中林和雄「マティス試論(Ⅱ)—絵画と装飾性」を要約する
【要約】
著者は、アンリマティスの装飾性について考察するものである。この考察では、マティス絵画における装飾性を分析し、その特徴を時代における芸術の議論等と検討しながら、マティスにおける装飾性とはどんなものなのかを明らかにする。
これまでのマティス論では、マティスにおける装飾性は絵画に装飾文様を導入するもので合った。しかし、筆者はこのような装飾文様を導入するにも関わらず、絵画において暴力的に構図を破壊するような印象も与えるものであり、装飾文様の揺らぎの中の不安定感や未知のものへの不安さえも感じるものである。筆者は、当時フランスで議論された装飾芸術や壁画などの議論とともに、マティスがこの問題を潜在的に取り組む独自の
装飾論を立ち上げていくことを仮説にしている。
壁画的な装飾性とは、「その場を変質させメニュメンタリティ」であり、絵画の内部における造形的アレンジメントのようなものではなく、常に外部的な存在である。筆者は装飾性を遠心的なものであるといい、その一方で絵画などのタブローは求心的なものであるという。マティスにおける装飾性は、このような装飾性を絵画の中に導入しながらも、マティスにとって「関係」を表現するものであると考える。例えば、絵画において、《ナスのある室内》において、装飾の拡張性とタブローの凝縮性を混ぜ込めることを可能とした作品であると考えることができる。
さらに、筆者は絵画におけるミーメーシスの問題にふれ、装飾が広義のミメーシスの圏域内にあり、マティスにおいて「絵画と再現的絵画が実は根幹において通じ合っているのではないかという予感、装飾的絵画を至上のものとした」感覚を持っていたのではないかという。
そして、切り紙絵のシリーズにおいて、彼自身の独自の表現へと開花する。切り紙絵の《アクロバット》などは「質的に異なる動性と雰囲気があり、装飾に見られる、思考と感性を麻痺させかねない反復にはなっていない」しかし、作品においては、拡張性と繁茂の可能性もが備わっている。
見出しのまとめメモ
・装飾の闖入
・装飾性
・建築と装飾
・装飾的人間像
・状況の彼岸
・和解のそぶり
・メーミシスと装飾性
・切り紙絵