアウトされたら負ける格ゲー」という話が一番盛り上がりました。なので一番盛り上がったネタをポストカードサイズの一人プレイ可能なアナログゲームに落とし込むとなれば、これはもう一枚絵のまちがいさがしでしょう、じゃあちょっとコンビニで紙とペンを買ってくると、注文をしたあとにダッシュでコンビニに行く、ランチを食べながらランチ中にできるきづかいについて話す、食べ終わったらランチの光景をラフにして、ランチ中にゲームデザインとラフが完成です。できることの開示と採用不採用の躊躇のなさ、チームワークがこの早さを実現させました。
▼余談、『ナメプ謝罪』もコミュニケーションツール
ゲームをながめながら「そういえばさあ」と話が盛り上がる、なんていうのは意外と起きません。
「ito」は遊んでいると人となりがわかるので、とても好きです。「かたろーぐ」などは特に顕著ですね。デジタルのファミリーゲームであっても意外と人となり、メタな発展がしやすいゲームがありません。心の機微に敏感な言葉がたくさんある日本から国外に輸出するものとして、人となりがわかるコミュニケーションツールに力を入れる、ってのはどうでしょうかね?私はちょっと来年あたりここに注力しようと思っています。その第一弾が『ナメプ謝罪』です。ありえない大ボケを考えるのではなく「いるいるそういうやつ」 がつまった大喜利の答えが最初から書いてあって読み上げるだけの大喜利は、気づけばカードを眺めながら雑談に花が咲くのではという思いも込められています。BG CONNECTではゆぃかさんと、静岡ボードゲーム大祭ではH1R0さんとコミュニケーションツールとしての発展についてお話できて特に可能性を感じました。こちらは「きづかいされなかった世界線」を笑い合うゲーム、「#気遣い探し」は「きづかいされる世界線」をさがすゲームになっています。どちらもお楽しみいただけると幸いです。