拝啓 響いて生きろ。
大学一年生の冬、漠然と想像していた未来が唐突に閉じた。
僕が生きる意味であり、希望であり、道標であったものを無くしてしまった。
散々思考を巡らせ、後悔を張り巡らせ、泣き喚き、少し冷静になったころスマートフォンを開き、一人の友人に一通のLINE。
「大至急、話を聞いてくれ」
久しく会っていない高校のときの友人。返信はすぐに返ってきた。
「明日、くら寿司でいい?」
話を聞くなら相場カフェだろと思った。
「『体は元気なんですけど、熱が37度5分あって〜、どうすればいいですかね』って言ったら休めたけど、今週いっぱい休むことになっちゃったよ」
次の日、待ち合わせ場所で待っていると遅れてきた彼が笑いながら言った。
「大至急」と言ったのはこっちだがバイトを休んでまで来てくれなくてもよかったのにな、と思ったが口にはしなかった。
席に着き、「最近どうよ?」から始まる中身からっぽな会話。
昔話と現状への不満話を行ったり来たり、来たり行ったり。
結局、その日はくだらない話に花を咲かせてしまい本題に入ることはなかった。
これまで真面目な相談などしてこなかった二人が、久しぶりに会って真面目な話などするわけがない。
ただ寿司を食って、くだらない話をして、次遊ぶ約束をしただけだった。
コロナ禍、人と気軽に会えない状況のなか彼とはよく遊んだ。
カラオケのフリータイム開始時間と同時に入り、終了時間までダラダラと過ごしくら寿司へ行き、ただ寿司を食いただ雑談をする。
それが誕生日の日と被れば、ケーキを食べなきゃならないという使命感からケーキを12コ頼み回転寿司屋にホールケーキを生み出した。
旅行へ行こうにも普通じゃつまらないので、全て鈍行を乗り継ぎ目的地へと向かう。
途中下車する楽しみは確かに素晴らしいが、約七時間かけて名古屋へ行ったときはたどり着いたとき少し泣きそうですらあった。
彼の誕生日に欲しいものを聞いたら「免許を取ってほしい」と言われたので、冗談を冗談と受け取らない私は合宿免許へと飛んだ。
当日、取りたてホヤホヤの免許証を彼に見せると「怖い」の一言。
その仕返しに私の誕生日のときは競馬のレース名にされた。
競馬新聞や馬券に自分の名前が載り、場内アナウンスで自分の名前が呼ばれる状況は異様で面白かった。
成人式の日、お互い違う同窓会に出ていたが二次会の誘いを断り、いつものくら寿司へと集まった。
そこで同窓会の愚痴を言いながら、初めて一緒にお酒を飲んだ。
「なんでこんな日まで集まってんだよ」と心から思ったし、10回は口に出し笑った。
いくつものくだらない日々をくだらないで終わらぬよう二人で抗ってきた。
そんな彼の夢が今年叶うらしい。
高校生の頃から教師を目指していた彼は、何度もくじけそうになりながらもその夢を諦めず成し遂げた。
酒に酔うたびこの国の教育について語る彼は未来に満ちきらきらとしていた。
酔うたび熱く語られるので「またこいつきらきらしてるよ」と、若干のうんざり感も含みながらいつも楽しく相づち打っている。
夢に向かってぶれることなく真っ直ぐと進んだ彼を私は誇りに思う。
おめでとう親友。
ただ一つだけ約束してほしい。
どうか今後もつまらない人間にはなるな。
社会に染まり常識だけを説き、ユーモアを忘れてしまった君など俺は1ミリも見たくない。
俺の遅刻に対して「それ社会人としてアウトだよ」とか言われたときにはきっと殴りかかってしまう。
飲み会で空いたグラスを見つけるや否や「次なに飲みますか」とかやられたら、卓をひっくり返し発狂してしまう。
そんな人にはならないで。
くだらない日常に口をつぐむのではなく、それに抗いただ自分の楽しいと思えることをしてほしい。
静かな湖面に葉が落ちると波が広がるように、君の楽しいで周りの人間を共鳴させてしまえ。
気楽に背負いすぎず楽しくやれば良いと思う。
仮に辞めたってもっと向いてることあるかもしれないし。
これは長年の夢を叶えた人にかける言葉じゃないか。
まぁ何かあれば連絡してよ、その時はくら寿司で。