BtoGビジネス拡大に向けた具体的アプローチ
近年、公共機関との取引を指すBtoG(Business to Government)が、注目度を高めています。これまで、公共事業と言えば大企業が手掛ける大規模なインフラ整備などがイメージされがちでした。しかし、行政や自治体が求めるサービス内容は多様化しており、中小企業やスタートアップが得意とするIT技術や独創的なソリューションを活かす場面が広がっているのです。その結果、「BtoGビジネスの門戸が大企業だけに開かれたものではない」という見方が浸透しはじめ、BtoG案件への参入を検討する企業が増えています。
公共領域へのビジネス参入は、「行政手続きが煩雑」「入札の競争が厳しい」などのハードルもありますが、一方で、長期的な契約関係や信頼性、実績づくりにおいて大きな魅力があることも事実です。こうした背景から、BtoGビジネスを「攻めの経営戦略」として位置付ける動きが増えているのです。
このnoteでは、BtoGビジネスへの関心が高まる背景や、その基本的な概要をご説明します。toGビジネスを検討している方や、BtoB、toCとの違いを素早く理解したい方にピッタリの内容になっています。
1. BtoGとは? その基本と注目される背景
1-1. BtoGビジネスの定義と広がり
BtoG(Business to Government)は、企業が国や自治体、その他の公共機関に対してモノやサービスを提供するビジネスモデルを指します。具体的には、行政システムの開発や導入支援、公共施設の管理運営、教育・医療機関へのシステム提供など、多岐にわたる領域をカバーします。
以前は、国のインフラ整備や大規模公共事業の落札を目指す大手ゼネコンや大手ITベンダーが中心でした。しかし、近年は行政需要の変化に伴い、クラウドサービスを活用した庁内業務のDX化や、スマートシティ構想に関連するIoTサービスの提供、その他各種事業の外注化が進んでおり企業規模に関わらず参入の可能性が拡大しています。
1-2. BtoGが注目される背景
BtoGが近年注目される背景としては、大きく以下の3つが挙げられます。
行政サービスの高度化・効率化ニーズの高まり
人口減少や少子高齢化、税収不足といった行政を取り巻く課題が深刻化する中で、行政サービスの効率化やデジタル化は避けられないテーマです。行政内部の業務プロセスを見直すためのITソリューションや、オンライン手続きなどのサービスを導入する流れが加速しており、その波及効果は大きくなっています。行政DXの推進(政府のデジタル庁設立や地方自治体の取り組み)
2021年9月にデジタル庁が設立されて以降、行政DXが一気に注目を集めています。マイナンバー制度の活用促進、自治体業務のクラウド化、ガバメントクラウド構想など、広範にわたる取り組みが進展中です。ベンチャー企業などの新しい技術やアイデアを採用する姿勢も打ち出されており、官民連携が当たり前の時代へと変化しているのです。社会課題解決と公共サービスの質的向上
行政は、社会課題の解決に向けて継続的に取り組む義務がありますが、そのためには新たな技術や手法が不可欠です。そして、実際の行政の現場ではこれらに取り組むリソースが不足しています。環境保全、防災、教育、福祉など、幅広い領域で課題が山積している一方で、それらの課題はビジネスチャンスでもあります。とくに、地域創生や地方活性化を掲げる自治体にとって、斬新なサービスやソリューションを求める姿勢が強まっていることが、参入の後押しとなっています。
1-3. BtoG参入のメリットと課題
行政や自治体へのサービス提供には、一般の民間取引とは異なるメリットと課題があります。
メリット
契約期間が長期に及ぶケースが多く、安定的な収益を期待できる
公的機関との取引実績は信用力を高め、次なる商談や企業アピールにつながる
大規模プロジェクトの場合、技術発展やノウハウの蓄積が見込める
課題
入札やプロポーザルのための手続きが複雑で、準備に時間とコストがかかる
契約条件や支払いサイクルなど、一般的な民間取引と大きく異なることがある
関係法令や規制の理解、行政担当者とのコミュニケーションが不可欠
こうした特徴があるため、BtoGビジネスへの参入を計画する場合は、入札要件や行政の事業計画への深い理解が必須といえます。一方で、競合が比較的少ない領域や自治体ごとの独自ニーズを満たす領域を狙えば、中小企業やスタートアップにとっても十分に勝機があるのです。
2. BtoGビジネス拡大に向けた具体的アプローチ
BtoGビジネスで具体的に成果を上げていくためには、入札への対応はもちろんのこと、行政の構造的な意思決定プロセスやステークホルダーの動向を把握し、案件獲得から契約履行、フォローアップまでの一連の流れを最適化する必要があります。以下では、効果的なアプローチや具体的な実行手法について解説します。
2-1. 事前情報収集とニーズ把握の重要性
BtoGビジネスでは、公共機関のニーズを的確に把握し、それに合ったサービスを提供することが重要です。一般企業向けのマーケティングリサーチとは異なり、行政側の予算要件や法的義務、政策目標、将来的な地域戦略などが要素として絡み合います。
たとえば、ある自治体が子育て世代向けの事業を強化しようと考えている場合、次年度の予算編成に合わせて関連する補助金や事業の概要が公表されます。こうした情報は自治体のHPや議会資料に掲載されるため、公開情報をくまなく収集し、重点的なサービス展開を見極めることがカギになります。
例えば、令和7年度(2025年度)の予算は、令和6年10月ころに本格化し、令和7年1月に財政当局及び首長の審査が完了し、執行部として議会に提出する予算案の内容が確定します。予算案の内容が確定すると、主要事業を中心に予算案の説明資料(ポンチ絵)が公表されます。
東京都の場合、令和7年度予算の知事査定は1月10日(金)~1月17日(金)に実施されるようなので、その後に予算案の説明資料が公表される可能性が高いです。
参考URL(事例に関する情報源)
東京都「令和7年度予算」:https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/zaisei/yosan/r7
2-2. 入札制度の理解と提案書作成
BtoG取引の大きな特徴は「入札制度」による公正な競争です。
官公庁の契約は「一般競争入札」による価格競争ですが、調達案件の条件によっては「指名競争入札」や「随意契約」の場合もあります。
特に、昨今増えているDXに関する取組みや、行政事務のBPOに関する業務は、プロポーザル方式(企画提案競技)による場合が多いです。
入札案件に参入するにあたっては、以下の手順で進めることが一般的です。
入札参加資格申請
入札に参加するためには、あらかじめ申請し入札参加資格者名簿に登載されておくことが求められる場合が多い。
資格審査には期間を要する場合があるので、注意が必要。入札公告の確認
官公庁や各自治体が運営する入札情報サイトをこまめにチェックする。
有料だが、NJSSなど各発注者の入札情報を集約したサービスもある。入札資格・仕様を把握
地方公共団体が独自に定める参加資格要件(経営事項審査や財務状況、過去実績など)を確認し、必要な書類をあらかじめ用意する。
仕様を基に自社にとっての採算性、材料・人の手配等業務遂行可能性を確認しておく。入札(一般競争入札・指名競争入札・見積もり合わせの場合)
指定された期限までに入札または見積書を提出する。提案書の作成(プロポーザルの場合)
行政特有の課題や指針を踏まえたうえで、解決策・手法・体制・実績・予算などを整理し、構成を明確にした提案書を作成する。提案書内には費用対効果やリスクマネジメント、納品計画なども盛り込み、行政担当者にとって“メリットが分かりやすい”内容が望ましい。
特にプロポーザルは、案件公示から提案書提出期限まで数週間程度のことが多い。可能であれば、予算案の公表資料から発注見通しを予測するなどしたい。
参考URL(事例に関する情報源)
「調達情報ポータルサイト」(総務省):https://procurement-soumu.go.jp/
「入札情報サービス」(NJSS):https://www2.njss.info/
2-3. 契約前のコミュニケーション
受注前でも、行政にアプローチをかけることは可能です。確かに発注先の選定は入札やプロポーザルになってしまいますが、受注前から特定分野の有識者・実務者として事業提案することも実は有効です。
(この辺りは、別noteで取り上げます)
2-3. 契約後のコミュニケーション
提案書が優れていても、行政担当者とのコミュニケーションが不十分だと、細かな要件を理解しきれずに提案のポイントがずれることがあります。特に、BtoGでは「言葉遣い」「手続きの進め方」「成果物のフォーマット」など独自の慣習があります。
ヒアリングを丁寧に行う
仕様や成果物の詳細などは、実際に担当者に確認してみないとわからない場合が多いです。例えば、保健医療部門が健康増進プロジェクトのためにアプリ開発を発注する場合、行政担当者はアプリに関しては全くの素人である場合がほとんどです。
一方での「あたりまえ」が他方ではそうではないことがあります。そのため、入札時は定められた方法で質問票を提出したり、落札後にはヒアリングやキックオフの会議を設定するなどすることが有効です。共通言語化と契約管理
行政担当者の職務は多岐にわたり、担当者自身も複数の業務を掛け持ちしているケースが少なくありません。また、上述のとおり、発注内容に関して十分な知見を有しているとも限りません。そのため、プロジェクトのゴールを共有し、定期的なミーティングを設けるなど、共通言語を築く取り組みが成功の鍵となります。
3. BtoG市場におけるパートナーシップ戦略
BtoG案件を安定的に受注し、継続的に成果を上げるためには、単独で動くよりも専門知識を持つ企業やコンサルティングファームと連携することが効果的です。各主体の得意領域を掛け合わせることで、より競争力のある提案が可能になります。
3-1. パートナーシップの形態
共同企業体(JV:ジョイント・ベンチャー)
入札要件として、特定の事業規模や過去実績が求められる場合があります。そこで、複数企業が共同企業体を組成し、役割分担を明確にして入札に参加する事例は多いです。業務提携・協業
入札ではなく、行政との直接契約や補助金活用事業の場合、業務提携契約や協業契約を結んでプロジェクトを遂行することがあります。例えば、IT企業と建設会社が協業して、スマートシティにおけるデータインフラ整備を自治体に提案するといったケースです。参考URL(事例に関する情報源)
「JV(共同企業体)に関するガイドライン」(国交省):https://www.mlit.go.jp/common/jv_guideline.pdf
3-2. パートナー選定時に重視すべきポイント
専門分野や実績
公共事業への参入経験があるか、特定分野の専門性を持っているかが重要です。過去の公共案件での実績が、入札や提案時の信頼度を高める大きな要素になります。契約条件・利益配分
パートナーと連携する場合、成果物の責任範囲や契約上のリスク、利益配分はあらかじめ明確化しておく必要があります。特にBtoG案件では契約期間が長く、途中で要件変更が発生する可能性もあるため、相応の柔軟性を担保しつつ、契約書で合意事項を整理しておきましょう。
3-3. パートナーシップのメリット
総合力の向上
行政が求めるソリューションは多方面にわたるため、各社の強みを掛け合わせることで総合力が高まります。リソース負担の軽減
人員や資金などを単独で抱え込むより、複数企業で協力することでリスク分散が図りやすくなります。継続的な協業関係の確立
一度成功事例を作ると、以降の案件でも同じパートナーで提案ができるなど、継続的な協業体制が築きやすくなります。
4. BtoGビジネスの将来展望と取り組み姿勢
最後に、今後のBtoGビジネスの展望と、企業がどのように取り組むべきかを整理します。少子高齢化や地方創生、災害対策など、日本の社会課題は今後も多く存在し続けるため、その解決を担うBtoGビジネスには大きな成長余地があります。
4-1. 政府・自治体のデジタル化推進の加速
デジタル庁設立以降、自治体システムの標準化、クラウド化、マイナンバーの活用促進など、横断的なDX推進が進んでいます。さらに、デジタル田園都市国家構想のもと、地方のデジタル化も急速に進む見込みです。この流れは、ITサービスやDXコンサルティングを得意とする企業にとって、大きなビジネスチャンスとなるでしょう。
4-2. 社会課題への対応とイノベーション
地域医療、教育の情報化、防災・減災システム、環境対策など、行政が対応を迫られるテーマは多彩です。そこに民間企業の持つ技術や独自のアイデアが融合することで、新しい公共サービスのあり方が生まれています。既存の枠組みにとらわれず、社会課題解決を目指すスタートアップや中小企業の参入が増えれば、行政サービス自体の質的向上も期待されます。
4-3. 成果志向と持続可能なビジネスモデルの構築
行政との取引は、成果物を納めたら終わりではありません。サービス導入後の定期的な効果測定や、追加要望への対応、システムのアップデートなど、継続的なフォローが求められます。こうした運用・保守やコンサルティングを含めた長期契約を視野に入れることで、企業としても持続的なビジネスモデルを築きやすくなります。