矢澤利弘

アルジェント研究会代表、県立広島大学教授、博士(学術)。1965年東京生まれ。07年に発表した『ダリオ・アルジェント 恐怖の幾何学』は映画監督ダリオ・アルジェントに関する日本で初めての本格的研究書として注目を集める。映画や映画祭に関する寄稿、論文多数。

矢澤利弘

アルジェント研究会代表、県立広島大学教授、博士(学術)。1965年東京生まれ。07年に発表した『ダリオ・アルジェント 恐怖の幾何学』は映画監督ダリオ・アルジェントに関する日本で初めての本格的研究書として注目を集める。映画や映画祭に関する寄稿、論文多数。

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  • アルジェント研究会:ダリオ・アルジェント フォーラム

    イタリアのホラー映画の巨匠ダリオ・アルジェントの作品を中心とする解説動画です。

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Good Friends

ダリオ・アルジェントの映画の主人公は孤独だ。だが、それと同時にひとりではない。と書くとわかりにくいが、『わたしは目撃者』のアルノとジョルダーニ、『サスペリアPART2』のマークとジャンナ、『サスペリア』のスージーとサラ、最新作の『ダークグラス』でいえばディアナとチン。良きバディがいるのだ。 でも、最後にはひとりになっていく。(という感じがする。) ダリオ・アルジェントの映画はハッピーエンドかバッドエンドかと問われれば、まあハッピーエンドだろう。殺人鬼は死に、主人公は生き残

    • はじめてこの映画を観た日

      もう45年以上前のことだけれど、ダリオ・アルジェントの『サスペリアPART2』を初めて観た日のことは覚えている。最初から最後まで普通ではない映画だった。そしてすごく怖かった。 「おそれ」にはいくつかの漢字がある。恐れ、怖れ、虞れ。その時の気持ちを漢字で書くとおそらく「畏れ」だろう。こわいといっても何か崇高なものに触れたようなこわさだった。

      • 3部作

        ダリオ・アルジェントの映画にはシリーズものはない。だが、後年になってグループ化される作品群がある。監督デビュー作から3作目までは原題に動物の名前が入っていることから動物3部作と呼ばれている。この呼び名はアルジェント本人ではなく、ある映画研究者が便宜上付けた分類が広がったものだ。アルジェント本人は特に3部作にしようという意図はなかった。 魔女をテーマにした魔女3部作も同様で、最初から3部作にしようという構想は無かったと考えられる。『サスペリア』がヒットし、似たようなスタイルで

        • ケーキとアルジェント

          たまたまケーキの絵を描いたので、ダリオ・アルジェントが監督した映画のどこかにケーキが出てこないだろうか、と考えてみたが、なかなか思い当たらない。 ただ、プロデュース作品でランベルト・バーヴァが監督した『デモンズ2』の冒頭にはバースデイケーキが出てくる。 血のようにしたたる赤い液体が実はシロップだったというネタは多分に安直だったかもしれない。 ということで、スイーツとか甘いものはアルジェントの世界観には似合わなさそうである。

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        記事

          竹内まりやの「駅」は過去の恋の思い出を歌った切ない曲だが、ダリオ・アルジェントの映画にも駅が何度か登場する。 『わたしは目撃者』に出てくるトリノ・ポルタ・ヌオーヴァ駅は豪華絢爛な外観を持つ。 『わたしは目撃者』のカラブレージ博士は犯人とこの駅のプラットホームで待ち合わせをする。そして彼は犯人に突き飛ばされて轢死、悲劇的な最期を迎える。 『スリープレス』では売春婦が列車の中で殺される。その列車が到着する駅では売春婦の友人も殺される。彼女の万年筆を拾った男も殺される。 『

          Night Cruising

          ファーストアルバム「OCEAN SIDE」に引き続き、菊池桃子のサードアルバム「ADVENTURE」を聞く。 セカンドアルバム「TROPIC of CAPRICORN」のジャケットは飛行機のコックピットだったが、ファーストと同様、サードアルバムはジャケットが水面に戻り、水に関する曲が収録されている。ファースト、セカンドよりも哀愁を感じる曲が増えたように思う。 「Futari No Night Dive」の曲想に近いのが「Night Cruising」。やはりアルバムの中で

          ふたりのNight Dive

          中山美穂のMidnight Taxiを聞いてからこの当時のアイドルポップスを続けて聞いている。 今日聞いたアルバムは菊池桃子の「OCEAN SIDE」。海をコンセプトにしたシティポップスの名盤である。 収録曲の中でも地味なFutari No Night Diveから受けたイメージを描いてみた。 と言いつつ、やはりダリオ・アルジェントの世界観になっている。

          ふたりのNight Dive

          夜のタクシー

          夜のタクシーというキーワードで何かいい曲はないかと思った。確か中山美穂にミッドナイトタクシーという曲があったな、と思い出し、YouTubeで検索してみた。 彼と喧嘩した彼女が真夜中にタクシーに乗って彼に会いに行くというシチュエーションを歌った懐かしい感じの曲だった。 そんな曲に似合いそうな絵をパステルで描いてみようと思ったのだが、見事に失敗した。 出来上がったのは往年の中山美穂の曲のイメージではなく、むしろダリオ・アルジェントの映画のような絵なのだった。

          夜のタクシー

          傘をささないヒロイン

          ダリオ・アルジェントの映画には雨のシーンがよくある。一番有名なのは『サスペリア』だろうか。続編にあたる『インフェルノ』でも雨が降るし、『シャドー』のラストでも雨が降る。『トラウマ』は雨がテーマになっている。 雨が降れば傘をさすのが日本では普通なのだが、アルジェントの映画に出てくるヒロインたちは傘をささない。雨の中をずぶ濡れで歩くのがアルジェント流のヒロイン像である。 ということで、今回はダリオ・アルジェントの美学に逆らって、最近描いた傘をさした人物のいる絵を並べてみる。

          傘をささないヒロイン

          哀しい殺人者たち

          ダリオ・アルジェントの映画に出てくる犯人は寂しい。彼/彼女らが人を殺すのは私利私欲のためではなく、快楽殺人でもない。 強いて言えば、誰かを守るため、そして自分自身を取り戻すために、人を殺さざるを得ない哀しい人間なのだと思う。 そのなかでも『4匹の蝿』のニーナの人生は哀しい。(と書くと、ネタばらしになってしまうけれど、大丈夫ですね) 彼女の思考、裏の行動は映画の中でははっきりとは描かれていない。だが、映画を見終わった後にでも、映画でははっきりとは描かれなかった時間と空間で

          哀しい殺人者たち

          わたしは相棒

          『わたしは目撃者』のことをダリオ・アルジェント監督自身は好きでないという。だが、個人的には好きな作品だ。 失明した元敏腕新聞記者と若くてハンサムな現役の新聞記者が相棒となって殺人事件の真相を追う。 盲目の元新聞記者アルノー役のカール・マルデンは渋い。彼は主役よりも名バイプレーヤーのポジションが似合いそうだ。 若き新聞記者はジェームズ・フランシスカスが演じた。この二人の組み合わせが絶妙である。

          わたしは相棒

          トリノの黄色い光

          昨年の9月、長男を連れて北イタリアのトリノを訪れた。ダリオ・アルジェントは『サスペリアPART2』など、彼の多くの映画をトリノで撮っている。 ダリオは子どもの頃、父とトリノを訪れ、この街に魅了されたという。整然とした街並み、街を照らす黄色い光‥‥などが印象的だったようだ。おそらく1950年前後のことだろうか。 そして2023年、トリノの街はやはり整然としており、黄色い光が印象的だった。 トリノの街は70年前と同じ光で照らされていた。

          トリノの黄色い光

          怖いエレベーター

          子どもの頃、日本橋の三越にあるエレベーターに乗るのが怖かった。エレベーターのドアには外側のドアとゴンドラ側のドアがあるが、三越のエレベーターは内側のドアが鉄格子のようだったからだ。エレベーターが動くと、ゴンドラの中から直接エレベーターシャフトの壁が見える。それがなんだか怖かったのである。 ダリオ・アルジェントの映画にはエレベーターが何度も登場する。 例えば『わたしは目撃者』『サスペリア PART2』『サスペリア』『インフェルノ』『トラウマ』など、さまざまな使われ方をしてい

          怖いエレベーター

          気が付かなかった絵、叫び

          ダリオ・アルジェントの映画は絵画を参考にして絵づくりがされることがよくある。有名なのは『サスペリアPART2』の広場にあるバーだろう。このバーはエドワード・ホッパーの有名な絵画「ナイトホークス」を参考にしてセットが作られた。 アルジェントの映画を観ていると、そうした有名な絵を参考にしたシーンであっても違和感がなく、そこだけが浮かび上がることはなく、ごく自然に映画全体に溶け込んでいる。 アルジェントの『シャドー』はダリア・ニコロディが演じるアンが絶叫するカットで終わる。実に

          気が付かなかった絵、叫び

          怖いドア

          ダリオ・アルジェントの映画に出てくる窓は怖いがドアも怖い。 ドアの向こうには何があるのだろうか、そして誰がいるのだろうか。隠されたドアを開けて奇妙な空間の中へ進む登場人物たち。 ダリオ・アルジェント監督の『インフェルノ』にも何度かドアが描かれる。こんな怖いドアを開ける勇気があるだろうか。

          悪夢をリアルに描く

          人の見る悪夢というものは時として荒唐無稽である。だから悪夢をアートとして表現しようとする場合、論理性が要求される手段や分野を用いるのは部が悪い。 絵画や音楽で悪夢を表現しても文句を言う人は少ないはずだ。文学ではジャンルによるだろう。 映画の場合、アニメーションであれば悪夢を描いても叩かれにくいかもしれない。ディズニーアニメは夢の世界を描く。 ただ、実写のサスペンス映画というのは伏線の設定や理詰めの展開が要求されるから、リアルさが求められるだろう。 ダリオ・アルジェント

          悪夢をリアルに描く