そこから先の記憶がない
小学校低学年の時の話です。
ぼくの家の前は5m×7mくらいの空き地になっていて
そこで近所の5,6人の子供達が集まってよく遊んでいました。
下はうちの弟の幼稚園児から上は6年生くらいまで。
特段仲がいいというより,近所の子供という理由だけで遊んでいました。
その中の一つがビー玉遊び。
ビー玉遊びにはいろいろなやり方があるけど
ぼく達がやっていたのは
ビー玉を指ではじいて
相手のビー玉にあてたら自分のものにできるという遊びをしてました。
ぼくはビー玉を持っていませんでした。
最初は見ているだけでした。
そしたら一番大きいお兄さんが
「オレの貸してやるよ。」
と何個か借してくれました。
ぼくは全然下手でした。
負けてすぐにビー玉はなくなりました。
すると一番大きいお兄さんがまた
「もっと貸してやるよ。」
と言ってくれました。
それからもどんどん負けて
どんどん借りてやってました。
ある日,そのお兄さんに
「貸したビー玉,そろそろ返せ。」
と言われました。
今でいう借金取りです。
利子がついていたかどうか分かりません。
でもぼくは小さかったので
「借りる,貸す」
ということがどういう事になるのか
全然分からなかったのです。
ぼくは困ってしまいました。
でもそんな切羽詰まったということもなく
母さんに言えば何とか返してもらえるだろうと思って軽い気持ちで母に言いました。
そしたら母は激怒して
「そんな遊びするな!」
「誰に借りた?! お母さんが言って返してくる! 2度とそんな遊びするな!」
と言われました。
すごい剣幕でした。
ぼくは自分がとんでもないことしたんだと分かり,ぞっとしました。借りたことも後悔したし,母に話したことも後悔しました。
母がそのお兄さんの家に行って話をつけてきたかどうかは分かりませんが,
それからぼくは
「貸したものを返せ」
と言われることはなくなったと思います。
さて。
話はここからなのです。
それと関係あるのかないのか,覚えていません。
でも確かその頃
「お金持ってこい。」
みたいなことをだれかに言われた記憶があります。
そのお兄さんが言ったかどうかも覚えていません。
だけどさすがにそれはまずいでしょ,と困惑した覚えがあります。
どれくらい困惑したかは覚えていません。
でも,脅されていたのか
それとも自分で仕方ないかと思ったのか
持っていくことにしたのです。
そしてぼくは父母の寝室の
箪笥の真ん中の引き出しを引き出した覚えがあります。
映像的にはぼくの胸の高さの引き出し
その引き出しを引いて,中をのぞいて
そして…。
そこから先の記憶がありません。
ぼくはそれからどうしたんだろう?
お金を取ったのか?
お金がそこにはなかったのか?
お金を取って誰かに渡したのか?
ばれて思いきり怒られたの?
覚えていないのです。
引き出しを引いた覚えは確かにあるのですが。
社会人になってから
酒の肴に同僚に話してみたら
「そりゃね,そのときすごいプレッシャーがかかったから記憶が飛んだんだよ。
『お金を取る』なんて,もうすごい罪の意識に押しつぶされたんだよ。」
とスギちゃんには言われ,
「きっとね,そこで人格が入れ替わったんだよ,キミの意識は気を失って,別の人格がお金を取ったのさ。」
とタンちゃんには言われました。
どっちにしろ,彼らの見解はぼくはお金を取ったらしい。
そうかなあ?
そうでありませんように。
でも,そうでないことを祈っている自体
そうだったことの証明になるのかなあ?
もしお金を取っていたんだとしたら
バレていたといいなあ
思いっきり怒られて
思いっきり後悔して
思いっきり泣いて
思いっきりごめんなさいしている記憶が欲しかったなあ。