Weekly Quest <景気は悪い>
(2023年10月16日号)
毎週月曜日に Weekly Quest と称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。
日本の連休中にイスラエルとハマスの戦争が起こり地政学的リスクが一気に高まっています。ただ、今のところ原油の供給に支障が出るような状況ではないため株式市場は地政学的リスクよりも利上げ停止の前倒しが行われるのではないかと捉えて堅調に推移していました。
ウクライナの時もそうですが多くの人が亡くなり、混乱している状況で株価が上昇していることに対して違和感があるのは私だけでしょうか?
また、先日発表されたCPIも概ね高止まりと言っていい水準でFEDの目標としている2%、コロナ以前の水準には程遠いものでした。さらに、ミシガン大学消費者信頼感指数も物価高止まりを裏付けるような内容でした。
こう言った消費に関連して、CNBCで興味深い記事がありましたので、それをご紹介したいと思います。例によって、ただ和訳してもしょうがないので、データなどを確認しながら個人的な意見も加えていきたいと思います。
「雇用が増加しているが多くのアメリカ人は今の景気を胡散臭いと考えている」と言う記事です。
景気が良いとされる理由は、金利を引き上げてインフレ率が低下しており、雇用も好調だからと言われていますが、アメリカ人はそう言われても胡散臭いと感じている人が多いということで、インフレがまだまだ多くの人が耐えられる水準にはなっていないからだと言うことです。
こういう事を言い出すとキリがないですが、発表されている経済指標が人々の生活をきちんと反映していないのではないかと言うことです。
現状では家賃や食料品、ガス代、家電製品などはまだまだ高い水準にあります。まず家賃の上昇率推移を見るとここ一年間では沈静化したようですが、長期の推移を見ると、とても下がったと言えるような水準ではありません。
それにしてもNY州の平均家賃がこれでも下がったとのことですが、1 ベッドルームで月 $4000というのはすごいです。
ただ、アメリカ全体の家賃額の推移をみてみるとコロナ前の水準にはまだまだ程遠い状況です。
家賃一つをとっても高止まりしている状況で、収入が上昇していなければ ”景気が良い” と言われても違和感があるのは当然のことです。また食料品価格を見てみるとこれも上昇率こそ鈍化しているものの価格自体はまだまだコロナ前の水準には程遠い水準になっています。
この価格自体と上昇率の差が違和感の原因の一つになっているのではないでしょうか。
この二つのデータで、前者を見ずに後者の方だけを見て ”インフレが鈍化し始めた” と言っていると正確な判断ができないということになります。絶対値が下がってこそ ”インフレが鈍化した” となるのは当たり前の話です。
生活に必要な住居費や食料費が高止まりしているから賃金を上げろとストが頻発していることにつながりますが、そう言った不満がバイデン大統領の支持率が 42%と低迷していることにも現れています。
また、消費者信頼感指数(政府発表)という今後の景気の見通しを表す指標がありますが、それをみるとこちらもコロナ前の水準にはほど遠い状態になっています。
具体的な話として、子供を連れて外食に出かけたときに、子供用の食事が値上がりしているだけでなく、子供用の無料ドリンクなどもなくなってしまったという話もあり、実体経済ではそういうことが起きているのです。
このことはシュリンクフレーションと言われています。インフレーションとシュリンクを組み合わせたもので、消費財の10%が小型化していると言われています(要するに中身が10%減っている)。
価格が据え置きならまだマシですが、価格まで上昇してしまっていて、そう言ったことを含めて現在の消費者信頼感指数が良くない水準ということになります。ここまで見る限りやはり景気が良いとは言えません。
また、高すぎる住宅価格も問題です。世帯収入に対する住宅価格の割合とその推移をみるといかに住宅価格が高く家計を圧迫しているのかが分かります。
コレをみるとリーマンショック前のバブル水準を上回っている状況です。しかし、相次ぐ金利引き上げにより30年の住宅ローンの平均金利は7.83%になっており、インフレが冷え込まなければ FED が金利をさらに引き上げる可能性があると言われており、今後若い世代の資産形成にも非常に大きな影響を与えるとも言われています。
雇用については、今回の雇用統計をよく見ると増加した四分の一以上は、レジャー・接客業の増加によるものでした。この業種はまだ比較的賃金が安く組合などに属していない業種でもあり、賃金上昇を伴った良い雇用とまではいかない状況です。
これらの業種の賃金が底上げされると賃金上昇も一段高してくる可能性があります。そうなると景況感は改善するかもしれませんが、インフレにつながることになります。
こういったことを総合的に考えると FED が考える適正インフレ水準の2%にはまだまだほど遠く、現状の経済状態の内容を確認していくと、とても良い内容とはいえません。
FEDがどこまで突っ込んだ分析をしているのか分かりませんが、高官の発言を見ていると ”机上の空論” という表現がぴったりなことがあり疑問に思うような場面も多々あります。
また、”FEDのハト派的発言により〜” などとのコメントを見かけますが、そんなものはデータの上面だけを見ただけで、なんの役にも立たないということです。
裏付けのないコメントを元に売買をすると、投資家としてはいままでと同じように高値掴みをさせられるだけです。こういった何か腑に落ちない状況での株価上昇もおそらく長くは続かないものと思われます。
それではデータをどこまで細かく分析すれば良いのかという問題もありますが、経済指標だけでなく色々なニュースをチェックしていくしかありません。
今起きていることを考えながら、FEDの最初の利上げを実施した時からの株式市場の動きをみると、株価は大底をうったという感覚は全くありません。その間、経済環境は確実に悪い方向に進んでおり、それを助長するような地政学的リスクも新たに発生しているとなると、とても楽観的になれません。
こう言ったダラダラ相場が続く中で、何かトドメを指すような事象が起きないことを願うばかりです。
最後までお読みいただきありがとうございました。