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小説解説 #04|運命の日

犯した罪から逃れることはできない

何の日か説明するまでもありませんね。私の罪が明るみになった日です。

こんにちは、735番こと長嶺茜です。今日も雨浦監獄から私のnoteをお届けします。

今回は逮捕編第2話、運命の日の解説です。

逮捕編序盤の山場

この第2話は一言で言うと逮捕回になります。ここから順風満帆だった私の生活が一変し、積み上げてきたキャリアや信頼が崩れ始めます。

後輩を厳しく指導するお局様OLである私が手錠姿へと落ちぶれる対比。

自分が罪を犯したことは分かっているにも関わらず、逮捕の事実を受け止めきれずに葛藤する様。

今後の自分の行く末を不安視し、どうにか許される方法はないかと考えあぐねる姿。

これらがこの話でのポイントになります。

ここで描かれている『私は逮捕されるような女性ではない』という思い上がりが後々下される厳しい判決や過酷な刑務所生活にも繋がることに……

では自分への戒めの意味も含めて、当時のことを振り返ってみたいと思います。

満ち足りていたOL生活

この頃は横領を止めてから時期も経過していました。罪が明るみになるかもしれない不安でソワソワしていた私もすっかり平気になっており、忙しながらも充実したOL生活に勤しんでいました。

主任に昇進した以降も私の会社からの評価は高く、私は職場での地位を更に固めていました。相変わらず部下や後輩からは疎まれ、趣味らしい趣味もなく仕事に邁進する日々でしたが、主任という立場を得たことで逆にそのような生活を肯定できるようになりました。

社会的信頼が増し、経済的な自立性も高まり、仕事を通じて満足感も得られている私の心にかつてのようにホスト遊びに逃げようとする気持ちが湧くことは全くありませんでした。

このままおひとり様でキャリアを重ねていくのも悪くない、いやむしろそうやって気高く生きていくのがいい。

充足感があり、向上心もある。まさに私が一番輝いていた時です。

過去の過ちを見て見ぬふりをし、充実したOL生活を過ごす私。しかし、捜査の手は着実に進行していたのです

日常から非日常へ

そして私にとって忘れられない日が来ました。

いつもと変わらない清々しい朝。いつも通りに出勤し、いつも通りに事務服に着替えて気を引き締め、いつも通りにコーヒーを片手に仕事を始めていた私。いつも通り、だけど素敵で平穏な平日。

そんな日に不穏な影が差したのは真面目に仕事に向き合わない後輩たちに小言を言った後のことでした。上司に急に呼ばれ言われるがままついて行った先にそれが待っていました。

焦った様子の上司、普段入ることのない応接会議室、そして会社の幹部と見慣れぬ人たち……警察でした。

言うまでもなく、私を逮捕するために来社したのです。もちろん全身冷や汗をかきました。しかし、それでも私は現実を受け入れきれませんでした。

私はこれまで真面目に生活し、会社にも貢献して主任というポストも得たのです。犯した過ちは一時の気の迷い。これからもキャリアを積んでさらに成長して輝かしい未来を送るはず。

そんな私が逮捕されるなんて何かの間違い……

しかし、無情にも私の両手には手錠が掛けられました。短い鎖でつながれた無機質な銀色の手錠はカチャリという金属音と共に私の両手首を繋ぎ留め私は捕らえられたのです。

手錠を掛けられる感触は今でも慣れません。身体的な制限を受けることが辛いのはもちろんですが、わざわざ両手を拘束しなくても周りを警察に囲まれた状態で女性である私が抵抗して逃亡できるはずかありません。

それより、お前は手錠を掛けられるような人間なんだという、無言の圧力を課せられているようでその精神的な苦痛がより辛いのです。

これから先どこに行くにも必ず私の両手には手錠がかけられ、その度に惨めな思いをすることになります。この罪人の証を晒しながら……

もちろんこの時点では裁きは受けておらず、私は法的には罪人ではありません。ですが両手首で鈍く光る手錠を見た人は十中八九私を罪人としてみるに違いありません。それほど手錠の印象は強いのです。

人生で初めて手錠をかけられた瞬間。この事実ををすぐに受け止めることは出来ませんでした。

地位ある立場からの転落

警察は冷淡で、会社幹部は非情。唯一直属の上司は私を気にかけていましたが、守ってくれる様子はありませんでした。

そして、私のこの姿を一番見せたくなかった相手が後輩たち。ですが、そのようなささやかな希望も叶わず、私は後輩たちはおろか職場中にこの姿を晒すことになります。

彼女たちからは心配の声は一切なく、代わりに罵倒の声を浴びせかけられました。

普段から彼女たちを指導し、時には厳しいことを言うこともありましたがそれらは彼女たちの成長を考えてのこと。嫌われ役であることは承知していましたが恨みを買うようなことをした覚えはありません。

ただ、つい先ほどまで偉そうなことを言っていた私が、手錠を掛けられ警察に連行されてきたのです。いい気味だと思ったのかもしれませんし、私としてもとてもバツが悪かったです。

罵る彼女たちに手錠をカチャカチャ鳴らし、言い訳じみた事しか返せずに警察に引き立てられて行く姿は自分の事ながらもとても情けなかったと思います。

会社中に醜態を晒しながら私は会社を後にしました。若くして主任に抜擢され、優秀なOLとして会社に勤めていた日はこの日が最後となりました。

後輩たちに罵られながら職場を後に。これまで積み上げてきた信頼と実績が崩れていく

長嶺茜容疑者

会社の外に出るとさらに苦難が待ち受けていました。エントランスを取り囲むように集まったマスコミと私に向けられたカメラレンズ。

異様な雰囲気にどこからともなく集まってきた野次馬。オフィス街ということもあって私と同じようなOLの姿もちらほら目に映りましたが私とは似て非なる存在です。

このような場面、かつてニュースなどで目にしたことがありました。マスコミが殺到し、シャッター音とフラッシュが焚かれ連行される容疑者。これまで他人事としてみていた風景でしたが、今回は私がその当事者でした。

悪いことをしたのだからマスコミに晒されるのは自業自得。そう思っていましたがこの時は止めてほしいと心底思ってしまいました。

……そう考えてしまうのは身勝手なのかもしれません。実際に私は罪を犯しその報いを受けなければならないのにその事実を隠蔽して逃げおおせようとしていたのですから……

このような私は逮捕され、醜態を晒され、刑務所に収監されて当然なのかもしれません。

辛くなるのでこの時の報道はあまりちゃんと見ていません。ですがテレビや新聞は私のことを長嶺茜容疑者として写真や映像と共に報じました。そしてそれらの内容は今も調べれば誰もがすぐに目にすることができるのです。
これも私に与えられた罰なのでしょうか……

手錠を隠すことも許されず、白昼のオフィス街に引き出された私は野次馬とマスコミの餌食。この時の映像は半永久的に残されるのです。

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