被害者を呼びつけ詰問 スマイルアップ補償の非情
補償に従事するジュリー氏
久しく近況を聞かなかったジュリー藤島氏。14日のスポニチが「旧ジャニ性加害問題 母と叔父の帝国変えられなかったジュリー氏の今」という記事で近況らしきものを伝えているんですね。いわく、現在は「被害者の書類に目を通すなど救済の仕事に集中している」(同関係者)といい、SMILE―UP.の一員として業務にあたっている、というのです。
まるで真摯に補償に対応しているかのような雰囲気ですが、被害者周辺を取材すると相変わらずのオラオラ補償の実態が浮かび上がってきます。
1000人近い被害申告
関係者によると被害申告は1000人弱であると弁護士は説明しているようです。1000人近いが被害申告をするという話は聞いたこともなく、ジャニー喜多川氏のやったことがいかに悪辣か、日本犯罪史に残る大規模性加害事件であることを改めて感じるわけです。
前に救済委員会の欠陥というお話のなかで、ジャニーズ所属外のタレントへの補償が抜け落ち放置されているという話をしたかと思います。救済委員会では所属外のタレントを扱わず、スマイルアップにたらい回しをしているということを説明し、どこが救済なんですか? と。
被害者を呼びつけ
いま数か月放置された所属外被害者とスマイルアップの交渉が始まりました。それが聞きしに勝るオラオラ対応なのです。
まず被害を訴えるなら、「こっち来い」という連絡が来るんですね。示談交渉なのに強気なわけです。また、俺が査定してやるという上からスタンスです。フランスのカソリック被害者の問題で説明をしましたが、トラウマを抱える性被害者に対しては丁寧に話を聞くことが大事であり、プライバシーへの配慮が必要となる。フランスのケースでは地元まで調査員が出向いて聞き取りを行ったわけです。スマイルアップは真逆の「来い」姿勢なわけです。
呼びつけられる先は「西村あさひ法律事務所」です。大手町の一等地に事務所を構える日本屈指の大手弁護士事務所です。
世間ではジュリー会見に同席した木目田弁護士の所属事務所といえばわかるでしょうか。つまりジュリー氏側、スマイルアップ側の弁護士の事務所ということになります。
危機管理No.1弁護士
話は逸れますがキメダ弁護士は危機管理の専門家らしいのですが、ジュリーの会見は近年稀に見るダメダメ会見でむしろ傷口を広げたというのが世間の印象でした。危機管理としては失敗と言われても仕方ない。
ところが、なんとビックリ、日経新聞がまとめた「企業が選ぶ今年活躍した弁護士」ランキングで、危機管理・不正対応分野の1位に木目田弁護士が選ばれていたのです!
ダメダランキングではなく、活躍ランキングにキメダ弁護士が選ばれていたのです。
いかに弁護士が危機管理に向いてないかは、元文春記者チャンネルでも何度も説明しましたが、ランキングを見る限りスキャンダル危機管理の世界はまだまだ未成熟市場であるということが言えそうです。
本当に被害者なんですか?
話を戻しますと西村あさひに、被害者を呼びつけ詰問が始まったというのが1つのニュースなんですね。
例えばNHKが報じたNHKトイレで被害に遭ったかたも所属外の被害者で西村あさにに呼ばれているわけです。
で、何を聞かれるか。普通であれば「ご被害に遭われたということで、お話するのも大変だと思いますが」的な言葉がかけられるはずです。しかし、「ジャニーズ事務所に所属外の被害者には払うつもりはない」「本当に被害者なんですか」と弁護士に詰問をされることになるというのです。
性被害者は傷を封印し長年精神的に不安定になるなど、多くの苦しみを経験してきたわけです。それを西村あさひは詰問し精神的に追い込むようなことを平気でするのです。
事務所外の被害者はウソつきと、はなから疑ってかかっているわけです。スマイルアップから委託を受けているわけですから、こうした対応はジュリー氏から依頼されたものでもあると考えるのが普通です。
ここでスポニチの記事を思い返して欲しいのですが。ジュリー氏は「被害者の書類に目を通すなど救済の仕事に集中している」と書いてました。西村あさひのヒアリングにはスマイルアップの人間はいない。西村あさひの対応を聞くと、ジュリー氏がやっていることは、被害申告をしている人対して、誠意ではなくダメ出し詰問をするために仕事をするように指示を出しているという疑惑すら出てくるのです。
トラウマに鞭打つ対応
芸能事務所を始める前からジャニー氏は性加害事件を起こしており、事務所外であっても加害を受ける可能性は十二分にあった。それなのに西村あさひは「所属以外はダメ」と改めて通告し、性加害の精神的苦しみなどを考えない対応を続けているのです。要は素人は弁護士相手には委縮するし、そういわれたら自分は被害者でも救われちゃいけない人間なんだ、ジャニーズ事務所に所属も出来なかったうえに性加害を受けて自分が駄目だからなんだ…、と深く傷つく人もいると思います。
真贋を判定するはいいとしても、被害者がいる可能性のあるなかで、それはないだろと人として思います。
更に言えば、スマイルアップの人間が同席しないということにも誠実さの欠如を感じます。
丸投げ補償
部外者である弁護士に真贋を判定させるにしても、ジャニーズの仕組みやジャニー喜多川氏の嗜好などは事務所の人間ではないとわからないはずです。それでも真贋を弁護士に判定させるというのもいい加減な話であるし、そもそも事務所側が被害者と向き合う姿勢がないと見える。もっと言えばジュリー氏は、被害者対策については救済委員と弁護士に全てを丸投げしただけではないか? と思うわけです。
ヒガシも必殺仕事人のドラマに出たり、ディナーショーやったり、果たして社長として何人の被害者に会ったのか疑問ですし。ジュリー氏は雲隠れしており、被害者救済活動をやってるのかやってないのかもすらわからない。補償は被害者救済委員会に丸投げ、事務所外の人間に対しては西村あさひに丸投げ、じゃスマイルアップ社は何をしているんですか?とも思えてくるわけです。
警察介入の必要性
真贋とかを言い出すならば、それを判定できるのは警察当局しかないと僕は思っています。西村あさひはあくまでスマイルアップの意向で動く弁護人であり客観性に欠けます。当局相手であれば、もし偽物がいてもウソを警察官の前でつくのは難しいでしょうし、詐欺などの前科があるかないかも警察なら調べることができる。スマイルアップは警察に調査に協力して欲しいと陳情をすべきだし、警察側も1000人規模の被害申告がある事件を放置しておくということは社会不安を増幅させることにもなると考えるべきだと思います。
最期に日テレの取材に応じた元ロンドン警視庁司令官のピーター・スピンドラー氏の言葉を紹介したいと思います。彼はサビル事件の調査を行い、「イギリスの警察当局が捜査をしたことは、社会正義の観点から意義があった」と語っています。
その調査体制も丁寧なものでした。ロンドン警視庁は、BBCの検証番組が始まって3日ほどで捜査を開始。児童保護団体と連携して、24時間体制のヘルプラインを設置したのです。これは児童保護団体が加わることで、被害者が警察の捜査を信用しなかったとしても、別の機関には情報を提供してくれるという懐の広い体制となったのです。
イギリスでも警察不信はあったわけです。実際にサビル氏による性的虐待を通報した人もいたが、相手にされませんでしたし、十分な捜査もされませんでした。
サビル氏の捜査では250人の犯罪が記録されたといいます。ジャニーズに照らし合わせると、1000の被害申告があって、仮に仮にですよ半数がウソだとしても500の事件ということになる。それでもサビル氏の倍なのです。いかに未曾有の事件かがわかると思います。
ロンドンの捜査でも「起訴」という刑事司法の結果はなかったわけです。スピンドラー氏はそれでもこう言うのです。
「被害者にふさわしい刑事司法を提供することはできなかったと認識しています。しかし、過去には不適切な捜査をして失敗したかもしれないが、今は被害者に社会正義の感覚を与えています。それこそが、本当に重要なことなのです」
被害者は、声に耳を傾けてもらい、信じてもらい、初めて真剣に受け止めてもらえたのです。彼らは「このような状況に陥ったのは自分のせいだ」と長年、自分を責めてきました。そして彼らは、愛する人にさえ黙って、何年も生きてきました。そして今、彼らは初めて「自分たちは1人ではない」と気づいたのです。ですから、このような捜査を行うことは、加害者が死んでいようが生きていようが、たくさんのメリットがあるのです」
この言葉を読むと、いかにスマイルアップが不誠実であるかがわかります。どう検証しても「金払えばいいんでしょ」「被害者なんかと向き合いたくない」という姿勢しか感じません。そして、警察にもお願いしたい。日本に社会正義が存在することを示すことができるのは警察だけですし、起訴だけではない断罪というものもあるということをイギリスの例に学んで欲しいなと思います。
(了)
元文春記者チャンネルでも解説をしています。