旧ジャニーズ問題 不透明補償のリスク
〇法を超えた対応はあるのか?
10月20日配信のフライデーデジタルがジャニーズ事務所の補償の中身を報道しています。報道によると「事務所は、性被害者全員に支払う補償金の原資として5億~10億円を拠出することを想定しているんです。被害状況で金額を3段階に分け、さらに被害当時に成人していたか否かで補償額が異なると聞いています。成人の定義は被害当時の成人年齢だそうです」と規定しているといいます。
主な内容は以下のようになると報道されています。
旧ジャニーズ事務者側は内容について明らかにしてませんが、フライデー報道の基準を検証すると決して法を超えた補償にはなってないということがいえるでしょう。記事でも「強制性交の場合600万円~1000万円の慰謝料が相場」だとされているからです。
しかもジャニー喜多川氏の場合は、被害者のそのほとんどが未成年。長年のトラウマや苦しみを考えるとこの金額が適正であるか、という議論は当然出てくるでしょう。
〇夢を喰い物にした”プレデター”
夢を抱えて事務所に入ったものの、性加害を加えられそのトラウマで覚せい剤に走ったり躁鬱病になったり、長く被害に苦しむケースをどう見るのかという問題があるからです。
旧ジャニーズ事務所は、ジャニー喜多川氏の少年愛と地位を利用した性加害行為のうえでビジネスを行ってました。そのビジネス利益は年間数千億といわれ、事務所創設から考えたら下手したら兆円規模の利益を上げてきたわけです。継続的で悪質な犯罪に対する贖罪が、わずか10億円ほどでいいのか? という疑問も当然浮上してきます。
週刊文春で田原俊彦のマネージャーだった人物はこう証言しています
「先輩である北公次さんと豊川誕は覚醒剤にハマってしまったし、クスリや大麻で逮捕されたジャニーズタレントはたくさんいる。僕の場合は酒と博打。やはりこれはジャニーの性加害の影響もあるでしょう。僕の場合、10代から六本木の主みたいに飲み歩いていました。未成年なのにNHKのプロデューサーたちと賭けマージャンをするジャニーの代打ちをしたこともある」
つまりジャニーズ事務所の犯罪ビジネスは少年達を大きく歪めていったわけです。
もう一つの問題は、甚野さんがフライデーで報じたように、所属タレント画外にもジャニー喜多川氏は性加害を行っているケースをどう判定するのか。NHKの報道に対してクレームを入れるなどジャニーズ事務所が異常な対応をしていることでも、問題を矮小化しようとしているのではないかという疑念すら浮上してくるのです。
クレームを入れるなら根拠を示すべきだし、何をもって虚偽と言っているのか明らかにするべきなのです。
〇補償体制に不足しているもの
僕はジャニーズ問題を、専門的に取材していた慰安婦問題の取材経験から考えることが多いのですが、慰安婦問題が拗れに拗れた原因の1つは徹底した調査がなされなかったことにあります。
公式な調査は河野談話発表時に数人にヒアリングをしただけで終わっています。その後、どうなったか? 真実がわかりにくくなっていく一方で、真贋がわからない被害者が続々と現れウソが流布するようになりました。さらに活動家が慰安婦問題に参入するようになり、問題は拗れに拗れていくことになるわけです。その大きな要因となったのが、慰安婦問題についての徹底調査を行わなかったという対応にありました。なぜ全容解明調査が行われなかったのかというと、日本政府や外交官僚が後ろ向きの対応を続けていたことが背景にありました。
ジャニー喜多川氏問題も、国の内外で裁判が起こされ今後拗れに拗れていくことになるでしょう。国連人権理事会の勧告がある6月を契機に国際的にもさら問題が拡散し、国辱的な状況になることは必至。日本は人権のない後進国だと言われてしまうわけです。
現状は旧ジャニーズ事務所は小さく問題を収束させようとしているように見え、ジャニーズとズブズブだったテレビ局も検証番組やればいいでしょ、くらいに考えているようにしか思えない。しかし事は、そうは簡単に収まらないはずです。
〇「政治」とBBC司会者性加害問題
似たように死後問題が公然化したBBCの司会者ジミーサビルの性加害問題ではどうだったのか? 死後でも当局による捜査が行われ、社会記録、アーカイブとして犯罪が残されることになった。ジャニー喜多川氏の問題も、社会アーカイブとして犯罪を記録し残すだけの物量調査を行い、最終的には調査報告書が公開される必要があると個人的には考えています。
ジュリー氏および、旧体制の名残がある現スマイルアップ社に、性加害問題を収める力はないと思います。彼女らが問題を矮小化させたいと考えれば考えるほど、国際的に糾弾されるという状況が続く。国際的に見て少年への性加害というのは、それだけ重大な問題であるからです。
Xで「@ima72335579」という方が英国での実例をポストしています。ポストによると、イギリスでサビル問題が起きたあとのイギリスの国会ではこのような議論が行われたというのです。
英紙『ガーディアン』でも同様の議論を見ることができます。デービッド・キャメロン首相はサヴィルによる児童虐待を徹底的に捜査すると主張しうえで、2009年に検察庁に送られた警察のファイルを検察局長が審査し、起訴できなかったしても何らかの対応をすると公言した。それだけ問題は大きく捉えられており、政府はこれを正すことが必要だと感じていたわけです。
〇浮かび上がる「変われない日本」
ジャニーズ問題で岸田首相が何を言ったか忘れましたが、キャメロン首相は「社会影響力を考えてできうる限りのことを全て行う」と国会で明言したインパクトは大きい。実際に当局は徹底捜査を行い膨大なレポートも発表された。そして容疑者の死後でも、原因究明と全容解明はなされなければいけないと、日本の記者も学ぶことができる一つの前例となったのです。
テレビも岸田首相も「許されない」と一般論を言うだけなら簡単なわけです。形だけ言及、ポーズだけの反省であれば、何の意味もないのです。首相にもメディアにも、問題の全容を掴み処理し、社会をどう前進させていくのかというの視点が決定的に欠けているのではないでしょうか?
11月に補償を開始することでジャニーズ問題が終わることはないと思います。社会的には全容解明調査が行われるべきです。事務所の問題が明らかになったいま、次に問われるのは政治の対応であり、メディアの役割であり、そして日本社会の在り方なのです。
それなのにテレビや政治は御託を並べて有耶無耶にしようとしているようにしか見えません。ジャニーズ問題を取りまく空気感というのは、変われない日本社会の象徴でもあると思います。
(了)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?