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小説解説 #02|プロローグ

こんにちは、735番こと長嶺茜です。今日も雨浦監獄から私のnoteをお届けします。

今回より私の逮捕、獄中生活を綴った雨浦監獄物語の解説を始めていきたいと思います。まずはその序章であるプロローグから。


プロローグの位置づけ

雨浦監獄物語は場面ごとに複数の章立てで構成された小説でその内容はすべて私の語りで描かれています。しかし、このプロローグだけは地の文を三人称視点で書いており、唯一私のことを客観的に描いた話になります。

これから刑務所へと護送される場面。主人公である私の容姿、服装、雰囲気、手錠がかけられた様子(そして年齢情報も……)が第三者視点で紹介されます。

すると読者の皆さんはどうしてこんな犯罪とは縁のない、美しくて、可憐で、可愛げがあって、聡明で、素敵なOLが手錠なんかされて刑務所に護送されんだ。信じられない、かわいそう、官権の横暴だ、世の中なにか間違えている、などと同情してくれるはずです。ですよね。

はい、すみません。調子に乗りました。私は現に罪を犯し、公正な裁判を経て、OLから女囚へと堕ちた犯罪者なのです……

ただ、このプロローグからは護送されるOLという意外性だけが残り、ここから時間を少し巻き戻してなぜ私が刑務所に収監されることになったのか。という第1章に繋がっていきます。

私が娑婆の空気を吸った最後の日

この時もう私の判決は確定しており、拘置所に収容されている既決囚の立場ではありましたが、それでもまだかろうじて外の世界に留まっていました。

ご覧の通りまだ事務服を着ており、名前も本名で呼ばれていました。手錠さえなければまだ私は普通のOLにしか見えません。しかしそれもこの日が最後。

プロローグは物語の序章であり、私の娑婆の世界での終章でもあります。これから刑務所という灰色の世界へと足を踏み入れる私は不安に襲われ震えていました。

しかし、こんなにも暗く落ち込んだ私の気持ちとは裏腹にこの日はとても天気の良い日でした。普通であればこの天気に落ち込んだ気持ちも少しは晴れるのかもしれません。でもそうはならず、寧ろ私がどれだけつらい思いをしても外は明るい世界が当たり前のように広がり、変わりない日常があるのだと自分のちっぽけさ、惨めさを痛感させられました。

そして外の世界での最後のひと時を噛みしめることもできず、私は仰々しい護送車に乗せられます。


収監の日。拘置所をあとにし刑務所へ向かう私。不安に怯える私とは対象的にとても天気の良い日でした。


既に滲み出る刑務所生活の過酷さ


「涙を流して悲劇のヒロイン気取りか。罪人の分際でいいご身分だな」

護送車に揺られ悲しみに暮れる私に放たれた刑務官の言葉です。泣くことすら咎められることに衝撃を受け、とても印象的な言葉でした。

悲劇のヒロイン。可哀想な自分に酔いしれているように見えたのでしょうか。そんな訳ありません。犯罪者は泣いてはいけないのでしょうか。そんなこともありません。

この言葉は一見もっともらしい言葉でありながら実際には合理的ではない、女囚となる私を貶める侮辱的な言葉です。このときは理不尽な物言いに憤りも感じたのですが、一方でこの雨浦監獄における囚人の扱いを端的に表しています。

雨浦監獄の過酷な生活。その片鱗がすでにこの時から現れていたのだと今になって思います。

読者向けには更にこの雨浦監獄がどのような刑務所なのか説明が入りプロローグは幕を閉じます。

ここから私の女囚生活が始まるのです。それではまた次回、よろしくお願いします。


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