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誰にも会わない旅。4日目。【午後】



車窓から見えてくるのは海と霧。

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東北本線の小牛田駅で石巻線に乗り換えて女川駅を目指した。


震災後に東北出身である母親の友人が石巻に住んでいるので、付き添いでお見舞いに行った。その時に相手が石巻〜女川一帯を車で案内してくれたのでそれ以来だ。

当時でも震災から2年は経っていたが土地の傷は生々しく、地元の人から直に聞く被災状況は想像を越えていた。自宅の二階まで津波が来た話、流れ出た端材で火事が何日も続いた話、泥棒が来て寝れない話、不可思議現象多発で道路が通行禁止の話など。

石巻の3月は仙台より寒く雪も降るので、あの日は夜を越せずに亡くなる方も多かったらしい。戦争体験者でも味わった事のない厳しい日々。電気ガスを当たり前として頼っていると災害時には命も維持できなくなる怖さ。


通り抜ける海沿いの地区は廃車になった車が高く積み上げられ、黒く煤ける小学校には亡くなった人数の卒塔婆が立てかけてある。周辺の家が流された跡地には花と線香と供養塔が置かれて、本来は団らんもあったろう自宅の基礎がそのまま墓となっている何とも寂しい光景。

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母親の友人は久しぶりなので写真を撮りたいと言い出したので観光名所のサン・ファン・バウティスタ号まで車で行って並んで撮った。そのまま女川に向う。


当時の女川は想定外の高い津波が来た為に頑丈なコンクリートビルが基礎から抜けて横になるという見た事もない状態だった。20m以上はある高台の病院入口まで水が上がって来た印が柱に残っており低い位置にある町はひとたまりもない。

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今回、女川駅まで行くのは7年ぶりになる。温泉も併設されている新しい駅は建築家 坂茂氏のデザインでウミネコがモチーフだそう。建物は海側を向いて潮風を受けている。

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駅前からは、まっすぐ下って海が見えるショッピングテラスが並ぶ。もとの街の姿を知らないのでお洒落なテラスは観光用なのか地元の方も利用するのか分からないが、まだ馴染んでいない感じも受けた。港が近いのでお洒落なカフェ飯より、気軽にサンマの焼定食をバクバクモリモリ食べたかった。海鮮丼も良いけれど旅先で生ものはなるべく避けたい。

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テラスを離れて高台の病院に行く。震災関連の写真展が2階のホールに展示されているらしいがコロナ対策で中止になっていた。病院の正面の津波の高さを知らしめる印は柱にそのままで、以前は駐車場にあったプレハブ商店は無くなっていた。ここに居た店のお姉さんはどこにいったのだろうか、あの日の朝の海は特別な美しさがあったという話をしてくれた事を覚えている。海を望む位置には新しい津波モニュメントが建っていた。

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阪神大震災の体験者にも前兆として、いつも見ている海や空が特別美しく見えたという話をいくつか聞いた。本当に美しかったというより、通常と違うわずかな変化を“美”という形で感受性が受け取ったのだと思う。人の兆しの受け取り方は様々で不思議だ。

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震災遺構で、唯一残るのは『旧女川交番』であるが、夏草でぼうぼうになっていた。原爆ドームもそうだけど遺構を残すのにどこまで整備の手を入れるのかは素人には判断がつかない。キレイ過ぎると事実と違うのだろうし…難しい。

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後は時間は限られているが『石ノ森萬画館』に寄る。行きのタクシー運転手の話では街の中心が駅側からイオンモールに移ってしまった事をずいぶん嘆いていた。観光客以前に住民が昔ながらの商店街を利用しないので復興しても客が来ないらしい。イオンモールが旧商店街に取って代わるのは全国どこでも起こっていて、うちの田舎も同じだ。そもそも親世代(70以上)が商店街の付き合いをしなくなっている。テレビに出て来る東京の食べ物が欲しいのだ。田舎に帰ると少ない局のテレビは常に都会のデパ地下の情報ばかりを垂れ流して地元の店には誰も振り向かない。そこへ災害が来たら先々が見込め無いので復活は難しくなるのは仕方ない。すっかりどこでもイオンモールが中心で、建つ場所もいつも絶妙である。天才マーケッターでもいるのだろうか。


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『石ノ森萬画館』は旧北上川の中州にある。すぐ隣にある『旧ハリストス正教会教会堂』はタクシー情報によると津波で流されたので再建されたものらしい。震災前に一度入った時は、日本人イコン画家・山下りんの絵があったのだが失われてしまったか。柔らかい絵だったのをぼんやりと覚えている。川崎市民ミュージアム水害の件を考えると貴重な資料を管理する建物が水辺の側では災害時に取り返しがきかないので恐ろしい。中州も昔より地盤が下がったような気はするが、それでも萬画館の建物はよく残ったと思う。



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いまは正面には仮面ライダードライブの『トライドロン』が展示されていて、赤いボディがカッコいい。館内の仮面ライダーのマスクがずらっと並ぶのは壮観。造形が美しいのでもっと評価されても良いくらい。

観覧は無料のエリアと有料ゾーンに別れていて、企画展はコロナで開催時期が今になった『はじめの一歩』原画展だった。森川ジョージ先生のプロ生原稿は線が生き生きしてまったくもっての手描きの凄みよ。漫画家先生の展覧会は最近各地で開催されるが、各出版社でギャラリーを併設して定期的にやればいいと思う。プロの凄さも分かるし漫画の原稿は見る機会が少ないので良いアイディアではないだろうか?全部は読めていないので、はじめの一歩128巻は時間と余裕をもって追っつけ読みたい。

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萬画館によせられた各漫画家の色紙が並ぶエリアは他人のキャラを描く人描かない人と分かれるようだ。その中でビック錠先生の色紙は絵もバランスも素晴らしかった。まさに上手ンめェェ〜!って感じである。

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駅で009に見送られる。遠いといつも駆け足になるので今度はゆっくりと金華サバを食べにきたい。見たい場所を探訪するにはあまりにも時間が無いが、何で無いのかはいつも分からない。


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ブルーインパルス(松島基地)の蒼い機体が空を飛ぶ度にこの土地も一緒に思い出すのだろう。


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