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日記0623あるいは深い夜に

唇がボロボロと剥がれ、血が滲む。明らかに死期の近い男はそれでも映像の編集を続けた。

「とにかく、多めに撮っておく。使える日が来なかったら捨てればいい」

それは額に入れて飾るには少々実用的すぎる言葉だったが、一応は格言と言えよう。男の撮ったビデオの大半は不愉快で、不適切で、ふしだらなものだった。

「この人は?」

私が一人の女性を指差すと、男は笑った。

「俺の愛した女性だ」

しかし、そのビデオは捨てられた。


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