悪夢をリアルに描く
人の見る悪夢というものは時として荒唐無稽である。だから悪夢をアートとして表現しようとする場合、論理性が要求される手段や分野を用いるのは部が悪い。
絵画や音楽で悪夢を表現しても文句を言う人は少ないはずだ。文学ではジャンルによるだろう。
映画の場合、アニメーションであれば悪夢を描いても叩かれにくいかもしれない。ディズニーアニメは夢の世界を描く。
ただ、実写のサスペンス映画というのは伏線の設定や理詰めの展開が要求されるから、リアルさが求められるだろう。
ダリオ・アルジェント監督『サスペリア』のストーリーの構造は、実は殺人事件の犯人探しをするという謎解きになっている。だから本来であれば緻密な物語構成にしなければいけないはずである。
だが、そんな緻密であるべきはずの実写のサスペンス映画に悪夢を紛れこませているのがダリオ・アルジェントなのだ。
『サスペリア』は実写映画にも関わらず、その映像はアニメーションのようだ。
アニメーションであれば多くの人々が言う荒唐無稽だとか支離滅裂だとかという表現も許される。否、許されるというよりもイメージの飛躍という点でむしろ好ましいのかもしれない。
現実と悪夢の接点をアニメーション映画の世界観で見事に表現したのが『サスペリア』という映画である。