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2 僕の名前はダリオ・アルジェント
僕の名前はダリオ・アルジェント。ローマのトリトーネ通り197番地で生まれた。この住所にはスタジオ・ルクサルドがある。僕の母親エルダが働いていた有名な写真スタジオだ。
この名門スタジオのオーナー兼創業者ともここで一緒に暮らしていた。つまり、アルフレードとマルゲリータ、僕の祖父と祖母だ。
1930年代から1940年代にかけて、演劇や映画のスターやスポーツ選手、知識人、芸術家、モデルたちはこぞってこのスタジオを訪れた。ポートレート撮影ではスタジオ・ルクサルドがトップだったからだ。
そういう意味で、僕は業界における陽の当たる場所で生まれたことになる。
子供の頃の記憶はだいぶ混乱している。だが、叔父のエリオ・ルクサルドの事はよく覚えている。笑顔がとても魅力的な人だった。僕の母親の弟に当たる。叔父もまた著名な写真家だった。
僕が幼かった時、叔父に抱かれていた明確な記憶がある。エリオは、僕を抱きながら、次の世代のアルジェント家の最初のひとりは僕だと言っていた。
これが本当にあったことなのか、それとも誰かに話を聞かされたことなのか、今となってはわからない。あるいは叔父のことは写真で見ただけなのかもしれない。
そうして僕は4歳になった。ある日の午後、僕の母親と父親は僕を劇場に連れて行こうと決めた。乳母は一緒ではなかったと思う。
なぜ僕を連れて行こうと思ったのかはわからないが、ローマの劇場で『ハムレット』を見たことを僕は覚えている。両親は、それが僕にどんなに深い衝撃を与えることになったのかを考えもしなかったのだろう。
(写真は現在のトリトーネ通り197番地)