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#9
「セナ、3つ聞きたいことがある」
非番が明けると、セナは早速、レジーナ直々の呼び出しがかかった。
彼女はいつも通り、紅茶を淹れてセナに差し出してきた。
いつもと比べて、明らかに紅茶の味が濃い。普段と比べて、明らかに空気がぴりぴりしている。
既に嫌な予感がしていた──まさか、クロエとの密会が漏れて……?
そんなはずは──細心の注意は払ったはずだ。
「ここのところ、体調は大丈夫か?なにか、道に落ちている物でも食べたか?」
「いえ」
「そうか。二つ目の質問だが、私は君に嫌われるようなことをしたか?」
今度は、上目遣いで尋ねてくるレジーナを見て、セナは僅かに動揺する。
「え──そんなことは」
「立場は気にしなくていい。私に対して思ったことは、なんでも言ってくれて構わないぞ」
「いえ……そんな、ことは」
「そうか」
言い淀んでしまうが、レジーナはそれ以上に詮索することはなく「三つ目だが──」と切り出す。
「なぜ、来なかった?」
「──え、あっ」
紅茶セットの隣に山積みになったファッション誌を見て、レジーナの言葉の意味が分かる。
「実はな、使用人にセナの家まで向かいに行かせたんだ。だが、君は外出中だったようでね」
すっかり頭から抜け落ちていた。
非番の日はレジーナと服を買いに行く約束をしていたんだった。
「どこかに行っていたのか?」
「申し訳ございませ──」
「謝れと言ってるんじゃない。どこに行っていたかと聞いているんだ」
約束を反故にされて怒らない方が無理のある話だが、レジーナの目元からは苛立ちが伝わってくる。
完全に忘れていたのだから、それなりの返答を用意できているはずもなく、セナはしどろもどろになっていると、
「すまなかった」
「──え?」
罵声のひとつでも覚悟したところに、肩に手を置かれて投げかけられたレジーナの謝罪に、耳を疑った。
「明確な日程を言っていなかった私にも否はある。それに、セナにもプライベートはある」
「いえ、そんな……」
「君ともあろう者が、私の呼び出しをすっぽかすのは初めてだったから、何かあったのかと気になったまでだ」
随分とあっさりと食い下がるレジーナを見て、セナとクロエの密会は露見していないようだと、内心少しほっとした。
「でもな、すごーく待ったんだぞ?寂しかったんだからな?埋め合わせは、してもらうからな?」
「も、もちろんです」
足を組んで口を尖らせるレジーナは、怒っているというより拗ねているようだった。
「そうだな。1日メイド姿で、お茶汲みなんてどうだ?」
「それだけは勘弁してください!!」
冗談を口にするくらいに、機嫌は治ってくれたようだ。
セナはもう一度、謝罪を口にした後、総統室を出た。
「──ふう」
全身から大きく息を吐き出す。
今回は見逃されたが、次はないと考えた方がいいだろう。
クロエ達との密会を嗅ぎつけられてはまずい。
裏切りが露見してしまっては、元の子もない。
セナは表向きは粛清者なのだ。他の人と比べて、遥かに目立ちやすい立場なのだ。
無闇な密会は危険だ。もう少し慎重に行動した方がいいだろう──。
★
「はぁっ……!はぁっ!クロエぇ……!」
「せなっ……!わたし……たちっ、相性、抜群ね……!!」
──セナは、すっかりクロエの虜になっていた。
彼女がこれまで押さえつけられていた欲求のダムはとうに決壊しており、ずっと我慢してきた快楽に抗うことはできなかった。