一瞬を、なんてがむしゃらに生きる
ー伊坂幸太郎著 「ホワイトラビット」ー
ーー”伏線” ”軽やかに、鮮やかに。「白兎事件」は加速する。”-- 複数の視点から滑らかに進行する場面展開、秀逸に繊細に張り巡らされた伏線に惑わされる愉しさ。そして、ふと立ち止まったときに、寄り添ってくれる言葉。 / 拙い文章ですが、最後まで読んでいただけると幸いです!
ゆっくりと本が読めないままひたすらに時間が過ぎ去った就職活動が無事に終わり、生活に余裕が生まれ始めた今日この頃、やっと本が読みたいなと思った。外の環境には目もくれず、本の世界に入り込んで没頭したい!そう思いつつ、書店で本を物色する時間は、至福。
そんな中、目に止まった作者さんが、伊坂幸太郎さん。
お名前は聞いたことがあったものの、一度も読んだことがなかった。”伏線” ”軽やかに、鮮やかに。「白兎事件」は加速する。” そんな言葉に誘われて、久しぶりに本を手に取り、読み進めた。
最初に驚いたのは、文章構成。
作中、所々で筆者の立場で語られる場面がある。筆者が本の中で起こっている出来事を悠々と眺めているように、第三者の視点で進行役となり、場面展開が行われるのだ。読者は進行役に導かれ、まるで進行役と共に映画やドラマを見ているかのように錯覚してしまうかもしれない。それほど ”軽やかに、鮮やかに” 物語が進んでいく様子は、私にとってとても新鮮に映った。
そして、”伏線”。
物語の本筋に関わる伏線にはもちろん心を動かされた。自分が描いていた状況を、文章一つでころっと崩壊させられた。しかし、驚かされたのはこの ”伏線” だけでない。登場人物がぽろっと口に出した言葉一つでさえ、後の会話の中ですっと拾われる。大小様々な伏線に惑わされ、遊ばれる そんな状況をまだか、つぎはまだか、と待ってしまう自分がいた。ただ、引き込まれ、愉しい。
「轟々とすごい速さで流れていく時間の中で、そのほんの一瞬の間でわたしたちは生きて、一喜一憂したり、遊んだり、勉強したり、働いたり、恋愛したりするんでしょ。凝縮されているというか、充実しているというか。」 ー本作より
私は、人間一人を、「大河の一滴」という言葉のように、全体の中の小さなひとりと考えていた。
しかし、そのほんの一瞬という時間を生きる人間一人は、その時間を自分の恣に生きようと懸命になる人間ひとりは、かけがえのない一瞬の時間を過ごしている。
そう、感じた。
ひたすらに時間が過ぎ去ったあの時間も、自分のことをやっと気にかけたこの時間も、とても愛おしい。
これからも、きっと、時間は轟々と、私たちを顧みず進む。
だけど、ふと立ち止まり、過ごした時間を見つめなおしたとき、この本をもう一度読めたらいいなと思う。