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兄、紅葉がみたくて...絶叫ドライブの巻

私の兄は、
時々、ダースベーダーのような話し方で、
時々、ちびまる子ちゃんの藤木君のような性格で、
動作は、パンダとペンギンとモアイ像を足したような感じの人である

もちろん、小さい頃から、
変わった人扱いで
私が小学校に入った時は、
私の名前ではなく、
「あの○○の妹だ!」と、からかわれることもあった

おさなごころに、"やれやれ"と思ったのは確かだけれども、
私にとっては、変わっていようが、変わっていまいが
どっちにしても、私の兄なのである

大人になれば、
何か魔法のようなことが起こり
突然、"大人"っぽい人になるのかとも思っていたけれども、
びっくりするくらい、中学生ぐらいから変わっていない

...ということを、今年、嫌というほど、思い知らされた(笑)

彼は、大学入学を機に家を出て、卒業後も仙台で就職したため、
私にとっては20年以上、正月の約2日間と、たまにお盆休みなど、年に数回だけ実家で遭遇する人物であった

それが、突然、この春、東京に上陸してきたのだ

15年間勤めた、(性格が真逆の私からすると、なぜもっと早く脱出しなかったのか信じ難いくらい)劣悪すぎる条件の非正規雇用の事務職をやっと卒業して、 東京で職を見つけたというのである!

めでたい事だとは思ったが、
一体、どんな職を見つけられたのかと聞いてみたら、

"配達ドライバー"ということであった

即座に、嫌な予感しかしなかった

なぜなら、彼の運転が、かなり、ユニークであることを、運転ができない私でも知っていたからだ

まず、気が優しすぎて、なかなかT字路で曲がったり、割り込んだりできない

ほぼ一台もいなくなった頃に、やっと右折したり、左折したりできるのだ

更に、ルール絶対厳守主義なので、
一時停止ラインは、 "一時"というより、 
"ずっと停止ライン"に感じるくらい、
ものすごくしっかり止まる

厳格にルールを守るおかげで、
基本、無遅刻・皆勤賞受賞者なのだが(血が繋がってているとは疑わしいレベルw)、
本質的には、ふわふわ〜っとしており、
よく何か忘れたり、落としたり、間違えてしまい、
大パニックに見舞われることがある

それを横目で、じーっと見てきたのが私である

よく言えば、超超超超超安全運転なのだが、

この東京で誰もがみた事のある、
ノルマに追われて激走する配達ドライバーさんの
俊敏な動きを、とても彼ができるようには思えなかった

案の定、転職して通常1ヶ月を目処に合格する必要があるらしい、
独り立ち試験に受かることができず、
都内の道路は難解な上に、
そこに社内ルールも加わり、
パニックになってしまい、
既に崩壊しかかっていたかもしれないメンタルが崩壊してしまった

ドライバーしかいない会社なのに、
ドライバー独り立ちができないため
現在も、立場的には危機的な状況が続いているようだが、
現状は、サポート係のような暫定的なポジションをいただいているということで、
妹としては、兄の暫定的な居場所をつくってくださり大感謝である

そんな兄から、
関東の紅葉を見に行きたい
というリクエストがあり、

高尾山と奥多摩ぐらいしかわからず、
かなり適当に、行ったこともないのに、
「日光東照宮とかは?」
と言ったら、アイディアが採用されて行くことになったのである

電車で行くつもりであったのだが、
紅葉シーズンのピークの週末であったようで、
予約サイトを見た時には、既に電車は満席であった

すると、兄より、
「レンタカーを借りて行けばいいじゃん」
とのことだった

大丈夫か!?と思ったが、
特に配達の時間のノルマがあるわけでもなく、
都内ほど複雑な道路ではないはずなので、
本人が運転するというなら任せようということになった

たまたま、その時、別件でやり取りしていた
大学時代の友人夫婦も来てくれることになり、
4人で行くことになった

朝9時に、北千住付近を出発して
助手席から眺めている限り、
順調に見えた

わりと道もシンプルそうで、
よかったなぁと思った

ただ、やたらと、埼玉が長かったような気はした
埼玉の田んぼ風景と、
埼玉の住宅街...

学生時代に仲が良かったお友達が住んでいると言っていた、せんげん台〜春日部付近の、畑や田んぼの風景を存分すぎるくらい味わった

道は渋滞はしていなかった

朝9時に出れば、何となく14時頃に、日光に着くと思っていた

しかし、着いたら、ほとんど16時だった

どうして6時間以上かかったのかは、未だに謎に包まれている

日光東照宮の拝観時間は15時半までだったようで
既に、「本日の拝観受付は終了」していた

日光東照宮に入るには、拝観チケット購入が必要と学んだ!

連れてきた友人夫婦に対して、私が前もってタイムキーパー的な事をしなかったことに、少し申し訳なさは感じたけれども、
友人たちは、
兄の運転は“very nice”だったと言ってくれて…

私も、東照宮に間に合わなかったことよりも、
無事に到着できたことが
嬉しかった

また、残念なレビューを人々が沢山書いてくれたおかげで、
この紅葉シーズンでも残室があった格安ホテルに泊まることができ、
友人夫婦は、翌朝、用事があるため、先に東京に帰った


案の定、兄のゴジラのようなイビキで
殆ど眠れなかったが、

朝に、昭和の歴史的な文化遺産とも言えそうな古いホテルの窓から
温泉街と紅葉の風景が見えた

鬼怒川温泉エリアの朝

帰る前に、もう一度、
日光東照宮に再トライしたが、

朝9時台で、付近に車の行列ができており、
30分たっても駐車場に入れそうにないので、
先に車からおりて、入り口のところまで行くと

チケット売り場に、軽く100人以上、長い長い列が4列にわたってできていた

午前10時台。紅葉シーズンに行かれる際は、朝9時前には到着していた方が良いかもです

日本〜世界中の人が、
ここでしか紅葉が見られないと勘違いして
押し寄せてきてしまったのか!? と思うくらいの
混み具合であった
結局断念した

代わりに、同じく世界遺産の、お隣の大猷院(たいゆういん)という、3代将軍、徳川家光が祀られている霊廟を見学した

大猷院の仁王門。空気も澄んでいて良かったです。

日光東照宮の、すぐ隣(厳密には神社を挟む)にあるのに、
こちらは、とても空いており穴場だった

「拝殿・相の間・本殿」の中に描かれている天井の140枚の龍の絵、
350年以上前から、
そのままであるという、
狩野探幽(かのうたんゆう)の描いた唐獅子が観られたのには、
心ときめいた

寒かったけれども、
昔の人も、こんな寒いところで
拝んでいたのだなと想像することができたのは良かったと思う

その霊廟の中で、お坊さんのような方が、
建物の説明と、厄除けに良いという、破魔矢(はまや: お正月などに神社・寺院でも、よく見かける矢)のご利益について、解説してくださった

夜叉門で破魔矢を持つ、烏摩勒伽(うまろきゃ)さん

建物の説明も素晴らしかったが、3000円の「龍神破魔矢」の解説は、個人的には、まるでジャパネット高田!?のような、品物の魅力を滑らかに伝えるプロのトークだと感じた

こういうのに心動かされる人もいるんだなぁと思っていたら、

隣に座っていた兄の目が輝いていた

「3000 円は高いから、アカネが1000 円出してくれてもいいんだけど」
と言われた

断った

ご利益はあるのかもしれないが、
私は彼の部屋の実態を知っており、
置く場所がないと思った

しかし、彼は、あっさり並んで買っていた

その後も、道中、大事に大事に、その矢を抱き抱えて歩いており、

3000円の矢は、私は高いと思ったけれども、
たった、その矢一本で、
全てから守ってもらえるような安心感を覚えられるのであれば、
3000円は安かったのだなと、
彼をみて思った

見事に、その矢と一緒に写っている彼の写真は、
本当に嬉しそうな笑顔なのである

どうか、あの、他人がみたらゴミ屋敷に見える
お部屋に、

今、あの矢が、
いや、あの矢に宿っているかもしれない神様が
耐えられる程度の場所に、飾られていますように

どうかどうか、レッドブルの空き缶の隙間とかに、
立てかけられていませんように

そう心の中で、願ってやまない妹なのであった



帰り道、高速道路で事故渋滞が起き、
レンタカーの返却時間に間に合わないとわかってから、

兄は、この世の終わりのようなパニックぶりで、
渋滞から脱出するために一般道に降りては道を間違え、

「ここで道を間違えたらおわりだ!…もう、おわった!!!」

「どうして、画面が勝手に変わっているんだ!…もう、どうなってるんだ!!!おわりだ!!」

と、何度もスマホのナビと、私と、全てに対して絶叫し、

身の安全のために、なだめながら帰路に着いた


今、こうして、無事に、東京に戻って来れて
本当に良かったと思う
レンタカー屋の、おじさんも、ありがたいことに、全然怒っていなかった


きっと、後部座席に置いてあった、あの3000円の矢のおかげに違いない


vol.4 2024.11.27


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AKANETTI(アカネッティ)
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