好きだけど聴くたびもやもやする歌詞①

「君が太るべきたった一つの理由」
/3markets[]

　これは、3markets[]のアルバム「ニヒヒリズム」(2021.1.6)、5曲目に収録された楽曲である。私は当該楽曲を概ね好意的に評価したが、以下に示す歌詞に限定しては懐疑的である。

　君のこと誰も選ばないように
　　君よ太れ　もっと太ってくれ

誰からも選ばれない「太った人」

　まず疑念を抱く点としては、「君のこと誰も選ばないように君よ太れ　もっと太ってくれ」(以下、当該歌詞)は、太っている人間は異性として魅力的でなく、肥満の程度が甚しければ甚だしいほどその人を恋人の対象とする者は少なくなる、といった作詞者の認識が前提となっていることだ。この点に肥満＝醜いとするルッキズム意識を感じてしまう。
　ただ、この楽曲において語り手である「僕」は、本来醜いとする肥満を「君」に対しては肯定し、愛する覚悟を示している。
　「君が太るべきたった一つの理由」の歌詞を一読すると、「僕」は「君」に恋心を抱いていることが確認できる。また、「君」の爪、まつ毛を収集する描写や「君のこと誰も選ばないように時間よ止まれ」との歌詞からは「僕」の「君」に対する独占欲を見出せる。これらを踏まえると、「君よ太れ」という表現は、「君」への愛情からくる独占欲を現したものであり、「僕」はたとえ彼女がどれだけ太ったとしても引き続き愛し、独占する覚悟があると解釈できよう。とすると、当該歌詞は肥満の否定ではなく、肯定の歌だという読みも可能であり、当然そういった反論も想定できる。しかし、やはり「君のこと誰も選ばないように君よ太れ」は、太った人の美的魅力を否定する意識が働いていると言えるのだ。

肯定する「僕」、否定する「社会」

　問題となるのは、「誰も」である。この部分が例えば「あの子が」だったとしたならば、肥満＝醜いとするルッキズムを含んだ歌詞とは映らなかっただろう。なぜなら、喩え太ったことで「あの子」が「君」を選ばなくなったとしても、それは特定の一個人による好みの範疇を超えず、社会全体の肥満に対する美的魅力の否定には繋がらないからだ。
　しかし、「誰も」は違う。上記は太ることが異性としての魅力の否定に直結する表現となり得る。無論、日本では肥満の程度が甚だしくなればなるほど、異性の趣向の範囲を外れる可能性が高くなること自体は事実である。
　2014年にポンパレモールが行ったアンケートによると、「ガリガリに痩せている女性」「どちらかというと痩せ型の女性」「どちらかというとぽっちゃり体型の女性」「ぽっちゃり体型の女性」の4項目のうち、恋人とするならどれが良いかという質問において、最も支持率が低かったのが「ぽっちゃり体型の女性」である。しかし、それでも8.3%の男性はぽっちゃり体型の女性を選んでおり、「誰も」選ばないとは断定し難い。それにも関わらず「君のこと誰も選ばないように」といった、いささか強すぎる断定表現がなされるのは、作詞者による”肥満は醜く、それ故に誰からも選ばれない”という一元的で偏った認識が現れていると言えるのではないか。
　この認識及び表現は、歌詞中で社会と「僕」の対比構造を生み、「僕」の「君」への愛情の度合いを際立たせる効果がある一方で、ルッキズム思想へとつながる、安易に肯定すべきでない表現である。

情けない「僕」

　最後に、当該歌詞についてもう一点注目したい点がある。それは「僕」は「君」との関係を他者に委ねる存在として描かれている点だ。
　先述の通り、「僕」は「君」に対して恋心を抱き、独占したいと考えている。しかし、彼女を独占するため彼が考える手段は、自らが努力をすることではなく、「君」が太ることで他者の介入を防ぐことなのだ。「君」が太ることで、彼女や他者に変化はあっても、自らは一切の影響を受けない。ここに「僕」の情けなさが表れている。
　実際、歌詞中の他の場面においても「僕」は情けない存在として描かれる。彼の心情は「言いたい言いたい言いたい、ああ好き」と叙述されるが、「言いたい」だけであり、直接好意を彼女に伝えられてはいない。また、「君」の爪やまつ毛を集めたり、眠り続ける彼女を見つめる描写は、明らかに「君」との対峙を避けて、抑えられない恋心を消化する表現だと読める。
　つまり、「君のこと誰も選ばないように君よ太れ、もっと太ってくれ」との歌詞は、自身の願望の行末を他者に委ねる「僕」を描くことで、彼の情けなさ、自信のなさを強調する効果を果たしていると言えるのではないか。
　本稿を通して、当該歌詞にやや批判的な考察を行ってきたが、キャッチーなメロディーに「情けない」「弱い」立場からの苦しみを赤裸々に乗せたことが評価され、人気を博している側面がある3markets[]の楽曲において、「情けなさ」の強調という効果が果たす役割の大きさに関しては、やはり一定の評価をすべきだろう。

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