小説解説 #05|取り調べ
今回は小説解説。逮捕編第3話の取り調べを振り返っていきたいと思います。
初めての留置所、そして拘置所へ…
職場で見せしめにされるように逮捕されて半ば混乱していた私でしたが、警察に護送されてきた頃には少し気持ちが落ち着いてきました。
しかし、間髪入れずに始まる取り調べに私の心身は疲弊していきます。気持ちを弱らせて自供させる狙いだったのでしょう、ですが当初私は犯行を認めませんでした。
強い信念で否認した訳ではありません。罪を認める事が怖くて自供できなかったのです。恥ずかしい事ですがこのような状況でも私は自分が優秀なOLで逮捕されるような人間ではないと思いたかった……そんな過去の自分の姿にすがっていたのです。
結局弁護士に諭されて私は罪を認めますが、このような態度が影響したのか保釈は認められず私の身柄は拘束され続け、留置所、そして拘置所へとその場所を変えていくことになります。
初めて体験した勾留設備での生活、独房の閉塞感。もう二度とこのようなところで過ごしたくない。早く釈放されたい。
この頃、勾留生活は一時的なものだと信じ切っていました。
今となっては愚かな考えです。実際には勾留生活は序の口で今後囚われの身の生活が何年も続くというのに……
厳しい取り調べと保身に走る私
検察に身柄を移送されたあとも厳しい取り調べは続きました。いや、厳しいというより陰湿な、と言ったほうがいいかもしれません。
担当の検察官は私と歳の近い女性でした。自信満々で物怖じしない態度から彼女が優秀な検察官であること、そして私を見下していることがひしひしと感じられました。
彼女は私の横領の履歴を一件ずつ丁寧に……ねちっこく調べ上げ、私のホスト遍歴をつまびらかにしていきます。
私の罪は横領したことでその利用先は大きな焦点にはならないはず、それにも関わらず私の黒歴史をほじくり返す事に恣意的なものを感じずにはいられませんでした。
そして挙句の果てには恋愛下手な私の性格まで言及される始末。(私がコンプレックスに感じている事ばかり狙い撃ち)
流石に言われっぱなしも癪に障り、異議も申し立てました。ですが……
担当検察官から言い放たれた言葉です。嫌らしい言われ方でしたが正論でもある。私は真っ当に言い返せず、言い訳じみたことで誤魔化すしかありませんでした。
わざと私を苛立たせるような取り調べをしていたことは自明でしたが、それにまともに反論できない事こそが私に後ろめたいことがある証だったのです。
それを分かっている担当検察官の満足そうな顔が今でも思い浮かびます。取り調べは完全に彼女のペースでした。
可能性は低いにせよ『刑務所』という単語も現実味を帯びてきました。私は藁にもすがる思いでどうにか実刑判決は避けようと足掻きます。
そして弁護士から提案された『更生勤労』という制度。これに私は手を出すのですが結果としてさらなる恥辱を受け、この身を貶めることになるのです。
逮捕されても尚、過去の栄光にすがり罪を認めきれず、反省の姿が見られない私の態度が少しずつ事態を悪くしていく。この不穏な雰囲気がこの話のポイントです。
読み手には私が深みに嵌り、ずるずる堕ちていく様子が手に取るように分かるかと思います。
そのような読み手の気持ちとは裏腹に当の本人である私はどうにか刑務所だけは免れたいと悪あがきをする。
そのような姿が滑稽に映り、私の惨めさを引き立てるのです。