BFC6における深澤うろこのつかみの効能

 深澤うろこにつかまれている。
 一次通過の知らせを見たとき『あそこで鳩が燃えています』に目を惹きつけられた。そして怯えた。凄いタイトルだなと思った。良いタイトルだと思い、「良いタイトルですね」とメッセージを送ろうと思ったが、良い?良いとはまた違う、と思い直しメッセージを送るのはやめた。良いが怖ろしいと思ったからだ。
 タイトルのつかみで小説の内容も期待値が上がっていた。内容も期待外れのものではなかった。あそこで鳩が燃えています、というそのままのことを書いているのだが、それはもちろん比喩であり、しかも分かりやすい比喩である。分かりやすいということは喩えが上手いといえるのではないか。誰にでも分かって貰えるというのは重要なことである。内容でもつかんできた。
 意図的に分かりやすい喩えを使っているのかということだが、分かりやすい上に、目を惹きつける言語センスがあるので、好きという感情が生まれるのではないか。深澤うろこの言語センスのファンになった人もいるのではないか。
 しかしこのセンスがあざといのではないかと訝しむ者ももちろんいると思う。青さを感じなくもない。だが私は深澤うろこの言語センスが青さを情熱の赤で塗り潰し紫へと上回っているのではないかと思う。紫は青と赤が混ざった色で高貴な色ともいわれている。ただの青春情熱野郎ではないのだ。深澤うろこはクレバーである。
 一回戦を勝ち抜けるとは思っていなかった。私はどこか素直に評価することができなかった。嫉妬のようなものがあったのかもしれない。タイトルが抜群で内容もいい。ただこの分かりやすさが単純過ぎやしないかと。真っ直ぐ過ぎないかと。しかし単なる真っ直ぐではなかった。世界レベルの豪速球であったからだ。真っ直ぐではあるが余りにもの豪速球であるため分かっていても打てないのである。そして真っ直ぐしかないと舐めていたためこのスピードでくると手も足も出ず見逃すしかないのである。
 分かっているのに打てない。単純な強さがある。この強さを恥ずかしいと思ってしまったところがある。余りにもムキムキの人を見るとなんか恥ずかしいと思ってしまうのに似ているかもしれない。ふつうなのに強い方が格好良いみたいな。けれど深澤うろこは分かりやすく強い。
 ジャッジは深澤うろこの強さ通りに評価し一回戦を勝ち抜いたと思う。『あそこで鳩が燃えています』は単純に強いのである。深澤うろこには正義のような、世を良くしたい、悪をなくしたいというような世に対しての強い問題意識があると思う。不正を許さないような真っ直ぐさがあると思う。そして熱い。だがまた冷静な頭もある。深澤うろこのたましいは燃えている。
 決勝に進み『プールの記憶』という作品を提出した。タイトルのつかみはなかったものの、内容のつかみが抜群であった。キャッチー性というものがあった。読んですぐつかまれた人は多いのではなかろうか。そして余りにもつかんでくるので振りほどきたくなる者もいたのではないか。ちょっとうざいよって。でも深澤うろこはつかまなければならなかった。戦争に対して大きな問題意識を持っていて、どうにか戦争を止めたいと、なにができると。深澤うろこはいい続けるしかない。戦争の話をするしかない。まともに目を見て戦争の話をしてくる。目を逸らすなと。
 分かりやすく分かりやすく分かりやすく自分のことばで。深澤うろこという人間のことばで。分かりやすく。喩えて。深澤うろこはシンプルに戦争を止めようとしている。おかしいのではないかと。なぜ戦争をするのだ。人が死ぬ。おかしい。深澤うろこは戦争のおかしさを分かりやすい喩えで。余りにも不条理なことが起こっている、変だよね、声上げなきゃ、なにも変わらないよ。深澤うろこは真っ直ぐを投げ込む。世界レベルの豪速球で。恥ずかしげもなく。当たり前のように。
 深澤うろこは拙いと批判されるかもしれない。しかしそれは羨ましさからきているのかもしれない。深澤うろこの純粋性に。純粋性に嫉妬しているのかもしれない。深澤うろこに会ったことはないけど、綺麗な怒りを冷静に話しそうだと思った。
『プールの記憶』は少なからずインパクトを与えたと思う。とてもよく効いている方が多いと思う。反発するは人もいると思う。でもその反発はなんでこんなに効くねん、即効性あり過ぎやって、効き過ぎて怖い、というような効くことへの反発なのかもしれない。
 即効性があり副作用も大きい。速く効くだけで、ただ速く効くだけやないかいって思われるかもしれないけど、速く効くことって大事だ。すぐに効果が出て欲しいときもある。速さが大切なときもある。今、効きたい、副作用が出ようとも。
 ただ即効性があり、効くー、と思っていたけれど、あれ、まだ効いているぞ、いやいやいや、遅れても効いてきたぞ、これは凄い。
 普遍的な万能薬であった。
 深澤うろこは次世代を見据えている。正直、自分の世代ではもう戦争は止められないのではないかと諦めかけているのかもしれない。全力は尽くすけれど。諦めないけれど。しかしバトンを繋ごうとしている。次の世代に託している。子供たちに。子供たちに伝えたい。子供たちに伝えるということは分かりやすさが必要である。戦争のおかしさを分かりやすく伝える。つかむしかない。子供たちのこころをつかむのだ。深澤うろこの言語センス、比喩、ことばは拙いながらも骨太のメッセージで、ブンゲイを読まない人にも、子供にも、誰にでも伝わってくる。物凄い握力のつかみで。
 深澤うろこは愛されている。
 深澤うろこは何世代かかってでも世界平和を達成しようとしている。

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