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角刈りフレンチ

※ 2014年6月、高槻現代劇場での『第11回 レセプション亭 落語会』
パンフレットに書いた文章に、少し加筆しました。
(転載許可いただいております)

いつも好き勝手なことを書かせてもらって感謝です!

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そのレストランは、近所を自転車でうろうろしていて見つけた。
空色の看板に可愛らしいフォントで
『プティレストラン GIRO』
フレンチのお店らしい。
こじんまりとした雑居ビルの一階にある。

人が2人、すれちがうのがやっとの狭い通路の一番奥、左側に入口ドア。
中の様子はわからない。

意を決してドアを開けると、6~7人でいっぱいになりそうな、高さのあるカウンターに、小さなテーブルがひとつだけ。昼なのに照明はだだ暗い。

いやいやいや、どう見てもこれフレンチのお店じゃない。
場末のスナックだ。
居ぬきで内装そのまま使ってるパターンだ。
店内に流れるエディット・ピアフのメロディーだけが、かたくなに
「フレンチ」を主張している。
ランチの時間を少し過ぎていたためか、お客さんは誰もいない。

空色の可愛らしい看板とのあまりのギャップに
「うっっ」
と動けなくなっていると、カウンターの奥の調理場から

「あーーーランチなの?」

シェフが出てきた。角刈りだった。

まわれ右でその場から逃げ出してもよかったのだが、高まる好奇心を抑えきれずランチを注文。

メインはお肉かお魚か選べるようだ。
「鶏もものコンフィが、うまいんだわ」
と眼力で迫られコンフィにする。

「で、かし食う?」

一瞬、なにを聞かれているのかわからなかった。
よく聞くと、「かし」=「菓子」=デザートを頼むかどうか聞かれているのだ。
なにもフレンチだからって、店内でフランス語を使わないといけないことはないし、かしこまることもない。日本語上等だ。

でも「かし」て。
パンチが強すぎる。

とんでもレストランに入ってしまった…とおののいていたものの、出てきたお料理はなぜかとても美味しい。
角刈りと「かし」からは想像もつかない、繊細なフレンチだった。
ミシュランが、ほんまのほんまにお皿の上の料理だけでジャッジを下すならば、星がついてもおかしくないんじゃなかろうか。しらんけど。

問わず語りにジローさん(推定・栃木出身50歳)が話すところによると、
むかしフランスのリヨンの、内臓料理を得意とするお店で修行した後、とある三ッ星レストランで働いていたとのこと。
壁には、その三ッ星シェフが来日したときのツーショットが無造作に貼られている。

すごい経歴をひけらかすことなく、雑誌などに売り込むこともないかわり、
その日はじめて訪れたわたしに対しては

「次はさぁ~夜食べに来て、夜。ランチだけだと厳しいんだわ~」

とあけすけに言ってしまうジローさん。
この雰囲気。受け付けない人は永久に無理だろうけど、あまりにも正直すぎるスタンスが好きな人もいるはずだ、どこかには。

プティフレンチレストランGIRO。
とある雑居ビルの一階、「スナック悦子」の奥に、その店はある。


追伸  このパンフレットを読んだ方から「これホンマの話ですか?」
    と聞かれたのですが、GIROさんは実在します。

    ご興味あれば、ぜひ…とは言いませんがよろしければ。

    このあと再訪したとき、手を火傷してはったジローさん。
    「どないしはったんですか?」と聞くと、
    「バイト先のホテルの厨房で、フライパンが当たってさぁ」
    ジローさん、バイトしてはったのか。

    この前、ひさしぶりに前を通ったら、ちゃんと空色の看板が
    出ていました。
    スナック悦子は閉店していた気がします。

そして、高槻現代劇場の『レセプション亭落語会』
次回は6/13(土) の予定だったんですが、このご時世で中止となってしまいました。
次は、12月の予定です。



    





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