国・自治体の予算・事業の決まり方
国や自治体の予算は、社会福祉やインフラ整備、教育、経済振興など、多岐にわたる分野を支える重要な財源です。そして、限られた財源をどのように配分するかは、各組織が重視する政策課題や目標を色濃く反映します。
この「予算構造」と「政策の優先順位」は、行政にサービスや製品を提供する企業にとって単なる外部要因にとどまりません。政策動向・予算動向を把握することは、自社が案件を受注する可能性を広げることに強く関連しています。
BtoGへの参入を検討している企業の方々にとっては、行政で予算が編成されていく過程・事業の軽重が決まっていく論理を理解することで、「行政に刺さる提案」をすることができるようになります。
この記事では、案件獲得につなげる視点で、国・自治体の予算構造や政策の優先順位が企業活動にどのような影響をもたらすのかを整理していきます。
1. 国・自治体の予算構造の基礎
1-1. 国の予算編成とその仕組み
国の予算は大きく「一般会計」と「特別会計」に分かれます。一般会計は、歳入(主に税収)と歳出(社会保障や公共事業、防衛費など)を包括的に管理する枠組みであり、国家運営に欠かせない主要事業が集約されます。一方、特別会計は国債や年金といった特定目的の事業や財源を切り分けて管理する仕組みです。
国の予算編成は、毎年度編成される「当初予算」と、随時編成される「補正予算」に分けられます。
当初予算は、4月~翌年3月までの執行分を「●年度当初予算」として編成し、毎年1月に開会する通常国会で審議・議決を経て成立します。これに加えて、例えば選挙により内閣改造が行われたりしたタイミング等で、新内閣の政策方針を反映させるために「●年度第●次補正予算」が編成されることがあります。
毎年度の予算額は、基本的に各省庁が事業量等を見積った結果を積算して作成されます。省庁内での配分額調整を経たあと、予算書として財務省に提出し、各省庁と財務省の折衝を通じて行政府としての予算案が閣議決定されます。閣議決定された予算案は国会審議を経て議決されることで、予算が成立します。
予算の内容は、行政府として国会に提出する内容が確定する段階、すなわち閣議決定後に説明資料等が公表されることが通例です。これらの資料を確認することで「その年にどの政策に力を入れるか」がわかります。
これは企業サイドが「将来的に行政による事業化を見込める分野」を掴むうえで重要です。
「こういう事業をやれば社会課題に合致し、国のメリットになる」という提案を行う際、各省庁の施策目標との親和性や、国の政策が向かう方向性を理解しておく必要があります。
自社の提案内容が国の大目標に寄り添っているほど、予算化・事業化される可能性が高まるからです。
1-2. 地方自治体の予算構造
地方自治体の予算は、国の交付金や地方税、地方債などによって成り立ちます。
自治体によって人口規模や産業構造が異なるため、財政力には大きな差があります。大都市圏や大企業の所在地では豊富な自主財源を背景に独自施策を打ち出す余裕がある一方で、地方の過疎地域では国の交付金・補助金に依存するケースが多くなります。
地方自治体の予算編成は、国と同様に毎年度1年分の「当初予算」と随時編成される「補正予算」に分けられます。
地方自治体の補正予算は、国の補正予算の編成状況に大きく影響を受けます。例えば国が補正予算で新規事業を創設し、その事業の実施主体が地方自治体の場合、地方自治体でも国からの補助金等を原資とした当該新規事業のための補正予算編成が必要になるためです。
企業が地方自治体に政策提案する際には、「自治体が抱える課題」と「財源の確保方法」を考慮することが重要です。新規事業にあたってその財源の確保が特に国の新たな交付金制度や地方創生支援策を活用すれば、企業提案を基に事業化できる可能性があります。逆に、財政余裕のある自治体は、独自予算を組んで新規事業を採択しやすいという特徴があります。
2. 政策の優先順位とその決定プロセス
2-1. 政府・自治体の政策立案フロー
政策決定には、法律に基づき大きな政策目標や計画がまず設定され、それに沿って各部門が具体策を立案し予算を確保する形が一般的です。
行政の政策は各分野について3~10年を区切りに「計画」が策定され、この計画に沿って事業の創設・改廃が行われることが一般的です。
例えば、こども家庭庁の所掌分野では、国が策定した大綱・ガイドラインを基に各都道府県が「都道府県こども計画」を策定し、市町村が「市町村こども計画」を策定することになっています。
この「こども計画」に記載された政策目標を実現するために、こども家庭庁及び自治体において様々な事業が展開されているのです。
また、毎年の予算編成の方針は、国の場合「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる「骨太の方針」と呼ばれるものでその時々の政策・予算編成の方向性が示されます。
「分野ごとの計画」「骨太の方針」のほか、国会での答弁、大臣等の発言、各種委員会の状況等を総合的に勘案して、事業の継続・創設・改廃が検討され予算が編成されていきます。
企業がこうした予算編成の流れに関与する余地としては、「行政側が想定していない新たな手段や技術」を提案し、政策目標を実現するうえでの有効策としてアピールすることが挙げられます。
各種計画に取組みの方向性が示されているものの、まだ具体的な事業が展開されていない段階であっても、説得力のある政策提案が受け入れられれば、予算化が検討され、次年度以降の事業として正式に動き出す可能性が出てくるのです。
2-2. 政治的要因と世論の影響
政策は各分野の計画を基に決められていくと述べましたが、その優先順位は、政治的判断や世論の高まりによって大きく左右されます。
選挙前には社会福祉や子育て支援など国民受けしやすい分野に注力される一方、災害やパンデミックなどの緊急事態が起きれば、防災や医療関連の予算が急増することもあります。
企業が政策形成段階に入り込むタイミングとして、世論の強い高まりが起こったときや緊急対応の必要がある状況になったときが挙げられます。
行政が対応を迫られているタイミングで、問題解決の方法、事業全体の路地ティクスを情報提供することが有効です。情報提供を通じて自社に有利な参入要件を設定することに成功すれば、案件獲得が大きく近づきます。
イレギュラーの話で恐縮ですが、新型コロナウイルス感染症流行期には、感染症対策として様々な事業に予算がつき、全国の自治体で大急ぎで予算編成・委託先選定を行う必要に迫られました。消毒液及びスタンドの設置、補助金事務局の設置、新型コロナ専用コールセンターなどが思い出されます。
こうしたタイミングでは「緊急性」を理由に、入札を行わない「随意契約」で事業者選定が行われた場合もあるでしょう。随意契約は案件の公示が行われませんので、受注に漕ぎつけたのは早期に行政の委託ニーズを察知し、事業提案できた事業者ということになります。
この点では、日ごろから足を運んだりして関係構築しておくことも無駄とは言い切れないと言えます。
まとめ
国・自治体の予算構造や政策の優先順位を理解することで、今後予算化されそうな事業をいち早く把握し、自社のアイデアを提案するチャンスが広がります。
受け身で入札に参加するだけでなく、計画策定や政策立案の初期段階から能動的にアプローチし、社会課題を解決する具体策を示す「攻めの姿勢」が重要です。
行政の計画・骨太の方針・答弁などから政策動向を読み取り、自社と親和性の高い領域を見極めたうえで、政治的・世論的に注目度が高いタイミングで提案を行うことで、プロジェクト化・予算化につなげる可能性が高まります。
行政の事業は「計画経済」ではないですが、ある程度調べることで見通せることがお分かりいただけたでしょうか。
次回は、行政のニーズを察知した後でどのような提案活動をすべきか解説していきます。