本のさんぽみち

 秋に近づくと本のさんぽみちのことを思う。少し冷やっとした心地よい空気が肌にぴりっと刺さる。秋の匂いが鼻腔を突く。本の匂いと共に。少し古ぼけた懐かしい商店街では個性豊かな本屋さんが小さな店を開く。
 商店街は昔からあるお店、新しいお店が混在しレトロモダンな風景を形成している。
 名古屋駅側から円頓寺商店街へ向かうとひっそりとした雰囲気から入ってゆき、落ち着いた気持ちでどんどん進んでゆくと、金ぴかの像がある横断歩道に開け、そこを渡ると一気に人も増え賑やかになる。本好きな人々で溢れ店先で本を手に取り開いている。本屋さんは「この本面白いですよ」とおすすめしてくれたりする。
「何々賞受賞している本ですよね」
「SFと純文学が混ざっている独特な世界です」
「この作家さん絶対キますよ」
 などど会話が弾む。
「じゃあこの本ください」とつい沢山買ってしまう。こうやって本が増えてゆく。たのしみが増えてゆく。思い出が増えてゆく。
 本だけじゃなく食べ物屋さんもあり、店の外のテーブルで昼間っからビールを呑んでいる人もいる。陽気だなあ。子供の笑い声も響く。平和だなあ。
 小さな象をさんぽさせてるおじさんがいる。誰も見向きもしない。当たり前のように小さな象をさんぽさせている。よおく見ると操り人形のように糸で吊り下げられているぬいぐるみの象を器用にさんぽさせていた。みんなこんな不思議な光景より本を見たいんだなあ。
 本の頁をめくるように商店街を歩く。ストーリーはあるようでない日常物の本。何でもないただ本を見ながら商店街を歩く。
 とうとう商店街を歩ききって振り返り出口を見ると屋根に大きく『円頓寺商店街』の文字。さてはこちらが入口だったか。

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