行政の「縦割り」にムカついたあなたへ
行政機関とビジネスしている方にとって、行政内部での「調整」にイライラするこ都があると思います。行政には民間企業とは異なるガバナンス・縦割りの組織構造があり、関係部署が増えれば増えるほど意思決定に時間がかかり、最終的に合意形成が難航することがあります。
しかし、この「行政内部の調整」を正しく理解し、縦割りを超える合意形成のポイントを押さえることで、BtoGビジネスを円滑に進める可能性が格段に高まります。
本記事では、行政独特の縦割り構造や合意形成プロセスを解説しながら、起業家が取り組む際に押さえておきたいポイントや成功・失敗事例を紹介します。自社のサービスや製品を行政に導入したいと考えている方は、ぜひご一読いただき、BtoGビジネスを加速させるヒントにしてください。
1. 行政内部の調整が必要となる背景
1-1. 社内での合意形成との違い
多くのビジネスパーソンにとって、日常的に「社内での合意形成」を行うことが当たり前です。
特に、組織構造として比較的フラットな中小企業やスタートアップであれば、役員や責任者の意思決定がスピーディーに行われ、ある程度のトップダウンでプロジェクトを動かすことも可能でしょう。
一方、行政は多層的かつ階層的な組織から成り立っています。さらに、意思決定プロセスには首長以下執行部の職員だけでなく、議会や住民・世論などが関与する場合もあります。そのため、合意形成に至るまでのステップが民間より複雑です。
1-2. 行政が抱える縦割り構造の要因
行政における縦割り構造は、主に以下の要因によって生じています。
事務分掌の存在
行政職員は、法や条例で定められた業務をそれぞれの部課所で担っています。業務区分が法律レベルで定義されているため、部署ごとに責任範囲が明確に区切られやすくなります。組織の大規模化とセクショナリズム
職員数や所管業務が膨大であるほど、一つの部署だけで完結できる仕事は限られます。その結果、担当範囲を細分化し、各部署が「自分たちの職分」を守ることに意識を集中しがちです。公務員の評価・給与制度
形式的な側面以外にも縦割り構造を増長させているのが公務員の評価・給与制度です。公務員は基本的に仕事が増えることを嫌います。新たな業務を追加で担当することになっても、すぐに給与に反映されることはないので「コスパが悪い働き方」になってしまうからです。こうした意識から、「前向きに協力する」スタンスではなく「なるべく関与せずに済む」方向で考える公務員が一定数いるのが実情です。
こうした背景を理解していないと、単に担当部署に営業をかけるだけでは話が進まず、いつの間にか別の部署にも説明が必要になり、最終的に時間と労力ばかり消費してしまうこともあります。
2. 縦割り組織を超えるためのアプローチ
2-1. 関係部署のマッピング
行政内の合意形成をスムーズに行うには、事業担当者とともに「このプロジェクトに関与しそうな部課所はどこか」を丁寧に洗い出すことが最重要です。
例えば、スタートアップが自治体と連携して健康支援アプリを導入したい場合、住民の健康増進を所掌する「健康推進課」、自治体の情報セキュリティを所掌する「情報政策課」、自治体のSNS・アプリ運用を所掌する「広報課」など複数の部課所が関与することがあります。
それぞれの部課所が抱える利害を早期に把握することで「どうやっても了解を得られない」などの想定外を減らすことができます。
加えて、自治体によっては市民サービス向上の一環で「行政改革推進室」など縦割り打破に取り組む専門部署を置いているケースもあるため、そういった部署を入り口にして横断的な調整をサポートしてもらうのも有効な戦略です。
いずれにしても、行政内部の調整は、事業の担当課を経由して行うことになります。事業受託者としては、担当課に適時調整を行ってもらえるよう事業工程を細分化し、懸念事項をきちんと共有することが調整の第一歩となります。
2-2. 合意形成を進めるためのステップ
行政内部の合意形成を進めるうえでは、下記のステップを意識することで効率化が期待できます。
初期ヒアリング
まずはメイン担当部署との面談を通じて、対象事業に関連しそうな部署や論点をヒアリングします。ここで懸念事項を一括で拾い上げることが重要です。また、行政には「そんなこと聞いていない教」の方もいますので、関係がありそうであれば情報提供レベルの意味合いでも関係課所に含めておくと、遠回りのようでも結果的に近道です。関係部署への同時アプローチ
個別に説明してまわるより、可能な限り一度にまとめて打合せする場を設定するのが望ましいです。部署ごとの意見を同時に確認できるため、その後のすり合わせが大幅に短縮されます。ただし、その前に行政側に担当者レベルで最低限のすり合わせ・根回しをしてもらっておくことが良いでしょう。
関係者への依頼事項の明確化
事業課以外の部課所の協力が必要な場合、各規定の充足状況、関係課所職員の工数を事前にクリアにして説明することが重要です。言葉は悪いですが「彼ら・彼女らにとってなるべく面倒でない」ようにするということです。首長や議会を視野に入れた情報提供
自治体内で「目玉」とされる事業は、首長の選挙公約と関連していたり議会の注目度が高い場合があります。そのため、事業担当課が方向を了承しても鶴の一声で方針転換・ペンディングが起こる可能性があります。早い段階から首長や議員へのレクチャー可能性を想定し、担当課に対し必要な資料や説明を提供しておきましょう。
3. まとめ
行政内部の縦割り構造を前にしても、事業者側がしっかりと関係部署をマッピングし、合意形成に必要な手続きを見据えたアプローチを取ることで、BtoGビジネスをスムーズに進めることは可能です。
特に、事前に多角的なヒアリングを実施し、懸念事項をまとめて解消する仕組みを作っておくことが成果への近道となります。