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私のルックバック
私がまだ大嫌いな紺色のスカートをはためかしていたころ
その友人は、その大嫌いなスカートを嫌いだとそう全身で表現していた
口角はいつも下を向いてぎゅっと口をつぐんでいると言うのに
気を許した友人の前ではとろける様に笑う子で
彼女は、毎日毎日絵を描いていた
その緩んだ口元から覗く八重歯を見ることが出来た私は本当は幸せ者だったのね
とそう気付くまでには思った以上に時間が掛かってしまったみたい
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私たちはどこか似ていて、相棒はいつでもノートとペン
周りに誰がいても拭いきれない一匹狼癖がどこ抜けきれず
そんなところが絵を描くと言うこと以上に互いに惹かれ合った理由だったんだと思う
2人揃って互いの耳に開けたピアスは次の日にはあっけなく見つかってしまい
私は、あえなくピアスの穴を埋め
彼女はこっそり隠しながらその穴を守っていた
彼女にとって私はどんな存在だったのか?と言うことなど考えたこともなかったのだけど
私にとっては彼女の存在は決してライバルではなく
ライバルにさえならなかったのだと思う
それは画力とか技量のような目に見えるもので測るようなものではなく
私は彼女の心の中にある何かに魅せられて首一振りで納得してしまった
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彼女に会うまで自分の中の特別なものだったもの
それを彼女の心の中にある何かが、それまで守られて来たアイデンティティをものともせずに崩して行った
誰にでも笑顔を見せるわけではないのその姿が
何かに流されずに自分を貫けるその姿が
そして、絵に対して幼さなどにも負けずに行動して行くその姿が
絵にも人生にも中途半端な気持ちで向き合っていた自分の姿を浮き彫りにされた
当時の彼女は、絵を描くことよりも欲しいものなどないとそれが私の目にも見えずとも分かってしまったから
その熱意が、私のアイデンティティを砕いたのだ
その後の物語は、年頃の人生に流されに流された私はプラスチックのテーブルにわざとらしく置かれた、バスケットに入った味の無い完熟の実の誘惑に負け、なんともありがちで情けない道を辿り
それでも、ペンを持ち続けていた彼女の存在は更に自分をちっぽけにさせた
セパレイトして行った道の先で、私は絵を描くことから離れて行った
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あれから数十年
相変わらずに、あるべきものがない人生
未だ絵と言うかつてのアイデンティティに縋りながら生きている
どこか納得できない気持ちはあの頃と変わらずで煮え切らない
それでも、そんな心が灰色の雲に飲まれそうになる日には思い出す
あの心の中に生涯燃え続けるであろう火の玉
どこかであの火の玉に背中を押されているような気がして
当時の彼女の背中を見る
私は、その心の中にある火の玉を追いかけて行く
今もどこかでずっと永遠に燃え続けている火の玉
まだ、変わらず燃え続けている気がする
だから、今にも消えそうな小さな小さな火でも、一緒に燃え続けていたいんだよ
「ルックバック」
絵を描く私にとっては少し特別感のあるこの映画
この映画の存在を知った時に真っ先に私の脳裏に思い浮かんだのが彼女の存在でした
絵を描くことがないと言う人でも、過去の一部の何か理由を持ったかのようなエピソードの一場面がどうにも湧き出でる水脈のような場所に思えて
そんなシーンに力をもらい生きているなんてことがあるのではないでしょうか?
今、こうして絵を描くことに向き合う日々の中で思うこと
絵を描く理由はシンプルで単純で良いと思う反面
絵を描き続ける理由というものは、少々複雑なものや自分の中の哲学の様なものをいくつか持っている方がいいとそう思うことがよくあります
ーこうだから、自分は描くのだー
と言う自分の心の理由付けの様なものを
私自身はその一つのこじつけに彼女の存在と情けない当時の自分と言うものを選んだのです
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彼女に出会い、運よく彼女の八重歯を拝めた私はいつまでも燃え続ける火を分けてもらっている
そんな気がするとそう自分に言い聞かせて
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