【本25】知識創造企業
知識には、「暗黙知」と「形式知」がある。
表面化している「形式知」は氷山の一角でしかない。
分かっていることではあったけれど、個人の持つ「暗黙知」をいかに共有するかが大切だと、改めて思います。
それがとても難しいことではあるけれど。
どうやって実施していくか。
そのヒントがたくさん詰まっています。
☆本の内容☆
○「形式知」 と 「暗黙知」
形式知 ➡︎ 文法にのっとった文章、数学的表現、技術仕様、マニュアル等に見られる形式言語によって表すことができる知識。
形式化が可能で容易に伝達できる。
暗黙知 ➡︎ 人間一人ひとりの体験に根ざす個人的な知識(パーソナルナレッジ)であり、信念、ものの見方、価値システムといった無形の要素を含んでいる。
言葉や数字で表現される知識は氷山の一角にすぎない。
暗黙知を組織内部で伝達・共有するには、だれでもわかるように言葉や数字に変換しなければならない。
このように暗黙知が形式知へ、そしてあとで見るように、また逆に暗黙知へ変換されるときにこそ、組織の「知」が創られるのである。
暗黙知から形式知へ、そしてまた暗黙知へ。
このループで人や組織が成長していくことになるんですね。
暗黙知を知り、その重要性を認識することには、多くの意義がある。
まず第一に、まったく違った組織観をもたらす。
組織が情報処理機械ではなく、ひとつの有機的生命体として見えてくるのである。
そのような組織観からすれば、会社は何のためにあるのか、どこを目指しているのか、どんな世界に住みたいのか、どうすればその世界は実現できるのか、といったことを社員全員が理解していることのほうが、客観的な情報を処理することよりはるかに重要なのである。
「もっとも重要な知識は教えることも伝えることもできない」
2番目の意義は、1番目の意義から自然に派生してくる。
暗黙知の重要性を理解した人は、すぐにイノベーションというものをまったく新しい角度から考え始めるはずである。
イノベーションは、単にばらばらのデータや情報をつなぎ合わせるだけではない。
それは、人間一人一人に深く関わる個人と組織の自己変革なのである。
社員の、会社とその目的への一体化とコミットメントが必要不可欠である。
組織を1つの有機生命体としてみる。
イノベーションは単なるバラバラのデータのつなぎ合わせではない。
全く新しいところから湧き上がってくるということでしょうか。
○暗黙知を形式知に変える
ある個人のきわめて主観的な洞察や勘は、形式知に変換して社内の人たちと共有しないかぎり、会社にとっては価値がないに等しい。
社員一人ひとりは自分の狭い見方にとらわれていて、全体像が見えない。
したがって、何が意味があるかは状況によって違うし、異なる立場にいる人々に伝えようとしても意味が失われることがある。
新しい知識の組織全体への普及には、絶えず混乱がつきまとうのである。
マネージャーの主な仕事は、この混乱を目的のある知識創造に転換することである。
全体像が見える立場の人は、それを積極的に活かしていかないといけないということですね。
理想としては、社員全員が全体像を見れるようにすることだと、個人的には思います。
○知識創造の二つの次元
厳密にいえば、知識を創造するのは個人だけである。組織は個人を抜きにして知識を創り出すことはできない。
組織の役割は、創造性豊かな個人を助け、知識創造のためのより良い条件を作り出すことである。
したがって、組織的知識創造は、個人によって創り出される知識を組織的に増幅し、組織の知識ネットワークに結晶化するプロセスと理解すべきである。
このような現象は、相互に作用し合う人々の集団の中で起こる。そういう相互作用集団は、組織内のヨコの境界やタテの階層、さらには組織間の境界を超えて広がっていくのである。
組織内の相互作用ができれば、組織間の境界を超えることもできるんですね!
まずは組織内の相互作用から!
*知識変換の4つのモード
知識が、異なる知とくに暗黙知と形式知の社会的相互作用をつうじて創造されるという前提に基づけば、4つの知識変換モードが考えられる。
1、個人の暗黙知からグループの暗黙知を創造する「共同化」
2、暗黙知から形式知を創造する「表出化」
3、個別の形式知から体系的な形式知を創造する「連結化」
4、形式知から暗黙知を創造する「内面化」である。
*共同化(暗黙知から暗黙知へ)
共同化とは経験を共有することによって、メンタル・モデルや技能などの暗黙知を創造するプロセスである。
暗黙知を獲得する鍵は共体験である。
経験をなんらかの形で共有しないかぎり、他人の思考プロセスに入り込むことは非常に難しい。
*表出化(暗黙知から形式知へ)
表出化とは、暗黙知を明確なコンセプトに表すプロセスである。
我々はあるイメージを概念化しようとするとき、たいていは言語を用いる。書くということは暗黙知を形式知に変換する行為なのである。
しかし、言語表現は、しばしば不適当、不十分であり、一貫していないことが多い。
そのようなイメージと表現の不一致やギャップはしかしながら、我々人間の思考や相互作用を促すのである。
表出化は、典型的にはコンセプト創造に見られ、対話すなわち共同思考によって引き起こされる。
4つの知識変換のモードの中でも、暗黙知から新しい明確なコンセプトを創り出す表出化が、知識創造の鍵を握っている。
どうすれば暗黙知を形式知に効果的、効率的に変換できるのだろうか?
その答えは、メタファー、アナロジー、モデルの順次使用である。
メタファー ➡︎ あるものをシンボルとして思い描くことによって、別のものを知覚したり直感的に理解したりする方法。
アナロジー ➡︎ 2つの異なったものの間の「共通点」にとくに注目することで、未知の部分を減らすのである。
モデル ➡︎ 複数の明確なコンセプトができると、それらを使ってモデルを構築することができる。
暗黙知から形式知へ変換する表出化が鍵となる動きですね。
これを組織内でうまく運用できるかが重要です。
*連結化(形式知から形式知へ)
連結化とは、コンセプトを組み合わせて一つの知識体系を創り出すプロセスである。
この知識変換モードは、異なった形式知を組み合わせて新たな形式知を創り出す。
*内面化(形式知から暗黙知へ)
内面化とは、形式知を暗黙知へ体化するプロセスである。
それは、行動による学習と密接に関連している。
個々人の体験が共同化、表出化、連結化をつうじて、メンタル・モデルや技術的ノウハウという形で暗黙知ベースへ内面化されるとき、それらは非常に貴重な財産となる。
文書やマニュアルは形式知の移転を助け、ある人の経験を他の人に追体験させることができる。
内面化にとってきわめて重要なことは、体験の範囲を拡大することである。
知識創造を組織的に行うためには、個人に蓄積された暗黙知を共同化をつうじて他の組織メンバーとの間で共有し、新しい知識スパイラルのきっかけとしてなければならない。
ぐるぐる螺旋状に回って、上へ上へとのぼっていくイメージ。
*知識の内容と知識スパイラル
まず共同化は、相互作用の「場(フィールド)」を作ることから始まる。
この場は、メンバーが経験やメンタル・モデルを共有するのを促進する。
次に、表出化は有意義な「対話すなわち共同思考」によって引き起こされる。
その対話において、適当なメタファーやアナロジーがそれ以外のやり方では伝えにくい暗黙知を明らかにするために使われる。
そして、連結化は、新しい知識と組織の他の部署にすでに存在する知識を結合することによって引き起こされ、新しい製品、サービス、経営システムなどに結実する。
最後に、それらを使ってみる「行動による学習」が内面化の引き金となる。
4つの知識変換モードをつうじて「組織的に」増幅され、より高い存在レベル「グループや組織」で形にされるのである。
➡︎ 「知識スパイラル」
全ては個人の暗黙知から始まる。
この暗黙知は、どうやって共有したら良いか分からず、ずっと埋もれてさせている組織が多いと思う。
社員が入れ替わるたびに、貴重な暗黙知がその人とともに辞めていくのはもったいないと思います。
○組織的知識創造を促進する要件
企業が知識を創り出すためには、意図を明確にしてそれを組織メンバーに提示し、彼らの献身的態度(コミットメント)を育成しなければならない。
一人ひとりの思考や行動だけに依存するかわりに、組織は集団的なコミットメントをつうじて、個人の思考や行動を組織として方向づけながら促進することができるのである。
組織のメンバーには、事情が許すかぎり、個人のレベルで自由な行動を認めるようにすべきである。(自律性)
そうすることによって、組織は思いがけない機会を取り込むチャンスを増やすことができる。
企業の中で個人が自律的に行動できるような状況を創り出すための強力な手段のひとつは、自己組織化(セルフオーガナイジング)チームである。
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*最小有効多様性
最小有効多様性は、組織の全員が情報を柔軟にさまざまな形ですばやく組み合わせたり、平等に情報を利用できるようにすることによって強化できる。
組織に情報格差が存在するときは、平等な立場で相互に作用し合うことができず、新しい情報をさまざまに解釈することを妨げる。
個人個人が自分たちの暗黙知をどういう方向に形式知化すれば良いかを判断するためには、組織の意図がハッキリしていて、共有されていないと難しいとおもいます。
それが出来ていればあとは個人が自律的に行動できるような状況を創ること。
*組織的知識創造のファイブ・フェイズ・モデル
組織的知識創造プロセスの理念型。
次の5つのフェイズから成っている。
1、暗黙知の共有
2、コンセプトの創造
3、コンセプトの正当化
4、原型(アーキタイプ)の構築
5、知識の転移
【第1フェイズ】暗黙知の共有
共有が起こるためには、個人が直接対話をつうじて相互に作用し合う「場」が必要である。
そのような相互作用が起こる典型的な場としては、共通目標を実現するためにさまざまな職能部門からのメンバーが一緒に働く自己組織化チームがある。
【第2フェイズ】コンセプトの創造
暗黙知と形式知の最も濃密な相互作用は、第2フェイズで行われる。
相互作用の場でメンタルモデルが共有されると、自己組織化チームは、さらに集団的思索としての持続的対話をつうじてそれを明示化する。
共有された暗黙的なメンタルモデルは言葉に表現され、最後に明示的なコンセプトにまとめられる。
【第3フェイズ】コンセプトの正当化
正当化は、新しく創られたコンセプトが組織や社会にとって本当に価値があるかどうかを決定するプロセスである。
【第4フェイズ】原型の構築
正当化されたコンセプトは、この第4フェイズで目に見える具体的なもの、すなわち原型に変換される。
新製品開発の場合の原型は、プロトタイプである。
サービスや組織イノベーションの場合は、それらの試行モデルと考えて良いだろう。
いずれにせよ、原型は新しく創られた形式知と既存の形式知を組み合わせることによって構築される。
【第5フェイズ】知識の転移
組織的知識創造は、絶え間なくそのレベルを上げていく終わりのないプロセスである。
創造、正当化、原型構築(モデル化)のフェイズを経た新しいコンセプトは、別の存在レベルで知識創造の新たなサイクルを始める。
知識の転移と呼ぶ、このうず巻き状の相互作用プロセスは、組織内部と組織間の両方で起こる。
このフェイズがうまくいくためには、各組織単位がよそで開発された知識を組織階層や部門間の境界を超えて受け取り、それを自分のところで自由に応用する自律性を持っていることが非常に重要である。
この5つの順番に暗黙知を形式知に変えていくんですね。
暗黙知を形式知にすることは難しいと思いますが、一つ一つ丁寧にこなしていけば、その過程で社内のコミュニケーションも良くなり、組織風土も変わっていくのだと思います。
○知識創造のためのマネジメント・プロセス
*ミドル・アップダウン
ミドル・マネジャーを知識マネジメントの中心に据え、トップと第一線社員には新たな役割を与える。
ミドルは、トップと第一線マネジャーを結びつける戦略的「結節点」となり、トップが持っているビジョンとしての理想と、第一線社員が直面することの多い錯綜したビジネスの現実をつなぐ「かけ橋」になるのである。
地域創造企業が新しい知識を創るには、第一線社員、ミドル・マネジャー、トップ・マネジメントの参加が必要である。
一人一人が知識創造者(ナレッジ・クリエイター)なのである。
板挟みにならないように注意が必要です。
○新しい組織構造
ミドル・アップダウンが有効に機能するためには、それを支える組織構造が必要である。過去にうまくいったパラダイムを放棄することは、たとえ環境が変わったとしても容易なことではない。
しかし、過去の成功に過剰適応して、変わりつつある新しい環境の中でそれらの成功要因を「学習棄却」しなければならない。
*ハイパーテキスト型組織
相互に結びついたビジネス・システム、プロジェクト・チーム、知識ベースから成っている。
真ん中のレイヤーが「ビジネス・システム」レイヤーで、ここでは通常のルーティン業務が行われる。
ルーティンの仕事を効率よくやるには官僚制的構造が適しているから、このレイヤーは階層的なピラミッドの形をしている。
一番上は、「プロジェクト・チーム」レイヤーで、ここではいくつものプロジェクト・チームが、製品開発などの知識創造活動に従事している。
一番下にあるのが「知識ベース」レイヤーで、ここでは上の2つのレイヤーで創られた知識が再分類・再構成される。
一番上のレイヤーにいるプロジェクト・チームのメンバーは、ビジネス・システム・レイヤーのさまざまな職種や部署から選ばれ、知識創造活動に従事する。
彼らの努力は、トップ・マネジメントによって提案された企業ビジョンによって導かれているだろう。
チームが任務(タスク)を完了すると、そのメンバーは知識ベース・レイヤーに降りていき、プロジェクトに参加している間に創られた知識の在庫目録(インペントリー)を作る。
その目録に含まれる成功と失敗は、文書化されたうえで分析される。
新たに獲得した知識を分類あるいは別の文脈に置き換えたりしたのち、チーム・メンバーはビジネス・システム・レイヤーに復帰し、次のプロジェクトに招集されるまで通常業務に従事する。
違った知識文脈のあいだを柔軟にすばやく移動しながら知識のダイナミック・サイクルを作り出す能力こそが、結局は組織の知識創造能力を決めるのである。
これが暗黙知を形式知にしていける仕組みだと思います。
日常業務を行いながら、自動的にサイクルを回していける重要な工夫です。
*ハイパーテキスト型組織のメンバーは、たったひとつの部署に所属し報告する。
プロジェクト期間中はプロジェクトだけに属し、それ以外の「普通の」時期はビジネス・システム・レイヤーに配属されるのである。
したがって、プロジェクトのメンバーは、自分が進めているプロジェクトだけに注意を集中することができる。
*プロジェクトはトップ直轄なので、トップ、ミドル、ロワーの間のコミュニケーションは、形式的な階層組織より時空間的に圧縮され、その結果として階層間で深く突っ込んだ対話が徹底的に行われる。
○花王のビジネス・システム・レイヤー
情報共有を確実にするためのさまざまなメカニズムや支援システムを構築してきた。
たとえば「情報への自由なアクセス」、「大部屋制度」、「オープン会議」、「頻繁な人事異動」などである。
「情報への自由なアクセス」をつうじて、このビジネス・システムに豊かに存在する明示的な知識ベースにアクセスできるのである。
花王の事業部や職能グループは、「大部屋制度」のもとで、それぞれ一つの大きなオープン・スペースに配置されている。
このようなフロアー配置によって、暗黙知の共有をを助け、会話の途中で表出化モードを引き起こすこともできるのである。
花王ではいかなる会議も社員であればだれにでも開かれており、トップ・マネジメントの会議でも例外ではない。
社員はだれでも、会議の自分に関係する部分に参加して、意見を言うことができる。
この方式によって、トップ・マネジメントは審議中の問題にもっとも詳しい人から洞察(インサイト)を得ることができるし、一般社員は企業の全体方針をよりよく理解できるのである。
異なる経験を持つ社員のあいだの相互作用は、「頻繁な人事異動」によっても促進される。
「変化こそ基本。入社してから30歳までの間に、3つの職場を経験するくらいがちょうどいい」
実際に花王さんで構築されてきたもの。
これをそのまま自社に取り入れるのではなく、『何のために』からみんなで考えていくことが必要なんだと思います。
良いもの(取り組み)はたくさんあっても、そこに至るまでの経緯は各社様々です。
自分たちの組織に合った取り組みとして定着させるために、本気で考えることが大事ですね!
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