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獄中記 #04|新年のご挨拶


遅い新年のご挨拶

大変遅くなりましたが、あけましておめでとうございます、長嶺茜です。
娑婆で過ごされている皆さまにおかれましては健やかな新年を迎えられているかと思われます。
私は今回の年越しも変わらず獄中で過ごし、特別な食事や自由時間もなく、臭くて冷めた飯を頬張りカビ臭い布団の中で新年を迎えました。

この通り新年といっても私のような女囚にとってはいつもの獄中生活と何も変わらないのです。ハレの日を享受する権利も奪われているのです。

はい、新年のあいさつが遅れてしまいましたのには訳がありまして……端的に申し上げますと新年早々懲罰を受けておりました。

雨浦監獄の新年

せめてお雑煮くらい…

暖房の無い独房。冬の朝はキンキンに冷えて身体に堪えます。雨浦監獄に新年らしい雰囲気はなく。いつもと変わらない朝。感謝の怒号とともに朝の点呼が始まり、続いて朝食が配膳されます。

先ほども述べた通り女囚に新年を祝うような権利はありません。それは理解しているつもりでした。でも元旦の朝食で出されたいつもの冷めた薄味の汁を目にしたとき「せめてお雑煮くらい食べたい…」と口を滑らせてしまったのです。

当然看守が聞き漏らすはずがありませんし、彼女たちも元旦から仕事で少し苛立っていたのがしれません。私は直ちに独房から引きずり出され取調室で問いただされました。

警察や検察の取調室とは違って机や椅子はありません。窓のない狭い部屋に正座させられ周りを看守に取り囲まれて尋問です。「囚人の分際で何をほざいている」「まだ立場を理解していないようだな」「食事が与えられているだけ感謝しろ」

必死に謝ってもあとの祭り。私はただ看守の怒号に耐えるしかありません。

特製お雑煮

「そんなに雑煮が欲しいなら食べさせてやる」

ふいに看守がそんなことを言いました。ただ、こんな言葉に素直に喜べるはずがありません。絶対何かある。

目の前に出されたのは干からびた餅が入った粗末なお椀。よく見るとカビも生えて汁もない。とても食べられたものではありません。

「どうした固くなって。そうか、確かにこのままでは食べられないな。せめて汁くらいないとな」

「汁、ですか…」

「ああ、自分でかけな」

「か、かけるって何を…」

「小便だよ、そんなことも分からないのか」

「ひっ」

分かるはずがありません。自ら看守の前で小便を出して、さらにそれを啜るなんて。

「なんだ、せっかく我々が準備した雑煮を拒否するのか。それとも新年早々懲罰房送りにされたいのか」

懲罰と飲尿、そんなのどっちも嫌。だけど何日も続く懲罰よりおしっこの方が……

この厳しい監獄生活ではもはや正常な判断はできません。私はズボンを脱ぎ、お椀をまたぎます。

じょぼじょぼじょぼ……

汚らしい音と共に雫が私に跳ね返ってきます。しかも看守たちに監視されながら。

「くっさい小便だね」「濃厚でいい出汁がとれてそうじゃないか」「懲罰逃れたさに恥ずかしげもなく痴態を晒すとはさすがだな」

そして望んでいたお雑煮が最悪の形で出来上がりました。

私は姑息で恥知らずの浅ましい女囚

「さぁ、食べな」

そう言われても、いざ目の前にするとさすがに躊躇します。カビた硬い餅は黄色い汁に浸かって変色し、酷い臭いを放っています。こんなもの食べ物ではありません。

「そうか、なら懲罰房に……」

「た、食べますっ食べますからそれだけは」

もう後戻りはできません。私は意を決して口を近づけます。箸もないのでそのまま犬食い、鼻で息をしないようにして目を瞑ってそれを口に含みます。

「うえぇぇっ」

生ぬるくて苦くて硬い餅は少し水分に浸されたくらいでは食べようにも食べられません。吐き気をもよおしながら頑張ってみたものの私には無理でした。

「せっかく用意した雑煮も拒否するとはかなり反抗的だな」

「ちっ違います」

「何が違う。貴様は犯罪者のくせに一般人並みの正月を望み、我々から与えられた特別な計らいも拒む。姑息で恥知らずの浅ましい女囚だ。貴様に相応しい正月を用意してやらないとな」

私に相応しい正月。その言葉察しました。始めから私を懲罰房送りにするつもりで無理難題を吹っかけていたのです。結局私はちょっとした失言から激しく恫喝され、排泄姿を晒し、小便を啜って、懲罰房にぶち込まれることになったのです。

懲罰房の過酷さはまた別途、今回はその一部をイラストだけで。これでも十分伝わるかと思います。

臭くて狭い懲罰房で、鎖につながれ身体は汚れ、排泄物は…

改めまして新年のご挨拶

この通り、新年から啜り懲罰房で悶えておりました。今年も厳しい獄中生活が続きそうです。

どれだけ厳しい罰を受けても喉元過ぎれば熱さを忘れ、気を緩ませてしまうのが私の悪いところ。見た目はしおらしく反省していても、根底には私はこんなところで罰を受けるような女囚ではない、外で犯罪と縁のない生活を送っていた真面目なOLだったのに…という驕りがあるのだと思います。

これではいけませんね。気を引き締めて今年こそ仮釈放目指して精進していきます。外に出たらまた事務服を着たい。私に似合うのはこんなみすぼらしい囚人服ではなく、上品で清潔な事務服!

それでは改めまして、今年もよろしくお願いします。

今年もよろしくお願いします。今年の目標はこの囚人服を脱いで再び事務服の袖に腕を通すこと!私に似合うのは惨めな囚人服ではなく上品な事務服ですよね


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